112 王の城
軽装歩兵が一個小隊か、今の俺には荷が重すぎる。
これは少女達も参加してもらわなくちゃいけなくなるか。
となると、少女達も軽傷じゃすまなくなる。
それは避けたいが、ここで引く訳にはいかない。
俺は馬から降りると、剣を抜いて敵の指揮官に答えた。
「その通り。我らが数々の戦いを勝ち抜いてきた、第一ワルキューレ小隊だ。邪魔をする奴らは全て斬り伏せる。覚悟して来い!」
ポーションで傷は塞がりつつあるが、とても戦いに耐えられるほど回復してはいない。
左腕と左脚が殆んど使えない状況で、俺はどこまで戦えるか。
ロー伍長の声で「構えるのじゃ~!」と聞こえてきた。
これでクロスボウの準備は出来た。
上手くいけば最初の斉射で十人以上は戦闘不能に出来る。
すると敵の指揮官が馬を降りた。
そして俺の方へ歩いて来る。
剣は抜かずにだ。
あれよあれよと、俺の目の前まで歩いて来て口を開いた。
「ここまでご苦労だったな、曹長。なにぶん、あちこちで騒ぎがあったんで駆けつけるのが遅れてしまった。すまない。それでアルホ子爵は生きているのか?」
は?
味方?
「王都の衛兵、ですか?」
やっと出た言葉がそれだった。
返答はもちろん肯定だ。
「曹長、傷が酷いようだな。城に着いたら真っ先に治療させよう。もう少しの辛抱だ」
それを聞いて安心した途端、身体の力が抜けた。
「おい、曹長、大丈夫か!」
体に力が入らずその場に倒れてしまったようだ。
俺の目にはどこまでも青い空が見えている。
その視界の端っこで厳ついおっさん――軽装歩兵の指揮官の顔が見える。
くそ、体に力が入らない。
血が足りないようだ。
俺がずっと青い空を見続けていると、その空の端にメイケの顔が飛び込んできた。
メイケめ、今にも泣きそうじゃねえか。
少し遅れてアカサの顔、そしてサリサ兵長の顔も入ってくる。
なんだ、こっちの二人も泣きそうかよ。
泣き虫少女らが集まったな。
でも悪い気分じゃない。
むしろ居心地が良い。
なんだ、ハーレムじゃないかよ。
ああ、気分良いな。
このまま眠りたい。
そう言えば眠い。
とても、眠い。
目を、閉じ、れば…直ぐに……でも、眠れ…そう……。
ガタンっと衝撃を感じて目が覚めた、
気が付けば、荷物と一緒に馬車の荷台に横になっていた。
身体を起こして見渡すと、先ほどの軽装歩兵の部隊が俺達を先導していた。
これなら安心だな。
俺はしばしの間、馬車の揺れに身を任せた。
衛兵の護衛が付いた途端、襲撃はピタリと止んだ。
俺達はそのまま何事もなく城の正門を抜けて行った。
王様の城ってくらいだから物凄い城を想像していたんだが、普通の城だった。
サンバー伯爵の城とあまり変わらない。
王様はあまり資金源が無いってロミー准尉が言ってたしな、こんなもんか。
城の内部も全く普通だ。
特別豪勢な造りでもない。
そして城に入ってしまえば俺の役目は無い。
後は貴族であるロミー准尉の仕事である。
アルホ子爵の引き渡しの手続きに、褒賞金の受け取り手続きと、書類のサインだけでかなり忙しそうだ。
もちろんアルホ子爵の武器横流し証拠の提出も忘れない。
俺とロー伍長は少し離れたところで、補佐役兼護衛という名の見物だ。
他の少女達は別室で待機という名の休憩。
ああ、腹減ったなあ。
確か手続きが終わったら食事の時間って聞いたんだよな。
ロー伍長の腹が「きゅ~っ」と可愛らしく鳴った。
するとロー伍長は慌てて床に足を擦り付けながら言った。
「い、今のは床じゃ、床をこすった音なのじゃ」
ダイナミックな嘘をついてくれるな、この幼女は。
だがその後、俺の腹が「ぐ~~~」っと高らかに鳴った。
「ロー伍長、俺も腹が減ったよ。もう昼過ぎてるんだよな」
するとロー伍長は、床を見つめながら小さな声で「そうじゃな……」と返答した。
その顔は真っ赤に染まっていた。
そしてやっと手続きが終わったところで騒ぎが起こった。
「アルホ子爵が、アルホ子爵が殺されたぞ!」
どこからか、そんな声が響いてきた。
色んな事が俺の頭の中を駆け巡る。
褒賞金はもう貰って手続きも完了。
問題なし!
引き渡しの手続きも終了している。
問題なし!
ならば俺達はもう関係ない。
そこで俺の思考とロミー准尉の思考が重なった。
「直ぐに逃げるよ!」
「直ぐに逃げましょう!」
お互いの顔を見合わせて笑った。
少女達のいる部屋へと向かい、直ぐに城を出る準備をさせる。
しかし、衛兵の動きの方が早かった。
「緊急事態ですので、しばらくこの部屋から出ないでください」
そう言って四か所ある扉をすべて閉められてしまった。
「ああもう。ちょっと遅かったね~」
ロミー准尉が悔しそうに椅子に座る。
今俺達がいるのは小ホールみたいなところだ。
もちろん第一ワルキューレ小隊全員がいる。
五個分隊五十人、小隊長のロミー准尉、曹長の俺、ロー伍長、伝令兵二名、鼓笛兵三名の合計五十八名だ。
もちろん俺以外は十代の少女ばかり。
取りあえず休憩の号令を出した。
そこで気が付いた。
「なあ、騎馬兵の二人はどこ行ったんだ?」
周りは少女ばかりだ、ちょっと見まわせばいないのはすぐ分かる。
するとミイニャ伍長が叫び出す。
「リュウホにゃ~ん、どこ隠れてるにゃ~」
考えてみればいつの間にかいなくなっていたな。
城の中に入る時は居たのは覚えている。
馬と槍を預けているのを見た。
しかしその辺から誰も見ていないと言う。
そこでサリサ兵長がそう言えばと、何かを思い出したようだ。
「トイレに行くって言ってた様な気が……」
「きっと広いから迷ったにゃ」
ミイニャ伍長は勝手に迷った事にして安心したようだが、ロミー准尉は顎に手をやって納得がいかない様子。
そして、しばらくしてロミー准尉がつぶやいた。
「アルホ子爵を殺めたのってさ、あの二人じゃないかな」
誤字脱字修正職人の方、いつもありがとうございます。
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