25 蜂蜜タルト
俺達小隊が本隊に合流する頃には敵のゴブリン部隊は退却をしていた。
俺達が本隊のいる所へ行くと負傷兵も一緒になって大歓声で迎えられる。
少女ばかりの“戦えない”部隊と思われていた部隊が、敵の精鋭の騎獣部隊を壊滅したのだからそうなるだろう。
ここからもその戦いを見えてたようだ。
だが、少女らを直接褒めるような兵はいなかった。
大抵は男である俺か、ペルル少尉に賞賛を送るだけだ。
まあ、今はそれでも良い。
この部隊はまだ始まったばかりだからな。
「曹長、ここからも見えましたよ。お一人であの剣歯虎を二匹倒したんですよね?」
生き残った部隊の軍曹が聞いてきたんだが、すでに何人にも聞かれてきたので正直説明するのも面倒臭い。
だから「小隊全員で倒した」とだけ言っておいた。
詳しく説明をしたのは生き残った指揮官の大尉にだけだ。
ロー伍長に片膝をついていたあの大尉だ。
もう一人、槍兵部隊の少佐がいたんだが、そいつは早い段階で戦死したそうだ。
だから、今はこの大尉が部隊の指揮官になる。
その指揮官だけは女であるロー伍長を褒めていたか。
女というよりも幼女に見えるから、子供を褒める大人にしか見えないが。
そろそろもう日が暮れる時間だ。
生き残った部隊と共にこの地で野営することになった。
場所は丘の上の陣地だ。
野営場所の設置をしながら陣地も強化する。
夜襲があるかもしれないからだ。
散乱した輸送部隊の荷物をかき集めながら、その日の夕食の準備をする。
まるで当然のように俺達小隊の少女達が炊事をさせられた。
ちょっと前までなら俺もそれに疑問はなかっただろう。
だが、今となってはそれに違和感を覚える。
だが、少女らを見ると意外と楽しそうだし、男共も鼻の下を伸ばしている。
それで俺も黙ってそれを見ている事にした。
ただ男共がちょっとでも手を出そうとしてみろ、只じゃおかん。
そう思いながらも目を光らせる。
自分用の小さな焚火を起こし、地面に直接を腰を下ろす。
焚火にワゴン車の残骸の木片をくべると、パチパチと音を立てて炎が上がった。
数時間ぶりに落ち着いた時間が過ごせるな。
バックからワインが入った革袋を取り出しグイっと一気に喉に通すと、水で薄めたワインも旨く感じるから不思議だ。
ほどなくして夕食が出来上がったらしい。
ミイニャが「準備出来たにゃ、順番だにゃ。ちゃんと並ぶのにゃ」と指揮っている。
ミイニャがいる分隊の鍋に真っ先に並び始めたのは獣人の男共だ。
どうやらミイニャは獣人兵から人気があるようだな。
木の器にスープを貰う姿を見れば、彼らが浮ついているのが一目でわかる。
獣人の感情は解かり易い。
そしてもう一人、ラムラの分隊の作った鍋にはヒューマンの男共が並ぶ。
お目当てはメイケみたいだ。
並んでいる男共の視線がメイケ一人に集中しているから直ぐにわかる。
ラムラが厳しい声で怒鳴る。
「そこ、横入りはしない!」
すると男は「はいっ」と言ってすごすご最後尾へと移る。
こういう場面になると何故か女性が強くなる。
しばらく焚火の火を見ながらワインをチビチビすすっていると、俺の後ろの方で何だか声がする。
「メイケ、早く早くっ。何もたもたしてるのよ、早く行きなよ」
見ればラムラ伍長とサリサ兵長がメイケの背中を押している。
メイケとラムラが仲良いのは知っていたが、それにサリサも加わったか。
サリサが足を「ダン」とやると、メイケがたどたどしい足取りで俺の横へ歩いて来た。
そして小さな声で言った。
「あの……これ……夕食の、銀狼の…スープ…です……」
メイケにしては長文だな。
「ああ、すまない」
俺はそれを手に取るが、メイケはその場に立ち尽くすだけだ。
俺はメイケの顔を見上げると、焚火の火に照らされた顔がぼんやり移る。
顔が真っ赤だ。
余程の人見知りなんだろうが、これは重症ってレベルだな。
すると後方から小さな声でラムラ伍長が声を掛けてくる。
「隣に座って、隣に。勇気を振り絞るのは今だよ」
俺にも聞こえてるんだが。
それに勇気を振り絞るのは今じゃないだろ、戦いの時だろと思うが黙っている。
メイケがまたまた小さな声で言った。
「と、と、隣に…座って…いいですか……」
そりゃ、ダメとは言えないだろ。
俺は「いいぞ」とだけ告げる。
するとメイケは俺からだいぶ離れたところにチョコンと座った。
そこで後方から「ダン」と地面を蹴る音がする。
それに反応してかメイケがモゾモゾと少し俺に近づく。
するとさらに「ダン、ダン」と音がする。
またもそれに反応するかの様にメイケが俺のすぐ隣に移動する。
それでも地面を打ち鳴らす音は止まずに、最終的に俺のすぐ隣にメイケは座っている。
俺とほとんど密着するくらいの距離に。
ちょおっと、近すぎやしないか、これ?
後方の二人をチラッと見れば「うんうん」と頷いているのが見えた。
なんか気まずい状態のまま、俺は銀狼のスープをすする。
メイケは焚火を直視したまま動かない。
なんなんだ、この状況は。
また何かおねだりする気なんだろうな。
今度は何を奢らされるんだろうか。
そこでメイケがやっと何かしゃべろうとする。
「あ、あ、あの……」
だがその時、暗闇から突然何かが飛び出した。
「私も一緒にご飯食べるのにゃ!」
野良猫ミイニャか!
現れたと同時にメイケとは反対側の俺の隣にミイニャが座る。
手には肉の塊を持っている。
そこで後方から「チッ、邪魔が入った」と聞こえてきた。
その途端、メイケが見てわかるほど落胆する。
俺はそこで決心をする。
ここは上司らしいところを見せるかと。
「そうだ、数はあまりないんだが、これを二人にやる」
俺はバックパックから小さな包みを取り出す。
包みの中には蜂蜜タルトが入っている。
甘い焼き菓子は体力が落ちた時には持ってこいの食べ物だ。
俺は戦場へはこの蜂蜜系の食べ物を良く持って行く。
俺が包みを広げた途端、ミイニャが大きな声を出した。
「ハニータルトにゃ!」
陣地に響き渡るその声に、少女達が聞き洩らすはずもない。
俺は咄嗟に後方に振り合える。
少女らが全員、こっちを見ていた。
そして数秒もしないうちに、俺の周りには少女らの人だかりが出来上がる。
「待て、タルトは一包みしかないんだぞ!」
俺がそう叫んだ時、物凄い速さで俺の手から包みが消えた。
ミイニャが奪ったのだ。
それも包みごと頬張っていやがる!
そこからは悲惨な戦いが始まった。
女の争いほど醜いものはない。
「出しなさいよ、口からそれ!」
「もう無理にゃ、食べ終わるにゃ」
「ああ、ずるい」
「もう、何で二人の邪魔するのよ~」
だがそれもすぐに終わる。
「敵襲!」
見張りの兵が叫んだからだ。
周囲を見まわすと、獣の目のような光が陣地の周囲をウロウロしているのが見える。
しかしかなり遠くだ。
俺は猫系で夜目が利くミイニャに尋ねる。
「ミイニャ、見えるか?」
「ング、ング、食べてるにゃ…モグ…あとにして…くれるかにゃ」
こいつ、全く悪びれてない。
だが、見る限り攻撃を仕掛けて来る気配はない。
単なる偵察なんじゃないだろうか。
結局、朝になっても仕掛けてはこなかった。
俺も気になってほとんど眠れずに日の出を迎えことになる。
昨晩の残りのスープを朝食にして、出発準備をする。
だが、夜を乗り越えられなかった兵が何人もいた。
重傷だった兵達だ。
その兵士達はこの場に埋葬することになった。
これで重傷者はいなくなったが、負傷兵はまだいる。
少女らの中にも軽傷者は多数いる。
軽傷でも急に容態が変わって重症と化す場合もあるから注意が必要だ。
もう部隊に配給のポーションは残っていない。
ペルル小隊への割り当て分は、すでに男達に譲ってしまっている。
今や全部隊でも中隊規模にも満たない人数。
輸送部隊も合わせれば大隊規模に近かった部隊がだ。
敵を撤退に追い込んだが、こちらも壊滅状態。
これは勝利したとは言えないほどの消耗度合だ。
ただ、生き残れたことだけを噛みしめて帰路の道を歩いた。
今日も何とか投稿できました。
ただ、修正するかもです。
次話は半分ほど書き上がっていますので、明日にも投稿出来そうです。




