27 偵察命令
大隊本部のテントへと入って行くと、当然のことながら大隊長がいる。
大隊長の名前は確か『バルナベ・ペロン子爵』で、階級は中佐だったな。
敬礼して出頭したことを伝えると、爪先から頭までジロジロ見られた。
あ、泥だらけはやっぱりまずかったか。
「君があの“魔を狩る者”のボルフ曹長かね?」
ペロン中佐にそう聞かれ、俺は不動の姿勢で「はい、そうです」と返す。
するとペロン中佐は箱から何かを取り出した。
「それと、これは君が倒した魔物の牙かね?」
そう言って俺に見せたのはサーベルのような牙が二個だ。
それは剣歯虎の牙に間違いない。
だからといって俺が倒した固体かどうかはわからない。
「先日の戦いで確かに剣歯虎を二匹倒しましたが、その牙が自分が倒した魔物の牙なのか判別できません」
そう言うと、ペロン中佐は「ほほ~」と感心したような声を出し、さらに言葉を続けた。
「これは君の小隊長のペルル少尉が持って来てくれたものだよ。だから君が倒した魔物に間違いないな。いや~しかし凄いな。その報告を聞いた時は信じられなかったんだよ。でも本人がそう言ってるし、証拠もここにある。この牙以外が黒焦げなのが残念だがな。いや、実にすばらしいい」
褒められているんだが、何か嫌な予感しかしない。
だが返す言葉は決まっている。
「お褒め頂きまして、ありがとうございます」
くそ、やっぱり着替えてくればよかったな。
「それでだ。この牙なんだが一本は伯爵に献上するが、もう一本は私が貰っても構わないかな」
そんなもん幾らでも上げるよ。
でもな、伯爵様に献上するほどの物ではないと思うがな。まあ良い、勝手にしてくれ。
「はい、構いません。どうぞお納めください」
すると嬉しそうにペロン中佐が言った。
「そうか、そうか。それは有難い。それなら、そうだな。何か欲しい物があれば言ってくれ。褒美として用意しようじゃないか」
おお、やった、これは嬉しい。
だが、下級平民の俺が変に欲を出す訳にはいかないからな。
これは困ったな。
俺が悩んで言葉に詰まっているとペロン中佐が言葉を添える。
「そんなに悩むな。欲しいものはないのか。武器でも食べ物でも、女でも良いぞ。ああ、女は間に合っているか、わはははは」
こっちとしては笑いごとじゃないんだがな。
そうだ、女で思いついた。
「そ、それではペロン中佐、工兵隊を貸してください」
「むう? 工兵隊を借りて何をする気だ」
「はい、ラベンダー村での作業をお願いしたいのです。なんせ男手が足りませんので」
それを聞いてペロン中佐が笑い出す。
「うはははは、面白い事を言う奴だ。だが、言われてみればそうだな。女ばかりの隊だからな。わかった、工兵隊を向かわせよう。さすが“女を狩る者”だな。よし、もう行っていいぞ」
“女を狩る者”って、ここまで噂が広がってるのかよ!
その三日後だった。
工兵隊が50人、一個小隊が村に来た。
多すぎだよ……
50人も男手が居れば何でもできる。
中には魔法が使える者も何人かいるらしいからな。
ここは折角だから大改造しよう。
それで50人も工兵隊と少女50人で出来上がった村が凄かった。
ちょっとやり過ぎたかもしれない。
改めて見ると、まるで要塞だ。
工兵隊の『親方』と呼ばれている小隊長が完成を告げてきた。
「言われた通りに、侵入は不可能なように作ったぞ。それとバリスタもちゃんと完成しているから、後で確認してくれ。質問あるか、ないなら俺達はこれで引き揚げるけど良いか」
「あ、はい。親方、ありがとう、ございました……」
確かに賊が入って来れない様にとは言ったが、ここまでするとは思わないだろ、普通。
村を囲っていた一メートルの高さの柵なんだが、二メートルの丸太の柵に変わっている。
もはや砦の城壁だ。
それと数メートルの高さの監視所が村の中央に出来上がっていて、そこにはバリスタが設置してある。
と言ってもかなり小型なバリスタで、クロスボウを少し大型にしたくらいのものだ。
さらに畑の中にも監視所が造られている。
ちょっと調子に乗り過ぎた。
タダだからとあれこれ注文したら、まさかの全部作っちまった。
まあ、今更だ。
完成したもんはしょうがない。
しかしちょっとした前哨基地だぞ。
正面には立派な門もある。
川まで行けば水浴び場も出来ていたし、テントの近くには木製のテーブルや長椅子が作られている。
それにカブトムシの小屋だ。
中央監視塔のバリスタなんかほんの冗談だったんだよ、冗談。
まさか本当に設置させるとは。
さすがは伯爵様直轄の大隊長の差し向けた工兵隊ってとこだな。
もう少女達は大喜びだ。
ペルル少尉も満足そうで、俺に何度も礼を言ってくるし。
こうして俺達小隊はここ、ラベンダー要塞を拠点とすることになった。
それから一週間ほどしたある日、大隊から偵察任務に行けとの命令が来た。
偵察部隊を編成して森の中にある、竜池周辺を偵察して来いという御命令だ。
待てよ、竜池といったら敵地だぞ。
敵地の偵察に何で新兵の少女部隊を使うんだ?
これは期待されているってことか。
それならしょうがない、行きましょうか。
問題は誰を行かせるかだな、と考えていたらペルル少尉が告げた。
「ボルフ曹長、人選は任せるから“君が”部下にしっかり経験を積ませてきてくれよね」
うっ、そんな言い方されたら「お前が行け」ってことじゃないかよ。
しょうがない、何人か連れて俺が自ら行くか。
人選はどうするかな、分隊の隊長に決めさせてみるか。
偵察だから俺以外に五人くらいで良いだろう。
早速分隊長を集めて偵察の話をしてみる。
「――という事で、森の奥にある竜池に偵察に行くことになった。それでまずは志願者を募る。それで集まらなければ各分隊内から推薦者を出してくれ」
するとミイニャが質問してきた。
「それの報酬は何がもらえるにゃ?」
またそれか。
「俺は何も奢らないぞ。だいたい、ここには屋台が無いからな」
ラベンダー村には店など一件もない。
そう言って俺は分隊長らを見まわすと、誰もが目をスっと逸らす。
こいつら……
ならしょうがない。
「ああ、それと言っておくが、その竜池なんだがな、池で直径30㎝の巨大貝が採れる。これを殻ごと焼いて食うのが旨いんだがな。ま、志願者がいないなら推薦してもら――」
「ボルフ曹長、初めから私が行くつもりだったにゃ~」
真っ先に食いついたのは予想通りミイニャ伍長だ。
続いてラムラ伍長が立候補し、釣られるようにサリサが手を挙げた。
これで三人だな。
しかし残り二人の手が上がらない。
するとラムラが再び手を挙げて言った。
「はーい、はーい、金メッケを推薦しまーす」
するとサリサもそれに賛同する。
なんだ、結局いつもの四人か。
俺もそれがやり易くて良いけどな。
そうなると残りが一人か。
「あの~、推薦したいのが一人うちの隊にいるんですが……」
手を挙げてそう言ってきたのはマクロン伍長だ。
「推薦か、いいぞ。で、誰を推薦したいんだ?」
「えっと、アカサなんですけど……」
ああ、俺が矢を抜いてやったあの少女か。
しかしマクロン伍長の言い方が気になる。
何か訳ありっぽい感じなんだよな、なんか言いたそうというか。
「それは構わんが、何でアカサなんだ?」
すると何故か動揺するマクロン伍長。
すると何故かラムラ伍長とサリサ兵長の二人がヒソヒソ話をしつつ「はは~ん、そう言う事ね~」とか言ってる。
気になって聞いてみた。
「ラムラ伍長、お前ら何か知ってるのか」
「知らないですけど~、女の勘ってやつですかね」
「女の勘?」
「そう、そう。だってアカサってボルフ曹長に命を救われた子ですよね~」
「そうだが、それがどうした」
二人は俺の質問には答えずに、いやらしくニヤニヤし始める。
俺が助けを求める様にマクロン伍長に視線を向ければ、スッと目を逸らされた。
何なんだよ!
結局は他に推薦者もいないので、理由など関係なくその五人に決定した。
明日、日の出と共に出発することになり、この場は解散となった。




