107 待ち伏せ兄弟
昼休憩も終わり、トカゲスープで腹も膨れたところで行軍が再開された。
俺が考えるに、この辺りから危険な香りがする。
街からはそこそこ離れているし、山間を抜けなくてはいけない。
待ち伏せするような場所はいくらでもある。
だが俺達は一個小隊五十人以上いる部隊だ。
その部隊へ攻撃しようとするならば、襲う側もそれ相応の人数の確保が必要だ。
そこで考えてみると、アルホ子爵が捕まってそれを助けるための部隊を集めるのに、どれほど時間が掛かるのか。
そして集めた部隊を向かわせる。
そう考えると無茶苦茶時間が掛かると思う。
逆に考えれば多人数は無理でも、少人数ならばすぐに動き出せるってこと。
だから俺の予想では多くても十数人程度、少なければ数人程度の刺客が来るのではと考えた。
でも少人数ならば相当の手練れの兵士が必要だ。
そこでロミー准尉が言っていた手長兄弟とかいう傭兵が気になる。
俺は聞いたことないが、二つ名を持つほどってことは相当な腕前なのだろう。
そんな事を考えながら行軍している時だった。
道は山間部に入り徐々に険しくなってきて、周囲は高い木々で日差しも届かないような場所。
街道上にポツンと人が立っていた。
たった一人だが、薄汚い恰好の男がこちらを凝視している。
鎧は身に着けているが戦ったばかりなのかかなり傷ついている。
血の跡も見られる。
しかし怪我はしていないようだ。
少女らがクロスボウを構えだす。
俺は隊列を止めて、一人で馬を前へと進める。
「すまんがここを通してもらいたい」
俺がそう言うと、そこに立つ男が気味の悪い笑みを浮かべて言った。
「通してほしけりゃ、護送馬車を置いていけ。それと女も何人か置いて行ってくれると助かるな。ひひひひひ」
護送馬車のことを知っているか。
会話をしながら周囲を警戒する。
「俺がそんなことするように見えるか?」
「そうだな、見えねえな~。まあ、そう言う事なら力づくってとこだ」
ほお~、いいね。
俺に挑戦してくるのか。
ちょっとワクワクしてきたな。
俺は馬から降りて言った。
「良いだろう、相手をしてやる。それで、もう一人はどうした?」
こいつが手長兄弟だと踏んでの挑発だ。
兄弟という位だからもう一人がどこかにいるはずだ。
「俺達兄弟のことを知っている?……そうか、貴様が“魔を狩る者”か」
どうやら俺の事は知っているようだ。
「俺の事を知ってるなら話は早い。弟だか兄貴だかを早く呼んで来い。お前ひとりでは力不足だ」
男の表情が変わる。
俺の挑発をまともに受けたようだ。
それだけでこいつの力量は想像つく。
そんな挑発に乗ってるようでは、大した腕ではないだろう。
ちょっと残念な気持ちだ。
俺は瞬時に抜剣して男に斬りつけた。
予備動作を極力排除した抜剣だ。
そう簡単に避けられるはずがない。
だが、驚いたことに男は俺の斬撃を避けて見せた。
「ほほ~、確か手長エビだったか、今のを避けるとは驚きだよ」
男の眉間にしわが寄る。
「手長兄弟だ!」
怒ったようだ。
こいつは挑発に弱いな。
「で、もう一人はどうした」
「弟は最後尾から攻めるはずだよ、ひひひ」
くそ、それはマズい。
咄嗟に後方を見ると、丁度戦いが始まったところのようだ。
だが少女らは接近戦は得意じゃない。
こいつの腕前を見るに、少女らでは敵わない。
「“魔を狩る者”、お前の相手は俺だっ!」
俺が後方に気を取られているところへ、男の左手が伸びてきた。
いや違う、左手が飛んできた!
手長とはよく言ったもんだ。
男の左の手首が俺目掛けて飛んできたのだ。
手首と左腕は鎖で繋がれているようだ。
手首から先は金属で出来ているようで、鎖分銅というような武器か。
手長兄弟の手長とは、手首が鎖で繋がれた武器から付けられた二つ名ってことなのか。
まだもう一人は見えてないが、どうせ同じような感じだろう。
左腕は欠損していて、義手代わりに武器を仕込んだってところか。
飛んできた手首を剣で弾く。
キイーンという金属のはじける音が響く。
重い。
やはり金属製の手首だ。
弾いた手首が木に当たると、その木がバキっと折れてしまった。
何という破壊力なんだろうか。
喰らったら骨が折れるだけじゃ済まなそうだ。
剣も特注の俺専用でなければ折れていたかもしれない。
男はその鎖付きの手首を頭上でグルグル回し始めた。
俺が間合いを詰めようとすると、手首が飛んでくる。
接近戦はさせてくれないようだ。
早いとここいつを倒して後方へ行きたいのだが、そう簡単には行かせてくれないみたいだ。
「後ろは任せて下さい!」
そう言ったのはリュウホ少年だ。
ユーロン少年を連れて後方へ馬を疾走させていく。
「すまん、頼むぞ!」
俺の返答に軽く手を挙げて走り去る。
格好良いじゃねえか……
少女らが男に向かってボルトを放つ。
意外と当たらない。
それにグルグル回転させている鎖手首でボルトが弾かれてしまう。
時々、回転する手首をすり抜けたボルトが男を襲うが、男が動き回るからそれも中々当たらない。
そもそも俺と男は戦闘中だから、少女らはむやみにクロスボウを撃てない。
誤射が俺に当たる可能性があるからだ。
だから放つボルトも少なく命中が期待できない。
そこでクロスボウで一斉射できれば当たるんじゃないのか、という考えがふと頭に浮かんだ。
そう思ったら、少女らにやらせてみたくなった。
「まだ撃つなっ、俺の合図で斉射しろ!」
何だか面白くなってきた。
俺は牽制も兼ねて、間合いを詰めようと歩を進める。
そこへ手首が飛んできて地面に突き刺さり土埃が舞う。
それを何度か繰り返し、そろそろ準備は出来た頃だろうと思い、俺は叫んだ。
「今だ、一斉射撃!」
そう言ってその場に伏せた。
その瞬間、俺の頭上を物凄い数のボルトが風切り音を残して飛んでいく。
思わず身体が縮こまる。
ドスドスドスというボルトが何かに刺さる音。
「うぎゃっ」
短い悲鳴。
そっと顔を上げる。
男の周囲の地面にボルトが幾つも刺さっている。
もちろんそれだけではない。
男の身体にも何本ものボルトが突き刺さっていた。
男は白目を向いて倒れ込んだ。
実に呆気なかった。
後方でも少年二人が善戦しているようで、少女らの声援の声が聞こえる。
俺は走って後方へ向かう。
途中、護送馬車の格子窓からアルホ子爵が外を窺っているのが見える。
何故かイラっときた。
その窓枠を剣の鞘で引っ叩き、ちょっとビビらせて満足。
そのまま走って後方へ行った。
俺が後方に着いて見ると、さっき倒した奴そっくりの顔の男がそこで戦っていた。
ただ、武器は違う。
左腕は普通だが、右腕が本当に長いだけの男だった。
左腕の倍くらいの長さがある。
本当に手長エビのようだ。
手が長いと武器の攻撃範囲も広まるってこと。
リーチが極端に違う右手と左手では、攻撃範囲がコロコロと変化して、恐ろしく戦い辛いはずだ。
だが所詮その程度のこと。
少年二人の槍はその敵の腕の長さより圧倒的に長い。
いくら腕の長さが倍近くあろうがそれを上回る槍の長さであるならば、全く以て問題などありはしなかった。
リュウホが持つ長槍は、槍というよりもポールウエポンと呼ばれる種類に属し、槍のような穂先ではなく、大きな片刃の曲刀が付いていた。
俺が到着したタイミングで、その曲刀の一振りが敵の肩を斬りつけたところだった。
大幅に遅れましたが何とか投稿です。
修正あるかもです。




