109 五人の剣士
俺達が入ろうとしているのは正面門だと分かったのは、並び始めて二時間が経った頃だった。
行商人や観光客に交じって一般人として並んでいたんだが、ずっとジロジロ見られ続けて二時間。
やっと順番待ちする人が恐々と声を掛けてきた。
「あんたら軍人さんは、軍隊門から出入りするんじゃないのかい?」
衝撃的な言葉だった。
二時間も並んでそれが無意味だったのだ。
ロミー准尉は空いた口が塞がらなかった。
そして軍隊門とかいう門へと向かうと、待つことなく直ぐに街の中へと入っていけた。
街へ入れたのは良いが、直ぐに別の難関が……あっという間に売り子の集団に囲まれてしまったのだ。
「兵隊さん、これ買ってよ」
「お花はいらんかい、お花だよ~」
「治癒ポーションだよ、買わないかね」
普通の行商人に交じって、ストリートチルドレンが交じっているのが見える。
どこの街でも見る光景だ。
「ねえ、ねえ、おじちゃん、短剣あるよ。買ってよ、すごくいいものだからさー」
恐らく戦場の屍から漁ってきたものだろう。
買ってはやりたいが、それをすると後から同じような子供が殺到する。
ここは下手に手を出さないのが最善である。
それに俺は「お兄さん」だ!
ここは断じて譲れない。
そんな売り子相手に悪戦苦闘していたんだが、一人だけおかしな子供がいたのに気が付いた。
花売りの子供のようだが、手に持つ花は売ろうとせずに、しきりに俺達を見ながら木板のようなものに何かを書き込んでいる。
人数を数えているのか、武器や武装を調べているのか、どっちにしろ怪しい事に間違いない。
誰かに頼まれたんだろう事は予想がつくのだが、どうせ素人の子供だろうから知っている事もたかが知れている。
だから放置することにした。
だが、これで俺達は監視されていることが分かった。
王都に入ったといって油断は出来ないってことだ。
俺達は何とかその集団を抜けて、王都の中央にそびえる城を目指す。
そこにいる衛兵にアルホ子爵を引き渡す手はずだ。
引き渡してしまえば、その後アルホ子爵がどうなろうと俺達には関係ない。
そこまでが勝負。
しかしまさか街中で仕掛けては来ないだろう。
その考えは甘かった。
通りの真ん中に顔を布で隠して道を塞ぐ五人の剣士。
俺は隊列を止めて馬から下りた。
すると五人の内の一人、恐らく指揮官と思われる剣士が一人前へ出て来て問いかけてくる。
顔は布で見えないが三十代前半くらいではないだろうか。
歴戦の強者って感じがする男。
「見る所、ワルキューレ部隊とお見受けする。間違いはないか」
「確かにそうだが、何用だ」
すると後ろに控えていた剣士たちが、腰に吊った剣の柄に手を掛ける。
そして指揮官らしき人物が再び言った。
「すまぬが護送馬車の中の人物をこちらに渡しては下さらぬか」
口調が気持ち悪いほどに丁寧だ。
只ならぬ雰囲気に通りを歩く人々が周囲から遠ざかる。
走ってこの場を去っていく人たちもいる。
周囲の店の者は店の奥へと入って行く。
俺の後方では少女らがクロスボウの準備をする音が聞こえてきた。
だがこの街中じゃクロスボウは使えない。
俺はクロスボウは下げる様に手で合図すると、ロー伍長の指示のもとクロスボウが下げられていく。
そこで俺は口を開く。
「どういう理由があるかは知らんが、護送馬車の中の人物はやれないな。そんな事は言われなくてもわかるだろう」
馬の蹄の音が俺の後ろに近づいて来る。
騎馬少年二人だ。
だがこの通りでの馬は不利になる。
走るには人が多すぎるのだ。
それが解かってか、少年二人は馬から降りると俺の左右につく。
すると指揮官らしき人物は残念そうに言った。
「そうか、素直に引き渡しては下さらぬか。それでは止むを得ん。致し方ないが強引にいかせてもらう」
指揮官の男が手を軽く挙げると、四人の剣士が剣を抜いた。
俺は声を張り上げる。
「ここは街中、クロスボウは使うな。全員抜剣しろ!」
少女らが次々に鞘から剣を抜く音が耳に入ってくる。
指揮官以外の剣士四人が左右に二人ずつに分かれた。
それに合わせてユーロンとリュウホも左右二手に分かれて行く。
続いて後ろから声がする。
「ボルフ隊長、今回は私も仲間に入れてもらうのじゃ」
そう言ってロー伍長がユーロンの方へ回る。
さらに「私も加勢するにゃ」とはミイニャ伍長。
もちろんお気に入りのリュウホの方へ回った。
それだけではない。
ラムラ伍長が無言でミイニャ伍長の方へつく。
第一ワルキューレ小隊の中では、トップクラスの剣の腕前の三人が来てくれたのだが、それはあくまでも我々小隊の中でのこと。
ロー伍長はかなり腕が立つが、ミイニャ伍長とラムラ伍長はそれほどでもない。
しかし下がれとは言えない雰囲気である。
俺が見るに奴らは手練れだ。
ミイニャ伍長とラムラ伍長の剣の腕では歯がたたない。
となると右側のリュウホ、ラムラ、ミイニャが心配になる。
リュウホが一人でどこまでやってくれるかにかかっている。
そして俺に対峙している指揮官の男、こいつがまた只ならぬ殺気を放っている。
恐らくだが、二つ名を持つほどの腕前と見た。
「剣を交える前に、名前を聞いても良いか?」
一応聞いてみた。
「襲撃者が名を名乗るとでも?」
まあ、そうだよな、教える訳はないか。顔隠してるしな。
「そうなんだがな、ここで命を散らすのはもったいないほどの腕だ。斬る前に名前くらい聞いておきたかったよ」
「ふん、勝った気でいるのか。笑わせる」
指揮官の男がすり足で徐々に間合いを詰める。
剣はまだ抜かずに柄に手を添えたままだ。
俺の挑発にも乗らないか。
――こいつ、強いな。
「皆、気を付けろ。こいつら腕が立つぞ!」
俺の声に後方で前に出掛かった少女らが後ずさる。
左の方でドス黒いオーラが放たれ出した。
ユーロンと一緒にいるフェイ・ロー伍長が魔剣を抜いたのだ。
右の方でもすでに戦いは始まっている。
衛兵が直ぐに駆けつけてこないところを見ると、こいつらが何か策を仕込んだ可能性もある。
だが長引けばいずれは衛兵が来るはず。
「衛兵が来るまで時間を稼げ。他の少女は護送馬車を頼んだぞ!」
前を見据えたまま後方へ指示を出してから俺は右手で剣を抜く。
左手には手斧を握る。
いつもの構えだ。
だが指揮官の男は一向に剣を抜かない。
「剣を抜かないのか?」
俺がそう聞くと指揮官の男は当たり前の様の言い放つ。
「そんなことをしたら構えで剣筋がバレてしまうだろ」
顔は布で見えないが、笑顔だな、こいつ。
指揮官の男は剣の柄に手を掛けたまま俺の間合いに入る。
同時に俺は剣を振るう。
これはいける!
しかし寸でで躱された。
指揮官の男の目が細まる。
一歩踏み込む。
剣で横なぎに払う。
それも寸でで躱される。
それでも男は剣を抜かない。
なのに威圧感が半端ない。
なんて奴だ。
こっちの剣は見切られているのか。
すると指揮官の男。
「どうした、それで終わりか“魔を狩る者”」
こいつ、俺の事を知っている。
忌々しい。
剣を下からすくい上げる様に斬り上げる。
その時、剣先で地面をこすり上げた。
もちろん地面の土を顔面に浴びせる為。
「おっと、そう言う手も使えるのか」
男がそう言って土を手で払い除けながら後ろへ下がる。
この手も効かないとは驚きだ。
またも「いいね」ランキング。
一位:7票、第1話
二位:6票、第93話
三位:5票、第91話
となってます。
二位の93話はボルフに朝食を持って来た三人が気まずい雰囲気になる話ですな。
三位はミイニャが活躍?する話です。
『ボルフにゃん』の言葉が初登場する話です。
ミイニャ人気急上昇↑ www




