24 お子様ランチ
俺はペルル少尉に一言「陣地の事は任せます」とだけ言って、一人陣地を後にした。
ペルル少尉は何か言いかけたようだが、直ぐに言葉を引っ込めた。
俺はそれは「許可」と受け取った。
俺は陣地のあった丘をゆっくりとした歩調で下って行く。
途中、落ちている槍を拾って、手ごたえを確かめる。
「中々良さそうな槍だ、これにするか」
一人つぶやきながら丘を下りきる。
ゴブリンが休憩していた辺りを通ると、バリスタの槍で串刺しになっている“お子様ランチ”がいた。
しぶとくも、まだ息はある。
俺は横を通り過ぎながら、そいつの胸に拾った槍を突き立てた。
ちらっと横目で見ると兜に着けられた赤い旗が目につく。
確かに“お子様ランチ”だな。
そして前方の土煙を巻き上げながら疾走する魔物に目を凝らす。
「ほほう、剣歯虎が二匹か。これは中々厄介だな。だが、狩らせてもらおう」
俺は自然と走り出していた。
奴らの集団が俺と接敵する前に二手に分かれる動きを見せる。
ゴブリンライダーの内の5匹が俺に向かい、残りは丘の陣地へと向きを変えた。
剣歯虎二匹も丘へ向かう。
だが、俺の足では追いつけないか。
ならば……
目前には槍を構えたゴブリンライダーが迫る。
「雑魚に用はない!」
ゴブリンライダーが槍を向けて俺の正面から突撃して来た。
俺は一歩前に出て軽く跳躍し、俺に突き出された槍の穂先の上を「トン」と爪先で蹴る。
そして驚愕の表情をするゴブリンの顔に膝をめり込ませる。
顔が陥没したゴブリンは銀狼から転げ落ち、地面に後頭部から落下。
俺は片足でそいつの頭を踏み潰すように着地した。
頭蓋骨か潰れる感触が足に伝わる。
その時、横を通り過ぎようとするゴブリンライダーの槍が再び俺を襲う。
血だらけになった足を地面へと移し、右手のロングソードを力任せに振るった。
ロングソードは突き出された槍を強引に跳ねのけ、騎手のゴブリンの顔面を切り裂く。
そのまま身体を回転させ、遠心力の乗ったロングソードを後続のゴブリンライダーに向けて振るった。
草原にパッと血が舞い、緑の草が赤く染まる。
遅れてゴブリンの上半身だけが血染めの草原に落下し、さらに赤く染めた。
残った二匹が果敢にも俺に向かって来た。
そうこなくっちゃな。
2匹が二手に分かれて交差するように騎乗突撃をして来る。
戦法を変えるらしい。
――面白い。
右側から突撃してくる方が僅かに早く来る。
俺はそっちへと走り出す。
ゴブリンの槍が俺の顔面へと迫る。
直前で俺はスライディングした。
剣は地面を這うように突き出して。
銀狼の足が斬り飛ぶ。
勢い余って銀狼は「ギャン」と声を上げて地面へ前のめりで突っ込んだ。
騎乗していたゴブリンも一緒に顔面から地面へ突っ込む。
俺が直ぐに立ち上がると、二匹目のゴブリンが目前に迫っていた。
驚いたことにそいつは銀狼の上から飛び跳ねていやがった。
いいぞ、面白い、面白いぞ!
銀狼が俺の左腕に食らいつく。
俺は左腕は噛ませておいて、右手で空中のゴブリンへと剣を突き出した。
ゴブリンの突き出した槍の穂先が俺の頬を掠める。
だが、俺のロングソードは奴の胸へと突き刺さった。
そこで俺は丘へと向かった敵の一団に目を向ける。
すると、こちらの戦いを見て引き返してくるのが見える。
しかしそれは剣歯虎の二匹だけで、残りのゴブリンライダーは丘の陣地へと向かって行く。
俺はゴブリンの胸に突き刺したロングソードを大きく斬り払い、ゴブリンの胴体を切り飛ばす。
そしてそのまま、その刃を左腕に噛みつく銀狼へと突き刺した。
丘の上へと向かったのはゴブリンライダーだけ、あれくらいなら少女達でも対処できるだろう。
俺は剣歯虎二匹に向かって走ると、向こうも速度を上げて来る。
そしてゴブリンが跨る剣歯虎二匹が、とうとう俺の目の前まで来るが直ぐに攻撃はしてこない。
警戒しているのか。
血で赤く染まった俺の周囲を剣歯虎二匹が、グルグルと回り始める。
近くで見るとデカいな。
三メートルくらいあるだろうか。
サーベル状に長く伸びた二本の牙が、俺の闘争心を掻き立てる。
ほどなくして突然一匹の剣歯虎が、吠え声と共に俺に襲い掛かって来た。
俺は身をかがめてそれを避け、通り過ぎたところへ手斧を投げつける。
手斧は剣歯虎の腰に手傷を負わせるも、大したダメージは無いように見える。
銀狼のようにはいかないか。
だが刃は通るようだな。
ならば!
今度は俺から攻撃を仕掛ける。
間合いを詰めてロングソードで斬りかかる。
ダメだ、避けられる。
ふふふ、そうか、そう簡単には斬られてはくれないか。
しかし諦めずにさらに接近を試みる。
またも避けられる。
そうか、なら待つだけだ。
再び、剣歯虎二匹は俺の周りをまわり出す。
そして先ほどと同じように突然襲い掛かって来る。
今度は少しの時間差を開けて二匹で襲い掛かって来た。
俺が一匹目をギリギリで避けるも、二匹目の剣歯虎のサーベルのような長い牙が俺の肩を掠める。
肩が熱い、脇腹へと血が流れていくのが分かる。
どうやら革鎧も意味をなさないようだ。
恐ろしいほどの切れ味。
油断できないが、これでだいたいパターンは読めてきた。
「良し、本番だ、来い!」
そう口に出し、腰を落として身構える。
騎手のゴブリンが表情を険しくしながら剣歯虎の腹を蹴った。
すると剣歯虎は恐ろしいほどの瞬発力で俺に襲い掛かった。
俺は仰向けになりながらそれを避け、地面に横になる。
そして腰に差し込んでいた魔法のボルトを抜き出し、剣歯虎の腹に目掛けて突き出した。
火炎魔法のボルトだ。
突き刺さらなくても触れれば発動するこの魔道具は、剣歯虎の腹に鏃が触れた途端に魔法を発動した。
実際に敵が使っているのを見たことがあるが、人間だったら一発で炎で包まれる威力がある。
俺の上を通り過ぎた瞬間、剣歯虎の胴体中央部分が炎で包まれた。
騎手のゴブリンも一緒に燃え始め、もがきながら地面へと落ちた。
続いてもう一匹が、仰向けの俺に向かって襲い掛かって来る。
今度は寝返りを打つようにロングソードを振るう。
それは剣歯虎の後ろ足を捕らえた。
脚に傷を負った剣歯虎は、着地が上手くできずに転倒。
騎手のゴブリンも転がるようにして地面に落ちる。
こうなったら勝敗はもう決まったも同然だ。
剣歯虎は後ろ足を引きずっている。
最早、殺されるのを待つだけの状態。
となると騎手だったゴブリンと俺の一騎討となる。
俺は地面に立ったゴブリンの方に向き直り言った。
「来いよ、何遠慮してんだ」
そう言って指で来いと合図すると、俺の意思が通じたのか分からないが、そいつは腰の小剣を抜いた。
だが、それとほぼ同時に、俺はそいつの胸を切り裂いた。
啞然とした表情でとぼとぼと歩き始めるゴブリン。
そのまま歩けなくなった剣歯虎の横へと倒れ込む。
剣歯虎は倒れ込んだゴブリンをかばう様に唸り声を俺にぶつけてきた。
俺はその真ん前に立つと、背負っていたクロスボウに持ち代えて、最後の一本の火炎のボルトをセットする。
「俺達の部隊に手を出した代償は大きいと思え!」
そして特に狙いも定めることもなく引き金を引いた。
これで二匹目の剣歯虎も炎に沈んだ。
俺は燃え盛る二匹の剣歯虎の横を通り過ぎ、丘の上の小隊陣地へと目をやる。
すると小隊の仲間らが俺に向かって手を振っている。
どうやら向こうの戦闘も片が付いたようだ。
手を振る少女らの中に見慣れた野良猫を見つけた。
どうやら目を覚ましたらしい。
ふん、これでまたうるさくなるな。
俺は丘の頂上を目指して坂道を登って行った。
* * *
俺が丘の上にたどり着くと、真っ先にミイニャが飛びだしてきた。
どうやら元気なようだ。
だが、俺の所まで来る前に俺が仕掛けた罠に引っかかり、顔から地面へと突っ込む。
「ふにゃっ!」
対騎乗突撃用に作った草を輪っかに結んだ簡単な罠だ。
使わずに終わると思ったら、まさか味方が掛かるとはな。
しかしミイニャは鼻血を垂れながらも満面の笑みで俺に走り寄る。
そこで俺は“お子様ランチ”の兜についていた旗をポケットから取り出す。
面白いと思って、旗はしっかり回収していたのだ。
その旗をミイニャに「快気祝いだ」と言って渡した。
すると突然ミイニャが鼻血を垂らしたまま抱き着いて来た。
「ボルフ曹長~、大好きにゃ!」
「あ、バカ、顔を舐めるな――うわ、舌、ザラザラするぞ!」
ミイニャが抱き着いたのを皮切りに、他の少女らもワラワラと集まって来て、遠慮なく俺に抱き着いてくる。
「凄い、凄い、一人で倒しちゃった~」
「ボルフ曹長って本当に人間ですか」
「恰好良すぎ~、もう~」
さらにペルル少尉が涙ぐみながら労ってくれる。
「うんうん、良くやったくれたよ、ボルフ曹長」
なんだ、この歓迎ぶりは。
だけど、これ、悪くないな。
ってゆうか、凄い良い気分なんだが。
今までなら男共から、肩や頭をバシバシ叩かれる歓迎だったからな。
あ、それから、ボルフね――って違う、合ってる!
ペルル少尉から初めてボルフって言われたぞ!
皆に揉みクシャにされる中、誰かが先ほどから袖をしっかり掴んでいる奴がいる。
ちょっと動きずらい。
だけど、そいつだけ何だか皆と違って大人しい。
見れば俺の袖を両手で掴んでいるのはメイケだ。
それと何故かミイニャに眼を飛ばしている。
何がしたいんだか、まあいいけどな。
そういえば味方部隊はどうなっているんだと思って振り返って見てみると、味方部隊がゴブリン部隊を押し返しているのが遠くで見える。
そうやら戦況は味方に有利に展開しているようだな。
それを見た俺は自然と笑みがこぼれた。
「ペルル少尉、それでは本隊に合流しましょうか!」
俺の声に少尉は大きく頷くのだった。
何とか間に合いました。
修正あるかもしれません。
ここから少し投稿ペースは落ちそうです。




