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【本編完結】 少女だけの部隊を率いたのは魔を狩る者と恐れられた男だった  作者: 犬尾剣聖


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9 ゴブリン兵









 俺の読みだと敵はゴブリンが一個か二個分隊程度。

 もしかしたら小隊規模でここに駐留していて、残りの分隊は偵察に行ってる可能性もある。


 だから奇襲攻撃を掛けて一気に殲滅せんめつ、捕らえられていると思われる女性を救って、敵の増援が来る前に撤退する。

 これが最善か。


 やはりパッチウルフの時とは大違いで、少女らの緊張がピリピリと伝わってくる。

 ただ、約一名はいつもと変わらんな。


「ボルフ軍曹、どうしたのにゃ?」


「うん、ミイニャは凄いなと思ってな」


「やったにゃ、軍曹に褒められたにゃ」


 何度考え直しても、こいつが兵長とか間違ってるという結論にしかたどりつかないんだが。


「良し、作戦通りに行くぞ。マクロン伍長は正面から、俺達は左翼から行く」


 ただボルトが少ない。

 それに女性を救出の為に村に入ることになるから、接近戦も避けられない。

 これは負傷者が出てもおかしくない。

 出来れば一人も死なせたくないんだが。


 マクロン分隊をこの場に残して、俺達分隊は左側の草の中を低い姿勢で進んで行く。


 作戦は単純だ。

 正面からマクロン隊が攻撃している隙に左翼から俺達が出来るだけ近づき、時を見計らって攻撃。

 敵が混乱したところへ突撃を掛け、納屋から女性を救出してすみやかに撤退。


 流れ的にはこんな感じだ。

 正直言って俺は作戦とかはどうでも良い。

 いつもなら突っ込んで行って暴れまわって終わりだ。


 だが今回は新兵で女だ。

 非常に気をつかう。


 俺達の配置場所まで到着したところで手を振って合図する。


 そこでマクロン隊がゆっくりと道沿いの茂みの中を進みだす。


 しばらく進んだところで、隊列を横に広げる。

 クロスボウの斉射が出来る隊形だ。


 その横隊のまま、さらに村に接近していくのだが、入り口の見張りゴブリン兵は全然気が付く気配がない。


 おいおいマジかよ。

 こいつらゴブリンの中でも相当士気は低いな。


 両手を頭の後ろに組んで、呑気にあくびをしてる。


 遂には距離が30メートルまで接近したところで動きがあった。


 ゴブリン兵の一匹が正面を見始めたのだ。

 逆光で良く見えないようで、手を目の上にかざしている。


「放てぇ!」


 そこでマクロン伍長の声と共にボルトが一斉に放たれた。


 10本のボルトはシュルシュルと空を切り、見張りのゴブリン2匹へと突き進む。

 

 放たれたうちの2本が、1匹のゴブリンの腹と足に命中。

 ゴブリン兵が悲鳴を上げてその場にうずくまる。


「ギギャアアッ」


 もう一匹のゴブリンは無傷だが、一瞬何が起きたか解からないようで、その場に立ち尽くしてキョロキョロする。


 マクロンが装填急げと指示を飛ばす。

 

 そこで何を思ったのか、無傷のゴブリンが槍を手にして走り出した。


 マクロン分隊に向かってだ。


 走りだしたゴブリン兵とマクロン隊までの距離は約30メートル程。

 クロスボウのボルトの再装填には、装填器具を使っても彼女らは一分弱は掛かる。


 どう考えても間に合わない。


 槍を持って走るゴブリン兵は、間違いなく再装填前に彼女らに襲い掛かる。


 俺は背負っていた自分のクロスボウを構える。


 くそ、遠すぎるし敵は動いている。

 こりゃ当たらねえな。

 そう思いながらも狙いを定める。


 だが、予想しないことが起きた。


 それは必死で再装填している最中のはずのマクロン隊の中から、一発のボルトが放たれたのだ。


 そのボルトは槍を振り上げたゴブリン兵の腰の辺りに命中し、ゴブリン兵は「ギギャッ」と悲鳴を漏らしながら激しく転倒した。


 射ったのは金髪のメイケだった。


 そうだ、『メッケ式』のクロスボウの事をすっかり忘れていた。

 メッケ式なら誰よりも装填が早い。


 いつも集団行動で再装填している為、一人が早く装填し終わっても意味がなかった。

 しかし、ここにきてその装填速度がモノを言った。


 普段は目立たないメイケだが、今は一番輝いている。皆の視線がメイケに集まる。

 あ、顔が赤いぞ。


「良し、よくやった金メッケ」


 俺は小声でつぶやいた。


 射ったメイケは命中したことに驚いているようだ。

 そういえば彼女は標的に当てる事は、それほど上手くはなかったな。

 

 それに普通新兵とかだと走り込んでくる敵に恐怖し、大抵当てることが出来ない。

 それなのに、この状況で命中させたのは褒めてやりたい。

 

 ただ、それで戦闘が終わりのはずもなく、村の家々から槍を持ったゴブリン兵が次々に出て来た。

 

 マクロン伍長が二射目の号令をかける。


「放てぇ!」


 10本のボルトが村へと吸い込まれていく。


 ちょうど家から出て来たゴブリン兵にそのボルトが突き刺さる。

 命中した箇所はコメカミだ。

 ゴブリン兵はその場に崩れる様に倒れた。


 少し遅れてメイケがボルトを放つ。

 それは目の前で腰を抑えているゴブリン兵に対しての止めだった。

 本来ならば剣で止めは刺すのだが、それは出来なかったようだ。


 三射目を放った辺りで、敵はマクロン隊の存在にやっと気が付いたようだ。


 三射目を放ったのを見計らって、ゴブリン兵が6匹ほどがマクロン隊に向かって突進を始めた。


 よし、そろそろだな。

 俺はその場に立ち上がり、腹の底から声を上げた。


「撃てぇえっ!」


 ボルフ分隊のクロスボウが一斉に放たれた。

 それはマクロン隊へ突撃するゴブリン兵に対してだ。


 俺も遅れて自分のクロスボウを撃った。


 だが10本のボルトは全て外れだった。

 横に動く標的だったから命中させるには難易度が高い。

 新兵には無理があった。

 だが、俺の放ったボルトは先頭を走るゴブリン兵の太ももへと突き刺さった。


 太ももを射貫かれたゴブリン兵は大変だ。

 走っている最中に足をやられたとあって、その勢い合わさって地面に顔面から「グシャリ」と嫌な音を立てて突っ込んだ。

 

 先頭を走っていたゴブリン兵がそうなると、後続はたまったものではない。

 ゴブリン兵が持っていた槍が足場を邪魔して、後続の六匹のゴブリンが団子の様に重なった。


「ギギャ!」


 それでも何とか気合と共に、槍を杖代わりに立ち上がるゴブリン兵。


 そこへマクロン隊の第四射目の装填準備が整った。


 10メートルにも満たない距離。

 これはさすがに外さないだろう。


「放て!」


 四度目のマクロン伍長の声が森に響く。


 ドスドスドスっというボルトが刺さる音が聞こえ、ゴブリンの「ギッ」という小さな悲鳴が響く。


「次発装填急げ!」


 おうおう、マクロン伍長も頑張ってるな。

 それじゃ、俺達も行きますか。


「奇数列、抜剣戦闘準備!」


 要は十人の内の半数を剣での接近戦に備えさせたということ。

 まだ五人はクロスボウ装備のままだ。


「ぜんたーい、並足で進め!」


 一列横隊で村へと迫る。

 基本は遠距離攻撃だが、接近されそうになれば剣を握る少女兵が接近する敵を牽制。

 隙あらばクロスボウで狙う。

 最悪の場合は俺が蹴散らす。


 鼓笛隊がいれば行進音楽を奏でてくれるはずだが、今はゴブリンの怒声や叫び声が行進曲だ。

 俺もクロスボウは背中に背負い抜剣し、いつでも斬り込める体制だ。


 剣を握ると胸の内側から何かが沸き上がる感じがしてくる。

 自然と笑みがこぼれるのが自分でもわかる。


 この感覚は久しぶりだ。

 たまらない高揚感だ。


 気が付けば俺は走りだしていた。

 右手にはロングソード、左手には手斧を握りしめる。

 二つとも俺愛用の武器だ。


 少女達も俺に付いてこようと走り出すが、俺の速度について来れない。

 いや、一人ついてくる奴がいる。

 

「待つにゃ~~」


 四本の手足を使って走ってやがる、おもしれえ!


 俺は誰よりも早く村に入ると、手近なゴブリン兵から切り伏せる。

 一振りで首を弾き飛ばすと、新たな獲物がいるのを俺は捉えた。


 再び俺は走る。


 五メートル走ってたところで俺は大きく飛び跳ねた。


「うりゃああっ」


 飛び跳ねながら剣を上段から叩き下ろす。

 

 ゴブリン兵が持っていた槍で俺の剣を防ごうとした。


「グギャっ」


「そんな槍で俺の剣が防げるかっ」


 俺は槍ごとゴブリンの頭を叩き割った。


 俺の剣は通常よりも分厚い造りだ。

 戦闘中に折れない様にするための特注品。

 折れにくいが刃はほとんどついてないから切れ味はすこぶる悪い。

 だから速度と力を加えないと斬れない。

 だが、刃こぼれの心配が要らないのは都合が良いな。

 

 俺はゴブリンの胴体まで食い込んだ剣を引き抜きながら、近くにいたもう一匹のゴブリン兵の腹に左手の手斧を叩き込む。


「ゴギャっ」


 残りのゴブリン兵は勇敢にも俺に向かって槍を突いてきた。


「ほほお、その最後まであきらめない精神は褒めてやる。だがな、相手を選べ!」


 ゴブリン兵が放った渾身の一突きである槍を剣で払い除け、左手の手斧でそいつの両足をすくい上げる。

 

 するとゴブリン兵はクルッと回転して地面に後頭部から落下。


「グギャ!」


 倒れたところに剣を叩き下ろした。


 どれくらい戦っていたんだろうか。


 敵の姿を探してキョロキョロする俺に誰かが声を掛けてきた。


「ぼ、ボルフ、ボルフ軍曹。き、聞こえてますか?」

「ボルフ軍曹、終わったにゃ、静まってくださいにゃ」


 マクロン伍長とミイニャだった。

 ヤバいな、またマクロン伍長が俺にビビってやがる。


「おお、そうか。戦闘は終わったのか。負傷者いるか」


「軽傷が三人いるにゃ」


「三人だけか、それは奇跡だな。だけどよかった」


 ちょっと安心して冷静になったところで、自分の周りが気になった。


 見れば俺の周囲はゴブリン兵が散乱している。

 俺がやったのは自覚してはいるが、それでもこれは酷い。

 まるで獣に食い荒らされた後の様だ。


 俺も返り血で酷い有様だ。


 久しぶりだったから少し調子に乗っちまった。


「ボルフ軍曹、一人で全滅させちゃったにゃ。私、余り活躍できなかったにゃ」


「そうか、それは済まなかったな。ちょっとやり過ぎた……そうだ、納屋の女性達はどうなった」


 それにはマクロン伍長が答えてくれた。


「納屋にいた女性は二人で、無事に助け出せました。今は毛布にくるまって泣いていますんで、しばらくそっとしてあげてください」


「ああ、そうか、わかった」


 こういう時は女性兵は助かるな。

 俺だとどう対応して良いかわからんからな。


「ミイニャ兵長、全員で村中を捜索させろ。村人がいるかもしれないし、まだ隠れている敵がいるかもしれないからな。それとマクロン隊は周囲を警戒してもらえるか」


「了解しました。見張りを立てます」


「了解にゃ、探すにゃ」


 村の捜索を始めて間もなくだった。

 誰かが叫んだ。


「ゴブリン兵が一匹逃げる、あっち、あっちよ!」


 わらの山の中に隠れていたらしいゴブリンが一匹、畑を通って村から走り去って行く。

 何度もこちらを振り返るその姿に、必死さと恐怖の感情が見えた。












新兵訓練の期間でが2~6か月と数種類の記述がありましたので、3か月に統一しました。

失礼しました。






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