17 トラブルメーカー
ここまで来たら男の方も引けない。
「ああ、あってやるよ。受けてやる!」
その言葉を受けてペルル少尉がニコリと笑って言った。
「これで双方の了承のもと、ここに名誉を賭けた決闘を執り行うとする。ただし、軍規にのっとり非殺傷武器を使う事。そうですね、木剣なんかありますか?」
すると男共の分隊の誰かが直ぐに木剣を二振り持って来た。
ペルル少尉はそれを手に持って調べた後、双方に手渡し再び口を開く。
「問題が無いようならこれより決闘を始めるが、伍長、まずは名乗りを上げて貰っても良いかな」
「ああ……えっと、俺はアーミル伍長。俺が勝ったらペットにしてやるよ」
「我はフェイ・ロー伍長。その口、二度と聞けないようにしてやるのじゃ」
「準備は良いみたいですね。それでは始め!」
開始の合図で賭けを始める男たち。
だが、決着はあっという間に着いてしまった。
「ぐがっ」
アーミル伍長の悲鳴が響き渡り、木剣がガランと手からこぼれ落ちる。
そして両手で喉を抑えながらその場にうずくまる。
どうなったかと言うと、初手でアーミル伍長が突進。
そこへロー伍長が右足を大きく一歩前へと出したと同時に、右手の木剣を勢いよく突き出した。
それで終わり。
木剣の先がアーミル伍長の喉を襲った。
実に呆気ない終わり方だ。
男の兵士らは誰もが唖然として声が出ない。
反対に少女らは大歓声を上げる。
「どうじゃ、これでしばらくは声が出せんじゃろう。ひゃひゃひゃ」
変な笑いを響かせるフェイ・ロー伍長だった。
この後、男共がいちゃもんを付けてきたんだが、そこは見届け人のペルル少尉がさばいてくれて終了となった。
この決闘により、誰も彼女らにちょっかいを出す者はいなくなる。
と言っても、その日の午後には村を出立したんだが。
このモロコス村の滞在時間はわずか2時間弱ほどだった。
今回は単なる日帰り巡回だ。
この村に長居は無用。
長居したらさらに問題が起きそうだし。
そして夕方には無事に野営地へと帰って来た。
そこで俺は思った。
さすが“トラブルメーカー”のペルル少尉だ。
ただの巡回のはずが、ただじゃ終わらなかった。
でもよく考えたら原因はペルル少尉じゃないな。
あれ、おかしい。
原因は少女達じゃねえか。
それに気が付いた俺は今の自分の立場を考える。
これはまずい。俺の管理責任ってやつになりかねない。
ちょっと気を引き締めるか。
しかし、酒飲んで寝て起きたらそんな事はすっかり忘れていた。
* * *
それから数日後のことだ。
俺達ペルル小隊に召集が掛かかる。
だが、召集は俺達の小隊だけじゃない、あちこちの部隊で動きが慌ただしい。
小隊が全員集合したところで小隊長のペルル少尉より説明があった。
「うーん、山間村だったかな。あの村を奪還することになったんだよ。戦略的にも余り重要な村じゃないんだけど、支配地域を奪われたまま放っては置けないらしいんだよ。それで歩兵小隊と一緒に我々クロスボウ小隊も行くことになったんだよ。ま、そう言う事だから。詳しくはウルフ曹長が説明するから」
俺にほぼ丸投げでペルル少尉は自分の準備に取り掛かる。
それに俺、ボルフね。
「今、ペルル少尉からの説明通りだ。急いで準備を整えろ。今までと違って一緒に行動する兵士の数が違うからな。少しでも乱れたら多くの味方から厳しい目で見られると思え。以上、急げ。駆け足だ!」
こうして少女らは大慌てて準備に行った。
あ、俺の準備が途中だったな。
俺もいそいそと準備を急ぐのだった。
俺は久しぶりに本格的な装備を身にまとった。
背中には弦の強化されたクロスボウ。
ボルトは全部で60本、それに加えて火炎のボルトがニ本ある。
この二本の魔法のボルトは、すべてコボルトの傭兵から奪ったものだ。
元々は弓矢の矢じりだったんだが、それを改造してボルト用にしたものだ。
もちろん再使用が出来ない物だから、ここぞという時に使う。
実はこのニ本の魔法のボルト、かなり前から持っている。
何度か戦場へ持ち込んだんだが、もったいなくて使ったことが無い。
こんなところで貧乏性を発揮してしまっている。
なんせ、遠距離から攻撃するよりも接近戦闘が好きな俺が、使う機会なんて早々あるはずもない。
まあ、それは良い。
それ以外に持って行くのはなけなしのヒールポーションが一本。
これは俺がまだ10代の頃に、敵の傭兵の隊長から奪った戦利品だ。
どのくらいの効果があるのかもわからない。
もしかしたら低級品かもしれないし、高級なのかもしれないが、それを調べるのに金が掛かるから放って置いた。
だから、戦場へ持って行ったこともない。
最早記念品のような扱いだ。
だが、戦場からしばらく離れていた俺は、ちょっと心境の変化を自覚している。
死なれたら寝覚めの悪い奴らが沢山出来ちまったからだ。
そう思いながらバタバタとする音の方へ目をやると、遠くからこちらに走り寄る猫が視界に入る。
両手には魚の燻製を握りしめ、手を振っている。
「ボルフそうちょ~、準備出来たにゃあ~~、一番のりだにゃ~」
お前の場合は目覚め、悪くならなそうだな。
徐々に少女らが集まり出し、入って来たばかりの新兵二人が走って来たのが最後に、全員が集まった。
俺達の小隊とは別の小隊も準備出来たらしく行軍を始めている。
重装歩兵二個小隊だ。
革鎧を身に着け、でかい盾と槍を数本装備している歩兵だ。
槍は通常戦闘用の槍の他に、投げ槍を数本装備する。
それと男ばかりのクロスボウ一個小隊もいる。
俺達を加えると全部で4個小隊、つまり一個中隊での出兵となる。
しばらく歩くと、さらに一個中隊の槍兵部隊と、御者が爺さんばかりの大規模な輸送部隊と合流した。
その輸送部隊の中には、バリスタと呼ばれるクロスボウに似た大型の兵器がある。
四輪カートに乗せられて、老いた馬がそれを引いている。
随伴する兵士10人がそれを操作する分隊なんだろう。
岩トカゲが出たから、どっか他の隊から借りてきたんだろう。
俺達はその輸送部隊の最後尾を歩かされる。
俺達ペルル小隊の目の前には、もう一つのクロスボウ小隊が行軍している。
ベルモント少尉が率いるクロスボウ小隊だ。
もちろん男ばかりの小隊で、行軍しながらもチラチラとこちらを見てくる。
しかし俺と目を合わせるとプイっと目を逸らす。
俺を怖がっているのは都合が良い。
しかしバカはそれでも少女にちょっかいを出して来るもんだ。
そのバカの一人目が早速ちょっかいを出してきた。
「あ、いっけねえ。ナイフを落としちまったぜ……」
ナイフをわざとらしく地面へ落とし、後ろを歩いている少女に近寄ろうとする。
だが、俺はワザとそれを知らんぷりしてやった。
何故かと言えば、ペルル小隊の先頭を歩くのはフェイ・ロー伍長だからだ。
ちょうど退屈だったところだ、きっとロー伍長が面白い展開を見せてくれる。
「ワザとらしい真似をするでない!」
そう言ってロー伍長は、こともあろうかナイフを男に投げ返した。
「うおおっ――し、死ぬかと思った……」
男は投げ返されたナイフが胸に命中したと思ったのだが、それはナイフではなかった。
男の胸にぶつかり、カランと地面に落ちたのは短い木の棒だ。
ロー伍長はニヤニヤしながら男に近づくと、「今度落としたら本当におっ立てるのじゃ」と言い放ってナイフを手渡した。
確かにロー伍長がやってることは凄い脅しなんだが、10歳くらいにしか見えない幼女が「のじゃ」語で凄んだところでな、迫力なんてものは皆無だし。
案の定、最初は驚いていた男だが、隊の仲間に笑われては引き下がれなくなり、逆に凄みを聞かせて言ってきた。
「おい、小っちゃいの。ちんちくりんのくせに生意気言ってんじゃねえぞ」
その言葉にロー伍長のコメカミがヒクヒクし始める。
あ~、そのキーワードはダメだ。
まずいパターンっぽくなってきたな。
早めに止めようかと俺が前に出ようとしたら、意外な人物が出て来た。
「おい、一兵卒。貴様は僕の小隊の伍長に対して、何て失礼な言動をしてるんだよ。君の小隊の小隊長は何してるんだね」
おおおおお、ペルル少尉が部下をかばったよ。
これは驚きだ。
いつなら、トラブルは避けて来た人物がだ。
俺はちょっと嬉しくなって、その男の顔面に飛び蹴りを喰らわせた。
「ぐがっ」
変な言葉を吐き出しながら隊列から吹っ飛び、路肩で横たわりながら首を振る男。
周囲の連中が驚きの表情で俺を見る。
もちろんペルル少尉も目を丸くしている。
あ、まずい、やっちまったか。
つい調子に乗ってしまった。
そこへ無言でツカツカと近づいて行って、男の顔面に「バスン」と足の裏を喰らわせるフェイ・ロー伍長。
おお、俺一人じゃない、助かった。
さすがフェイ・ロー伍長。
「ロー伍長、良い連携だったな」
そう言って俺がサムズアップすると、ロー伍長も腰に手を当て貧相な胸を張る。
だがやり過ぎたようだ。
前方から突如馬が走り寄って来て、俺の目の前で止まった。
「おい、貴様。何、騒ぎを起こしている!」
見れば、その乗馬する人はお貴族様である大尉の階級章を付けた士官だった。
あ、これは本当にやらかしたかも。
ブックマ狙いで一気投稿してきましたが、あと数話でストックが切れます。
残念ながら思ったほどブックマは伸びませんでした。
出だしは一気投稿でブックマも一気に伸び増したが、最初だけで終わってしまいました。
もっとストックを貯めて毎日5話ずつ投稿とかが良かったかもしれませんね。
あ、こんなこと書いてますが、終了じゃないですよ。
完結までは書くつもりですが、投稿頻度は落ちますのでご了承ください。
なので今後ともよろしくお願いいたします。




