21 丘を越えて
一時間くらいは歩いただろうか、やっと俺も肩車という御褒美—―拷問に慣れてきたところだ。
メイケの荷物は少女らが分散して持っているから、俺の負担はメイケ自身の体重だけだ。
しかし軽いな、メイケ。
ちゃんと食ってるんだろうか。
無口だから全然わからん。
でも肌はスベスベだし、栄養失調のような肌質じゃないよな。
ん、肌がスベスベ……おうっふ!
あ、いかん、意識したらダメだった。
俺の異変に気が付いたのか、再びラムラ伍長が俺をからかってきた。
「ボルフ曹長、後頭部ってどんな感じですか~~、フへへへへ」
それを聞いたメイケが急に俺の肩の上でモゾモゾ動き出す。
「あ、バカ、動くな!」
今このタイミングで腰を動かされると色々まずい事になる、俺が!
「あれ~、金メッケ、顔真っ赤だよ。それに~、ボルフ曹長~、なんで耳が真っ赤なんですかね~」
「てめえ、殺す。マジで殺す……」
「ひゃ~、殺される~。恋愛のもつれで殺される~~」
ラムラ伍長、後で覚えておけよ!
俺は「魔を狩る者」として兵士達から恐れられているんだぞ、どうしてこうなるんだよ。
他の少女達は俺を見てニヤニヤしている。
そこへミイニャがひょっこり出て来て嫌な予感。
「ボルフ曹長、もっこりなのにゃ」
辛い……
* * *
しばらく行くと牧草地帯に出た。
この辺りは丘陵地帯が続いており、辺り一面が牧草になっている。
そこで丘を一つ越えた辺りで、向こうの丘の頂上付近に人影が見えてきた。
俺達の本隊のようだ。
休憩でもしていたのか、思ったよりも早く合流できたな。
足早に丘の頂上を目指すが、様子が変だ。
犬系の獣人が鼻をクンクンしながら言った。
「血の匂いがします。それと戦いの匂いも」
その言葉を聞いて即座に周囲に気を配る。
見える範囲では特に異常はない。
「警戒、全員戦闘準備!」
少女らは一斉にクロスボウの発射準備をしていく。
「2列横隊、ソニア隊は小隊本部を護衛しろ」
少女らはテキパキと隊列を組んだいく。
20人の2列横隊を前面にし、その後ろで即応部隊としてソニア隊を控えておく。
20人が2列ならば15秒に一回は20本のボルトを放てる計算だ。
「全たーい、進め!」
隊列を組んだままゆっくりと丘を登って行く。
頂上付近まで来て判明した。
頂上には木が数本生えているのだが、その木に寄りかかって見えたのは確かに味方兵士だ。
だがそれは遺体だった。
木に張り付けのような形で槍に刺され息絶えている。
周囲にはカートが置き去りになっているが、それを引く馬は見当たらない。
丘の頂上まで来ると、向こう側が良く見渡せた。
丘の下へと続く道には、あちこち味方の遺体が散らばっている。
そしてそれに交じってゴブリンや銀狼の遺体も多数ある。
戦闘があった跡だ。
まさか全滅か?
2個中隊、500名近い数の兵士がいたんだぞ。
しかし味方の遺体の数はそこまで多くはない。
という事はまだ生き残りの兵士がいるはずだ。
ただ、輸送部隊は全滅っぽいな。
悲しいかな、爺さんらの遺体が散らばっている。
ほとんど無抵抗だったろうに、何て酷い……。
もちろんほとんどの荷物は、馬ごとカートと一緒に持っていかれている。
中には死んでしまった馬もいて、その荷物はカートごと放置されている。
この惨状は一つ向こうの丘までずっと続いている。
「ペルル少尉、あっちの丘の上まで行けばもっと先が見渡せるかと思いますので、この態勢で進みます」
指揮官の小隊長には一応断りを入れた上で前進を続けた。
今いる丘を下り、そして新たな丘への道を登って行く。
味方部隊は道を進みながら戦闘をしたのか、道沿いには多数の敵味方の遺体が放置されている。
丘の頂上に着くと、そこは少しの木立と岩があるくらいの狭い頂上。
やはりここにも乗り捨てられたワゴンや遺体が散乱している。
この丘の向こうには広い平原が広がっている。
その平原で戦いは繰り広げられていた。
敵の主力と思われる部隊と生き残った味方の部隊だ。
味方部隊は川を背にしてゴブリン部隊と闘っている。
川を背にすることにより、ゴブリンライダーに背後をとられないようにしているみたいだ。
だが、ここから見る限り圧倒的に押されている。
原因はゴブリン部隊にいる2頭の使役獣だ。
遠くて詳しくは解らないが、四つ脚の肉食系魔物だ。
その魔物に味方部隊が次から次へとやられていく。
それに40頭ほどだが、ゴブリンライダーがチクチクと横から攻撃している。
生き残りの味方部隊は一個中隊ほどしかいない。
全滅するのは時間の問題だ。
「ペルル少尉、どうします。今から行っても間に合いませんし、たった一個小隊が駆けつけたところで戦況は変わりませんが」
指揮官はペルル少尉だからな、一応はお聞きしないといけない。
でも直接「撤退しましょう」とは言えないので、暗に意味を含ませて進言した。
するとペルル少尉が口を開きかけたところで横槍が入る。
「う~ん、そうじゃな。あの暴れてる魔物を倒してしまえば何とかなるんじゃないのか?」
そう言ったのはフェイ・ロー伍長だ。
こいつ、余計な事を。
確かにあの魔物を倒せば少しは違うが、ゴブリン兵は味方の倍はいる。
そうそう戦況をひっくり返せるもんじゃないぞ。
だが、ペルル少尉。
「そうだな、バリスタがあればあんな魔物くらい倒せるだろう。確かバリスタを牽引していたはずなんだけどね、あれはどこ行ったのかな」
あ、やばい、あそこにあるじゃねえか。
バリスタは、カートに載ったまま路肩に放置されている。
だが、牽引する馬はいない。
いくら何でも無理がある。
このたった一個小隊の素人少女集団で、あの二頭の魔物がいるゴブリン部隊に戦いを挑むだと。
長年生き残って来た俺が言うが、それは無茶ってもんだ。
だがペルル少尉とロー伍長は何だかやる気満々だ。
だいたいな、あのバリスタ壊れて使えないだろうに。
そう思った矢先、ラムラ伍長が声を上げる。
「ペルル少尉殿~、メイケがこれ使えるって言ってます~」
ラムラ伍長め、余計なことを。
「ほら、金メッケ、アピールしなよ。早く、早く」
何故かラムラがメイケの手を挙げさせて、俺に手を振っている。
もちろん、いつも通りメイケの顔は赤い。
おい、やめろ。
今回ばかりは俺は撤退派なんだぞ。
褒められる事案じゃないからな。
だが俺の気持ちとは裏腹に、小隊内はどんどん戦う空気へ変わっていく。
「なんかやる気出てきちゃったね」
「あの程度の魔物ならボルフ曹長が何とかしてくれるんじゃないの」
「魔物って食べられるのかにゃ?」
おいおい、何で皆やる気満々になってるんだよ。
肉食系魔物の恐ろしさを知らないだろ、お前ら。
無知とは恐ろしい。
そんなやりとりの中、獣人の一人がつぶやいた。
「あれ、見つかっちゃったかも」
その言葉に慌てて敵を確認すると、40匹いたゴブリンライダーの20匹が、こっちに向かって動き出していた。
俺は瞬時に退路の確認で周囲を見まわすのだが、ここは牧草地、
この辺に小隊規模で隠れる所はなく、ゴブリンライダーから逃げられるほどの足の速さがある訳もない。
早い話、迎え撃つという選択肢しかなくなった。
となると、ここしかない。
ここは見晴らしの利く丘の上。
少しだが木もあるし岩もあり、ゴブリンライダーの騎乗突撃も多少防げる。
食料も武器も放置されたワゴンやカートから得られるから補給の心配もない。
敵の武器もそこら中に落ちてるし。
ここに陣地を築いて対抗するしかない。
だけどな、見晴らしが良い反面、逃げ道がないなここ。
「ペルル少尉、敵が来ます。ここに陣地を築きましょう」
するとペルル少尉は戦闘中の味方部隊を見て言った。
「えっと、味方を助けに行くんじゃないのか?」
俺は即座に返答。
「そんなことをしなくても敵がここに来てくれますよ」
現に今、砂埃を舞い上げてゴブリンライダーがこっちに向かって疾走している。
「そうか、それならここで戦おう。ウルフ曹長が居れば怖い物ないからね」
そろそろ覚えようか、ボルフね。
どうやら書き上げました。
まだ余力はあります。
ここで一気にストックを増やし……たい。




