13 戦いの後、そして
誰もが息を切らして疲れ果てていた。
しかし、勝てないと思った戦いをひっくり返してやった。
この達成感は何とも言えない。
あちこちにゴブリン兵の屍が横たわる中、ペルル少尉は消沈した様子で立ち尽くしていた。
俺は傷ついた身体に鞭打って、ペルル少尉の元へと歩いて行く。
矢の傷跡より脇腹の方が痛いな。
そして横に立つと、小さな声で言った。
「ペルル小隊長、ご指示をお願いします」
俺の言葉にやっと我に返り、辺りを見まわしぽつりと言った。
「僕達は勝利したのか?」
俺は答える。
「はい、我々、ペルル小隊の勝利です。負傷兵の手当の指示をお願いします」
「お、おお、そうだな。そうしよう」
ペルル少尉は珍しく自ら各分隊長の元へと出向き、負傷兵の手当てを指示してまわった。
各分隊長からの報告がまとまると、我が小隊の被害状況が明らかとなってきた。
戦死者は15名、負傷兵多数、その中でも重傷者6名と、俺が思った以上に被害は大きい。
その被害のほとんどは男の部隊である、ギルバート分隊とジダン分隊、そして全滅したマッケンジー分隊だ。
とは言っても少女達からも負傷者は出た。
軽傷5名、重傷1名だ。
重傷1名はマクロン分隊の少女だった。
ポーションの割り当てはペルル小隊全体で5個。
ペルル少尉はその5個を男の兵士へと配布する判断を下した。
負傷率は男の分隊の方が圧倒的なので、それもしょうがないとは思う。
しかし、少女らは口には出さないが「何で?」という表情で俺を見つめる。
ただこいつらに説明しても納得はしないだろう。
ならば何も言わないのが一番だ。
だが、そこで一人の男兵士の重傷者から声が上がった。
「ああ、俺、ポーションは必要ないから、マクロン分隊の重傷者へまわしてやってくれるか」
そいつを見ればジダン分隊の兵長の男。
少女らにちょっかいを出していたチンピラメンバーか?
良く見れば、そいつの左脚は弓矢を受けたらしく血だらけだ。
血管が切れているらしく出血が酷い。
恐らく野営地に生きて帰ったとしても切断することになるだろう。
俺がその男へと近寄り声を掛ける。
「ポーションを譲るって?」
するとその男。
「よお、おっさん。あんた“魔を狩る者”ってのは本当だったんだな。まさかあの魔物を一人でやっちまうとは恐れ入ったよ」
やっぱりあの時のチンピラか。
「ポーション、貰っても良いのか?」
男は自分の怪我した脚を眺めながら返答する。
「どうせこの傷だ。その程度のポーションじゃ無意味だろ」
「ああ、恐らくな。だが傷は治らないと思うが、ポーションを使えば生きて野営地まで行けるぞ」
「そうかもしれないな。でもよ、この脚は多分切られるんだろ?」
「そうだな。恐らくそうなるだろうよ。金があればまた話は別だがな」
「けっ、そんなもんあるかよ。それからよ、今日はあんたに助けられた。それにあの女どもにもな。それだけ、伝えてくれるか……」
「わかった、伝える」
俺はポーションを持って、マクロン分隊の重傷を負った少女の元へ向かった。
その少女は何人かの戦友に囲まれて横たわっていた。
負傷の原因はやはり弓の矢だ。
しかもその矢はまだ刺さったまま。
小柄な少女の身体に刺さった矢を見ると、矢が非常に大きく見える。
同じ矢でも彼女にとっては負傷の度合は高いんだろう。
顔は青ざめて苦しそうだ。
そういえば俺の肩口にも矢が刺さったままだったことを思い出す。
俺が近づくとその少女と視線が合い、青ざめた顔で笑いかけられた。
何とも痛ましい。
見ていられない。
名前は確かアカサと言ったか。
農家の娘で口減らしで入隊させられたと言っていたと思う。
そんな境遇なのに、いつも明るく笑顔がトレードマークだ。
毎日食事が出来るし友人も沢山出来て、この隊に入れて幸せだと笑顔で言っていたな。
「ちょっと傷を診るぞ」
俺はそう言って彼女に刺さった矢を調べる。
まだあどけない身体をしており、その白い肌から鮮血が滴り落ちる。
一瞬、目をそむけたくなるが、気を取り直して患部を診る。
矢は胸に刺さっているが反対側へは抜けていない。
しゃべろうとすると血を吐くそうで、ずっと無言だそうだ。
これは矢を抜かない事には始まらない。
だが抜くのはかなり痛いし、下手したらその時に心臓が止まることもある。
俺はしゃがみ込みアカサに話し掛けた。
「アカサ、ポーションを貰って来たぞ。お前たちに絡んでいたあのチンピラがくれたんだ。お前らの戦いっぷりに対し譲ってくれたんだぞ」
するとアカサは俺の手を握り黙って何度も頷く。
何度も吐血したらしく、口のまわりは血だらけだ。
俺は布をだして口のまわりを拭いてやる。
「なあ、アカサ。今からな、ちょっとだけ痛い事する。だけどな、これはアカサを助けるためにやる。我慢できるか?」
それでもアカサは笑顔を絶やさず大きく頷く。
「アカサ、今から胸に刺さった矢を抜く。でもな、背中に矢じりが抜けてない状態だからな、抜くのに手間が掛かるんだ。それに結構長い時間痛い思いをしないといけない」
それでもアカサは頷いた。
「そうか。今からどうやるか見せるからな」
俺はそう言って上半身裸になり、自分の肩の矢を抜き始めた。
周囲にいた少女らが驚愕の表情で俺の身体を見る。
俺は体中古傷で酷いからしょうがない。
普通に矢を引き抜くと、体内に矢の先の矢じりが残ってしまう。
だから矢の先端だけを背中へ貫かせ、矢じりだけを背中側から外す。
そして初めて矢の柄を胸側から引き抜くという手順だ。
俺は右手で肩口に突き刺さった矢の柄を押し込む。
すると背中側から血と一緒に矢じりが飛び出す。
その矢じりを少女の一人に外してもらい、矢じりが無くなったところで一気に矢を引き抜いて見せた。
その間、もちろん平然とした顔で行った。
傷口から血が噴き出すも、少女らがワインをしみ込ませた布で塞いでくれる。
そして俺は治療されながらも改めてアカサに聞いた。
「どうだ、これでも我慢できるか?」
さすがに笑顔も消えたアカサだが、それでも大きく頷いた。
そこで俺も覚悟を決めて、矢を引き抜く作業に取り掛かる。
「皆でアカサが動かないように押さえてくれ。動くと危険だから力を入れろよ」
そして俺は拷問のような作業を始めた。
アカサが早い段階で気を失ってくれたのが助かった。
矢を引き抜き、傷口にポーションで湿らせた布を巻いて処置は終わりだ。
上手くいけば生きて帰れる。
ポーションがなかったら確実にもたなかったと思う。
刺さった場所がいけなかった。
俺はポーションをくれた男の名前を聞いてなかった事に気が付いて、再び礼を言いに行った。
しかし男がいたはずの場所には、顔に布を掛けられた兵士が横たわっているだけだった。
近くにいた兵士に聞けば、つい先ほど容体が急変して息を引き取ったらしい。
「すまん……」
これで戦死者数が16名になった。
「ペルル小隊長、長い間この場にいるのは危険です。逃げた敵兵が本隊に報告しているはずです」
俺の提案にペルル少尉は困った顔で返す。
「そうなんだけどね。命令は村の偵察なんだよ。せめて村を偵察してこないと帰れないだろう」
そうだ、貴族は軍内での名声や体面を気にするんだったな。
任務を無視して帰還はまずいか。
それなら。
「そうですか。では自分が村を偵察してきます。ペルル小隊長は負傷者を連れて先に帰還してください。小隊が本隊に戻る前に必ず追いつきます。いかがでしょうか?」
自分でも無茶な提案ってことは理解している。
しかし、こうでもしないと負傷兵が助からない。
アカサはまだ助かった訳じゃない。
一刻も早く野営地に戻って治療しないといけない。
ペルル少尉はしばらく考え込んでから言った。
「うーん、悩みどころだよねえ」
もう一押しか。
「ペルル小隊長、すでに一個分隊が全滅してます。その後の岩トカゲの戦闘でも多数の死傷者が出ています。このまま任務を続ければもっと死傷者が増えます。しかしこれ以上の消耗は許されないレベルです。自分にまかせてもらえれば任務に失敗しても村まで行ったことにはなります。どうでしょう?」
ペルル少尉は顎に手をやってしばらく考えていた。
そして顔を上げるとこう言った。
「わかった。君の提案を飲もう。兵を何人か選んで連れて行って構わないよ。その代わり必ず戻る事、いいね」
「はい、必ず戻ります」
そう言って俺は少女達の集るところへと歩いて行く。
「えーと、ラムラ兵長とミイニャ兵長、ちょっとこっち来てくれるか」
俺の言葉に二人は顔を見合わせてからこちらに来た。
二人を俺の目の前に立たせる。
「どうしたにゃ」
「何、何です?」
「負傷はしてないな」
不思議そうな顔で二人して頷く。
「それなら問題ない。おい、二人とも脇の下から何か飛び出てるぞ?」
「え、何、何、何が出てるの」
「きっと脇の毛が出てるにゃ」
二人は自分の脇の下を必死に覗き込む。
すると自然と片手が上がり……
「うん、そうか。貴様ら二人は志願するんだな。助かるぞ。それでこの後の任務だがな――」
そこまで言ってラムラ兵長が言葉を挟む。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。サリダンに使った手じゃないですか。またそんな手を使ってきますか。志願なんかしませんって。手なんか上げてませんって。誰があの死闘のあとなのに、そんな得体のしれない任務に志願なんかしますか!」
「――話は終わりか、良し。それでだな、この後村に俺達三人で偵察に行く。なあに直ぐに行って帰って来るだけだ。ちゃちゃっと終わらせるぞ」
ラムラは俺ににじり寄る。
「何、平然と話を続けてんですか!」
それとは真逆にミイニャは何故か落ち着いている。
「任務ですにゃ、それならしょうがないにゃ」
「待って、ミイニャ。騙されてるって!」
「五分後に出発する。あ、時計持ってないか。なら準備出来次第出発する。報酬は昨日屋台で売り出し始めたクッキーだ。そうだ、俺が買い占めたからもう買えないからな。どうする?」
その言葉が出た途端、二人の目がキラリと光った。
「絶対行くにゃ。村へのお散歩は任せるにゃ!」
「えっと、ちょっと行ってみようかなあッと」
結局はチョロい。
そして出発だ。
早足で歩きながらミイニャが聞いてきた。
「ボルフ軍曹、怪我はだいじょうぶにゃ?」
「ああ、へっちゃらだ。わははは」
本当は辛い。
脇腹の骨、多分折れてるし。
矢の傷もズキズキ痛むし、まだ出血してるし。
やせ我慢ってやつだ。
さて、とっとと村を偵察して帰還しますか。
ストックはまだまだあるんですが推敲が追いつかない……
それにしても誤字は多いんですよね、すいません。
誤字脱字報告有難うございます!
それからクロスボウの欠点を修正しました。
値段が高いのが欠点→重いのが欠点に修正しました。
手元の資料によりますと、実際に弓の方が値段が高かったらしいのと、クロスボウは重量が3㎏~10kgもあったらしいので、そちらに合わせました。




