105 二人の少年兵
ロミー准尉からの説明によると、アルホ子爵を生きたまま王のいる王都へ連れて行けという、貴族上層部の強引なお願いらしい。
そうなのだ。
あくまでもお願い。
地方の貴族を王都まで連れて来させるような権力など、王都の貴族たちにはない。
王様でさえ、そんな権力はない。
せいぜい王命と言って、報奨金を出すくらいだ。
それでも強制ではない。
しかしである。
今回の報奨金は王様が出してくれる訳だし、王都行ったことないし。
上手い食い物に旨い酒もあるだろう。
そして王都の女はオシャレだと聞く。
是非とも行ってみたい。
俺は大人げなくちょっとワクワクしてるんだが、そこんとこは少女らには気が付かれたくない。
「あにゃ、ボルフ隊長さんにゃ、もしかしてワクワクとかしてるのかにゃ~」
ミイニャ伍長である。
こ、こいつ、変なところで勘が鋭いな。
そもそも一番知られたくない奴に勘付かれた。
「ミイニャ伍長、王都には行けばこっちじゃ買えないような武器が売ってるからな。それに上手い食い物も多いって聞くぞ」
急にミイニャ伍長の表情がパッと明るくなる。
こいつは単純だから直ぐに話をすり替えられるから楽で良い。
「絶対に行くにゃ、王都、行くにゃ」
そこでロミー准尉が俺を呼んだ。
「ボルフ曹長、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
俺が「何です?」と聞くと、ここじゃマズいからと小隊のメンバーから少し距離を取った。
一応少女らからは見える場所なんだが、話声は聞こえない距離だ。
ってことはだ。
少女らには聞かれたくない話ってことだ。
そして神妙な表情でロミー准尉が話を始めた。
「王都へ行く理由なんだけどさ、王様がワルキューレ小隊を見てみたいんだってさ」
なんだ、そんなことかと思ったんだが、ロミー准尉の話は終わりではなかった。
「それとね、もう一つの理由がさあ、アルホ子爵の武器横流しなんだけど、あのアホ一人だけじゃないらしいんだってさ」
もしかして共犯がいるってことか?
「アルホ子爵の他にも貴族が関係しているってことですか」
「そう、そうみたいなんだってさ。それであのアホを護送するんだけどね、もしかしたら口封じの為に、途中で襲われるかもしれないって言うんだよね」
つまりアルホ子爵は関連貴族を捕まえる為の証人ってことか。
そりゃ面倒臭いな。
「ということは、暗殺しようとしてたあのアホを今度は守らなきゃいけないと」
「そういうことみたいね。だからかなり危険な任務ってこと。その代わり報奨金以外も期待できるってさ。ボルフ曹長は色々と活躍してるからさ、きっと何かお金以外のモノが貰えるよ」
と言われてもなあ、特にほしいモノなんてないんだよな。
いや、ひとつだけ欲しいモノがあった。
それは『魔剣』だ。
聖剣でも良いかな。
くれるならどっちでも良い。
違いが良くわからんがな。
俺は貴族と違って平民だから魔剣を持っても問題ない。
貴族は崇高な身分だから魔剣は持ってはいけないらしい。
持てばフェイ・ロー伍長のように貴族の地位を捨てなければいけない。
だけど危険な道中という事は少女らにも聞かせておいた方が良い。
「ロミー准尉、このことは小隊の兵にも伝えておいた方がよろしいかと。油断してもらっても困りますから」
「うーん、そうだね。それじゃ、ボルフ曹長から言っておいてよ。それと出発は明日の朝一番ね。あ、それから言い忘れてたよ――」
そこまで言ってロミー准尉の表情が一変、急に小声で話した。
「――手長兄弟って聞いたことがある?」
手長兄弟?
聞いたことないな。
「誰です、それ?」
「アルホ子爵の子飼いの傭兵らしいね。その兄弟がまだ見つかってないらしくてさ。この街のどこかにいると思うんだけどね。もしかしたらあのアホを助けに来るかもって話だよ」
なんだその程度、どうってことないな。
「たかが二人ですよね、来ても返り討ちですよ」
「そうだよね、天下の“魔を狩る者”がいるんだからね。そうか、心配して損したよ」
とは言ってみたけど、もしかして特異魔法使いなのかもしれないな。
ちょっと怖いかも。
* * *
そして翌日の朝、アルホ子爵を乗せた護送馬車を警護しながら、俺達第一ワルキューレ小隊はアルホーの街を出発した。
護送馬車には御者が二人、さらに騎馬が二頭ついてくれた。
アルホーの街に来た治安維持部隊が付けてくれた男兵士だ。
御者の二人は爺さんと婆さんの兵卒の老夫婦だ。
そしてやはり兵卒だが騎馬兵の二人、こいつらはなんと15歳の獣人少年だった。
久しぶりの男兵士だ。
これで男同士の話が出来る。
でもちょっと若すぎるんだよな。
ただ、少女らに変な真似をしなければよいんだがな。
しかし、それは杞憂に終わった。
少年兵は二人とも女性経験が皆無だったからだ。
同年代だからか、少女らは積極的に少年兵らに話し掛けていくんだが、逆に少年兵らは恥ずかしそうにして視線が泳ぎっぱなしだ。
なんと初々しいことか。
少年は軽装騎馬兵という種別で、革鎧に頑丈そうな長槍を持ち、腰には剣を装備している。
馬に跨ると人は大きく見えるもので、逆に下馬すると急に小ささが目立つ。
少年兵は二人とも比較的小柄な体格だったから余計に小さく見える。
休憩時間になるとミイニャ伍長が真っ先に少年兵に近寄って行く。
どうやらリュウホと言う少年兵がミイニャ伍長のお気に入りのようだ。
「はい、飴ちゃんにゃ。あーんするにゃ」
「え、え、あーんってなんすか、ハズいっすよ」
ミイニャ伍長はリュウホ少年に飴を食べさせたいらしい。
兵卒のリュウホは上官であるミイニャ伍長に逆らえることも出来ず、逃げることも出来ないでいる。
「いいから口を開けるにゃ!」
半ば強引に飴をリュウホの口に放り込み、満足気のミイニャ伍長。
食事時間ともなれば、もっと大変だ。
「リュウホ、こっち来るにゃ。御飯一緒に食べるにゃ」
直ぐにリュウホを捕まえ、何かと世話を焼きまくる。
ミイニャ曰く「前から弟が欲しかったにゃ」だそうだ。
「どうにゃ、この携帯魚、美味しいにゃ?」
「わ、私の事、お、お姉ちゃんって呼んでも良いにゃよ?」
「もっと食べにゃいと大きくなれないにゃ」
ほとんどミイニャ伍長が話すのだが、返ってくる言葉は「はい、そうっすね」くらいだ。
それでもミイニャ伍長は満足らしい。
さて、もう一人の獣人少年兵だが、こいつは変わっている。
あがり症なのか照れ屋なのか知らないが、リュウホ以外とはあまり話さない。
くらーい感じの性格だ。
あれ、メイケに似てるか。
名前はユーロンという。
だがリュウホはミイニャ伍長に取られてしまい、ユーロンはいつも独りぼっちだ。
いつも少女らを避ける様に離れて一人でいる。
完全なるボッチだった。
間に合ったか!
見切り発進だったんで、修正あると思います。




