104 平手打ち
暗い部屋の中が炎で照らされると、熱さに逃げ惑う人影が見える。
「あちちちちちっ!」
悲鳴まで聞こえる、ってことは誰かがいる。
「いきなり人の頭に何するにゃ~!」
「おい、部屋の中の奴、聞こえるかっ」
部屋の中からは返事が無い。
「ボルフにゃん、私の言葉、聞いてるにゃ?」
「返事しないならもう一回、特大の炎をお見舞いするぞっ」
返事は無いか。
仕方ない。
「私はやらないにゃ!」
「ファイヤーブレス!!」
思いっきりミイニャの頭を引っ叩いた。
「ふんにゃあ~~~~~っ!」
先ほどよりも大きな炎が吐き出され、部屋の中を焼き尽くす。
密閉された洞窟の中での火は気を付けろとよく言われているが、今の俺の頭の中にはそんなものは全くなかった。
突然、火だるまになった男が部屋から叫び声を上げながら飛び出してきた。
あまりの凄まじい形相に、クロスボウを構えていた少女らも「キャー」と言う悲鳴を発して飛び退ける。
叫びながら床を転がるその火だるま男。
見覚えのある顔。
「そいつの火を消せ!」
俺はベッドの毛布を手に取り、男の身体の火を叩き消し始めた。
少女らも自分らの水袋を使って男の火を消しに掛かる。
火を消し終えたところで俺は男に向かって言った。
「アルホ子爵、観念しろ」
すると少女らが男にクロスボウを向け出したんで、俺は慌てて止めに入る。
「待て、待て、待て。気が早いぞ、まだ撃つなよ。皆、ここは落ち着け!」
少女らもアルホ子爵に対しては、相当怒りが溜まっているようだ。
今にもボルトを発射しそうな雰囲気だった。
「にゃんで撃たせてくれにゃいにゃっ」
声のする方を見れば、今までにないほどの怒りに満ちた表情で、クロスボウの引き金に指を掛けるミイニャ伍長がいた。
床に転がる男は消沈してしまって「ううう」と唸っているだけだ。
「皆、良く聞け。俺達は誇り高きワルキューレ部隊の兵士、つまり軍人だ。そして俺達の上官はロミー准尉だよな。ならば殺す前にロミー准尉の前に生きたまま連れて行くのが俺達の役目じゃないのか。反論ある者いるか」
誰も口を開かない。
そこで俺は言葉を付け加える。
「このアホ野郎はこの場で殺しはしない。だけど一発ぶん殴るくらいは良いと思う奴、手を挙げろ」
そこにいたミイニャ分隊の少女全員がビシッと綺麗に手を挙げた。
「全たーい、整列!」
順番待ちの列が出来上がった。
もちろんぶっ飛ばすためのだ。
アルホ子爵はロープで縛って身動きが出来ない状態にした。
そこで俺は少女らに向かって言った。
「いいか、ひとつだけルールがある。ぶっ叩く時は平手打ち、ビンタに限る。グーは禁止な。死んじゃったらマズいからな」
こうして少女らは順番に一発ずつアルホ子爵を引っ叩いていった。
ただ、所詮は少女の力だ。
最初は「やめてくれ~」とか言ってビクビクしていたアルホ子爵だが、途中から余裕の表情を見せる様になりやがった。
「えいっ」
ペシッ
「アリソンの仇!」
パシ
「死ねええっ」
ペチン
「ああ、痛い、痛い、タスケテクレー」
アルホ子爵め、完全に棒読みだ。
全然苦しそうじゃねえ!
馬鹿にしやがって、こいつは自分の立場が分かってないとみた。
「ミイニャ伍長、第一ワルキューレ小隊がアホ男に舐められているぞ。こいつにミイニャ分隊の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
「了解にゃ!」
俺の言葉に最後の順番のミイニャ伍長が奮い立った。
ミイニャ伍長がアルホ子爵の前に仁王立ちする。
すると恐ろしいほどのドス黒いオーラがミイニャ伍長から立ち昇る。
そしてミイニャ伍長が右腕をグルグルと回し始め、「ふんにゃ~っ」という気合いの叫び声と共に、その振りかぶった右手をアルホ子爵の顔面に叩きつけ……ちょっと違う!?
「ひぎぃぃ~!!」
まるで魔物の叫び声のようなアルホ子爵の悲鳴が室内に響き渡る。
そして室内の壁に鮮血が散った。
アルホ子爵の顔面には4本の爪のひっかき傷が残る。
「おい、馬鹿猫っ、爪は禁止だっ!」
俺は慌ててポーションをアルホ子爵の顔にぶっかけた。
弱いポーションしか残ってないのになあ。
これだと傷跡が残るだろうなあ。
こうして極秘裏に仕返しを終わらせて、アルホ子爵を連れて地上へと舞い戻った。
ミイニャ伍長が皆の視線が集まる中、アルホ子爵を地面へ転がして言った。
「こいつがアルホ子爵にゃ。見事捕まえてやったにゃ!」
すると少女らから大歓声が上がった。
その歓声を聞いた味方の兵士らも徐々に集まって来て、アルホ子爵の捕縛の情報が広まっていく。
ワルキューレ部隊の噂も結構広まっているようで、「またあいつらかよ」と言って残念そうに兵士らが引き上げて行くのも見える。
ちょっと良い気分だ。
そこでロミー准尉が俺に耳打ちしてきた。
「ねえねえ、あの顔面の引っかき傷、どうしたの?」
「あ、あれですか……ええと、捕まえる時に出来た軽い傷ですよ。ははは」
「ならしょうがないか、でもあの傷で人相変わっちゃったみたいね」
「……」
ロミー准尉は人相書きを見比べながらつぶやいていた。
俺はそれに対して特に何も言わずに沈黙を通した。
実は人相が変わったどころではない。
別人のような顔だがそれは黙っておいた。
さて、ここで少女らに注意しとかなきゃいけない。
「よおし、全員静まれ。俺達の仕事はこれで終わりじゃないぞ。アルホ子爵を連れ帰るまでが任務だ。途中、アルホ子爵の息のかかった者の襲撃に遭うかもしれん。気を抜くな。ロミー准尉によるとだ、死んで引き渡すのと生きたまま引き渡すのじゃ、貰える金が倍以上違うらしいからな。それは俺達の特別手当に影響するそうだ。最後まで気を抜くな!」
「やった~、特別手当だって!」
「キャー、うれしー」
「やったにゃ、携帯魚買えるにゃ」
全く呑気な奴らだな。
金額も知らないくせに大喜びとは。
一人銀貨一枚とかかもしれないのにな。
そして俺達は治安維持部隊を待った後、このアルホーの街を出発した。
アルホ子爵はサンバー伯爵に引き渡すのかと思ってたんだが、どうやらそれは違うらしい。
治安維持部隊の隊長が言うには、アルホ子爵は捕まえた俺達の手で直接役人へ引き渡してほしいとのことだった。
その引き渡す場所というのは何と王都だった。
つまり俺達の目指す場所は王都だ。
ちょっとネタに走ってしまいました……
それもこれもミイニャのせいです。




