106 トカゲスープ
王都目指してずっと街道を進んだのだが、アルホーの街から自分たちの街へ戻ると言う部隊がずっと一緒に行軍していた。
しかし、分かれ道のところでその部隊とはお別れとなった。
向かう場所が違うからだ。
半数以上が少年兵だったその部隊は、名残惜しそうに少女らに手を振っていた。
そして夕暮れが近づいた頃、川の近くで野営することになった。
野営の跡が多数あるところを見ると、この場所は比較的安全な場所ということだろう。
早々に天幕の設営や火の準備を始めた。
それと野営地には何ヵ所か歩哨を立てるのだが、面白そうだからという理由で順番とは関係なく一組が決まった。
決めたのはロミー准尉だ。
その場所はロミー准尉から見える場所であり、その場所に根暗少年兵のユーロンと、地味な少女兵のメイケを立たせるというのである。
上官特権ってやつを発動させた訳だ。
俺のテントからも見える場所だったんだが、一時間ほどは観察していたが飽きた。
なんせ、一言も会話が無かったからな。
年頃の男と女、会話くらいしろよと言いたい。
つまらん!
交代で戻って来たメイケに「何か話したのか?」と一応は聞いたのだが、すると「……特に」と一言でさっさといなくなった。
なんとなくだが、俺に対してメイケが冷たくなったような気がする。
そして特に問題もなく朝を迎え、再び行軍を開始した。
昼前くらいだっただろうか、事件が起きた。
「止まれ!」
先頭を乗馬で進んでいた俺は行軍を停止させた。
道の真ん中で魔物を発見したからだ。
体長四メートルはあるトカゲ系の魔物である。
緑色の体色をしている。
そのトカゲはウサギを捕食したようで、よりによって道の真ん中でそれを食しているところだった。
さてどうしようかな、と考えていたところへ、突如騎馬兵の少年が前へ出て来た。
その少年は根暗の方のユーロンだった。
「ああユーロンか。ちょっとトカゲの魔物が行軍の邪魔をしていてな」
俺がそう言うと「排除します」とボソリと一言。
途端に馬を走らせる。
「あ、ちょっと待て……」
俺が止める間もなく、そのトカゲへと馬を走らせる。
しかし速度を緩める訳でもなく、逆に馬の速度を上げていく。
どうするのかと思ったら、トカゲの手前で馬を跳躍させた。
そしてトカゲを飛び越えながら長槍を下に突き刺した。
その一撃は背中に刺さり、トカゲは激しく体をくねらせる。
ユーロンは道の先でこちらを振り向くと、再びトカゲ目掛けて馬を走らせる。
そして再び槍を背中に突き刺すと、緑色のトカゲは鮮血で赤く染まって尻尾だけをピクピクしていた。
「ユーロン、乗馬はどこで習ったんだ?」
俺が聞くと「親父」と短い返答が返ってきた。
髪の毛や肌の色からして東の国の出身なのかもしれない。
となると遊牧民か。
遊牧民なら乗馬が上手いのは当たり前だ。
それにしても少年兵にしては腕が立つ。
となるとユーロンだけじゃなく、リュウホも中々の戦闘力なのかもしれない。
わざわざこの二人を護衛に選んだのだから、そういうことなんだろう。
これは少年二人には期待できそうだ。
トカゲを街道からどかして行軍を続けようかと思ったら、リュウホの方が「トカゲはどうするんですか」と聞いてきた。
どうするのかと言わても、わざわざ埋める訳にもいかないから「放って置く」と返すと、もったいないと言ってきた。
「もったいないとはどういうことだ」
「え、だって、折角倒したのに食べないんすか」
食べる?
このトカゲをか?
「えっと、このグロテスクな足の付いた蛇を食うのか」
「はい、僕達の国ではトカゲは普通に食べますよ。この緑トカゲは特に旨いっす」
俺は改めてトカゲを見る。
どう見ても旨そうには見えないが。
「なら食っても良いが、俺達はトカゲ料理は知らないぞ」
「それなら自分が調理するっす。ちょうど昼時ですし、任せて下さいっす」
それならば。
「この辺で昼休憩にする!」
俺は全体に聞こえる声で叫んだ。
「ふう~、お腹減った~」
「ねえ、ねえ、あのトカゲ見てよ……」
「ええ、何する気よ、キモッ」
少女らが腰を下ろしながらトカゲに視線を集めている。
リュウホとユーロンがトカゲの解体を始めたからだ。
この時点で少女らは、まさかこのトカゲが昼食の材料になるとは誰も思っていない。
手慣れたもので、トカゲはあっと言う間に肉のブロックに分けられていく。
その間に各分隊でもスープの準備が着々と進んでいる。
そしてそのスープが煮えてきた頃、リュウホとユーロンが小さく切った肉の塊を抱えて各分隊へと歩き回り始めた。
そして……
「キャー、何してんのよ!」
マクロン伍長の叫び声が山の中に響いた。
そして別の分隊でも同様の叫び声が響く。
「うわっ、あんた、な、な、何入れてんの~~!」
あれはラムラ伍長の声だな。
遂にトカゲの肉を各分隊で作るスープの中へと放り込んだようだ。
そりゃ、急にそんな事すれば悲鳴も上がるってもんだ。
あっという間にリュウホとユーロンは少女らに囲まれた。
「貴様ら、何勝手な事をしておるのじゃ。理由によってはこの場で斬り捨てるのじゃ!」
フェイ・ロー伍長が相当に怒っているみたいだな。
リュウホが必死に美味しいアピールをしているが、ロー伍長は全く聞き耳を持ってない。
だいたいあの数の少女らに囲まれてしまっては、童貞少年二人だと何もできないだろうに。
思春期の少年なんだぞ?
さて、助け船を出すか。
「おい、その辺にしておけ!」
俺は少女らに割って入って行く。
「ボルフ隊長、この子たち私達のスープにトカゲを入れたんですよ、あのトカゲをですよ!」
マクロン伍長もかなり怒っているか。
しかしリュウホ少年は驚いたように反論する。
「こんな美味しいトカゲ肉、滅多に手に入らないっすよ。それをスープに入れてあげたのに怒られるって、まったく意味が分からないっす」
まずいな、このままだと取り返しがつかなくなる。
「ええと、そうだな。このスープをまずは味見してだな、旨かったら問題ないよな?」
俺がそう言うと少女らは何とも言えない表情をする。
すると……
「私が食べてみるにゃ!」
そう宣言したのは、すでにスプーンとカップを手に持つミイニャ伍長だった。
これは都合が良い。
毒見にはもってこいの人物だ。
「良し、ミイニャ伍長、突撃せよ!」
俺の合図でミイニャ伍長のカップにスープが注がれる。
もちろん肉の塊もカップに入れている。
そして猫舌らしくフーフー言いながらスープをすする。
そしてスープに入っている肉の塊をやはり、フーフー言いながら噛り付く。
「お替りにゃ!」
そう言った時にはミイニャ伍長が手に持つカップは空であった。
「ミイニャ伍長、お替りってことは旨かったってことで良いのか」
俺の問いにミイニャ伍長はブンブンと首を縦に振りながら「お替りにゃ!」と連呼した。
そこまで旨いのか?
俺も少し味見をしてみる。
「おお、旨い。こりゃあ本当に美味しいぞ。そうだな、鳥肉みたいな感じだ。しかしここまで旨いとは思わなかったな」
俺の言葉に少女らも半信半疑で次々にスープの味見をしていく。
そして誰もが「美味しい」と言った。
その後、各分隊で作ったスープはあっという間になくなったのは言うまでもないか。
間に合いませんでした。
<(_ _)>
明日もギリギリっぽい!




