108 再生
手長の男は肩の傷口を抑えて苦悶の表情を見せる。
しかし、男の傷は見る見るうちに回復していく。
そして傷は治り、鎧に斬撃跡だけが残った。
「やってくれるじゃねえか……」
それはこっちが言いたい。
再生能力ってやつなんだろう。
それも早い。
あれ?
さっきの兄の方は再生などしなかったはずだが。
こいつだけの固有能力か。
「おい、手長エビ、たった一人でどうする気だ?」
少年たちとの戦いの最中だったが、言葉を入れて割り込んでしまった。
すると手長弟が俺の方を見て睨む。
そして少しの沈黙の後、口を開く。
「おい、貴様。兄貴が、もう一人男がいたはずだぞ!」
「ああ、手首を振り回す奴か。あいつはクロスボウの斉射を浴びちまってな、残念なことに白目を剥いてあの世へ逝っちまったよ」
俺の言葉に衝撃を受けたようだ。
そりゃあ兄を亡くしたんだ、衝撃くらいは受けるだろう。
「き、貴様~、ゆるさねえぞ!」
そいつは俺に矛先を向けた。
これだと少年の獲物を俺が横取りしたみたいじゃねえか。
「待て、お前の相手はあっちの少年二人だから、こっちくんなって」
ツカツカと俺に向かって来る手長弟。
長い右手には剣を持ち、左手には小剣を持つ二刀流。
そこへユーロンの長槍が飛んできた。
槍は手長弟の横腹に突き刺さる。
「くっ」と苦痛の声。
しかし次の瞬間、その槍を力一杯引き抜く。
出血はする。
だが直ぐに傷は再生していく。
そして再び俺に向かって歩き出す。
再生は厄介だな。
「しょうがない。相手をしてやる」
俺も右手の剣を握りしめて相手に回り込むように歩き出す。
すると手長弟も反対方向へと歩き出す。
円を描くようにお互いがにじり寄る。
そして先に仕掛けてきたのは手長弟だった。
長い手を使って俺の間合いの外から剣を振るってくる。
おっと、危ねっ!
鼻先を剣が掠めた。
思った以上に届く。
これは初撃でやられる奴は多いんだろう。
俺もその一人になるところだった。
手長弟がニヤリと笑う。
俺もそれに返すように鼻で「ふっ」と笑う。
そして左手を頭上高く掲げて叫んだ。
「構え~~!」
一瞬、何のことか分からず手長弟が「へ?」という顔をする。
そこへ掲げた手を振り下ろして叫ぶ。
「斉射!」
そこでやっと悟った手長弟が少女らの方向を見る。
少女らからはクロスボウの一斉射が撃ち込まれた。
十数人での斉射だが半数が命中している。
だがしぶとい。
手長弟は片膝を突いたまま、俺を睨みつける。
そして俺に言葉を投げつけながら、刺さったボルトを一本づつ抜いている。
「貴様、卑怯な真似を!」
ボルトを抜いたところは直ぐに再生していく。
やっぱりそうか。
ヒールポーションと同じだ。
――異物が残っていると治らない。
「おい、手長エビ。勘違いするなよ。誰が一騎打ちするといった? だいたい待ち伏せしていたお前が言うな。地獄で兄貴が白目で待ってるよ、じゃあな!」
俺の言葉が終わったのと同時に、手長弟の側頭部にボルトが突き刺さる。
「……ぐ」
装填速度が早いメイケのクロスボウだ。
手長弟は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
近くまで行って確認したが、やはりボルトが刺さったままだと再生しないようだ。
種が分かってしまえば倒すのは難しくはない相手だ。
手長兄弟の二人はどうするか迷ったんだが、結局は地面に埋める事にした。
ボルトが抜けて再生でもしたら大変なので、ボルトは刺さったままだ。
火葬も考えたが、時間的にそれは無理。
それで簡単に穴掘って埋めた。
土に埋めるのに少し時間が取られたが、なんとか全員が無事にこの場を切り抜けたのは良かった。
俺達は再び歩き出す。
念のため警戒は怠らず、山間の街道を急ぐ。
途中、山賊らしき一団を目にしたが、さすがに一個小隊の軍隊に戦いを挑むほど無謀ではないらしい。
遠目で監視はしていたが、スルーされた。
そしていくつかの街にも寄りつつ、一週間ほど掛けて遂に王都が見える所までやって来れた。
丘を登ったところで王都の街並みが見渡せる。
その第一印象は『大きい』だ。
俺の知っている一番大きな街はサンバーの街だが、その数倍はあろうかという広がりを見せている。
街を外壁が囲っているんだが、外壁に入りきらない建物がその周囲に多数あり、その建物が新たな街を形成している。
街の外にまた街があるのだ。
なんとそれが三重になっている。
それに大きな河が流れていて、船での輸送が盛んなようだ。
だがロミー准尉が言う。
「人口は多いし商業が盛んだから税収も結構あると思うけどさ、他には何もないんだよねえ、ここ。王様の領地の中には他に収入になるようなもんがないんだよ。だから権力もそこそこしかないんだよね。王様なのに可哀そうだね~」
……そういう事らしい。
それで王都の間近まで来たんだが、門が沢山あってどこから入れば良いか分からず、取りあえず一番近い門から入場することにした。
考えてた以上に大変な毎日かもしれない。
ハードモードとまではいかないけど、休みが知らない間に減っていくんだが……




