103 隠し扉
サリサ兵長が首を傾げながら俺の言葉を繰り返す。
「音ですか?」
「そうだ。あの倉庫に隠し部屋がありそうなんだよ。ただな、花の匂いが強くて匂いじゃわからないらしい。それでうさ耳のサリサ兵長に声を掛けたんだよ。あ、でも身体が動けばの話だけどな」
するとサリサ兵長は「大丈夫です、動けますんでやってみます」と言って、馬車の荷台から降りて来る。
ポーションを使って傷は大丈夫そうだが、まだ体力が戻っていないのか、ヨタヨタしている。
俺より酷いな、これ。
「おい、ほんとに大丈夫なのか。かなりフラついているみたいだぞ。無理するなよ」
「こ、これくらい、ボルフ隊長に比べたら……」
いや、俺と張り合わなくても良いぞ?
杖か何かあればいいんだが。
そう思っていたら「あっ」と叫ぶ声がして、サリサ兵長が地面にコロンと転がってしまった。
「みろ、言わんこっちゃない」
俺はそう言ってサリサ兵長に近づいて、ためらいいなく抱きかかえた。
「な、な、な、な、な、何を、何を、何をし、て、て、て、てんすかっ!」
お姫様抱っこってやつだ。
「なあに遠慮するな。それにみんなの役に立つ為だ。行くぞ」
「み、み、み、皆が見てますって、見てますからっ」
貧弱な抵抗をするサリサ兵長。
すると少女達の視線が一斉に俺に集まる。
「サリダン、いいなあ~」
「ああ、サリダン顔が赤い~」
「キャー、お姫様だっこ!」
「……ズルい」
ちょっと少女らが騒がしいな。
「おい、お前ら、ちゃんと任務をこなせっ」
俺の一声に少女らは沈黙する。
だが視線だけは散らなかった。
俺はサリサ兵長を倉庫内に連れて行き、そこでそっと床に下ろして言った。
「この辺に多分隠し部屋があるんだと思う。何か聞こえるか?」
サリサのうさ耳がピンと立ち、時々耳の方向を変えている。
でも顔は赤いままだ。
そしてしばらくしてからサリサ兵長の口が開いた。
真剣な表情だ。
「わずかですけど低い声、話声のようなものが聞こえます。ただ、近くじゃない気がしますけど」
それを聞いた俺はピンときて声に出した。
「隠し部屋じゃない、ここは隠し通路の入り口だっ。急げ、逃げられちまう!」
叫んでみたものの、少女らは何をしてよいか分からずオロオロするばかり。
そこで俺は愛用の剣を引き抜き、壁にそれを叩きつけた。
最初の一撃で壁の向こう側に空間があることが見てとれる。
そして二回、三回と剣を振り下ろしていくと、壁の間から違和感のある空間が現れた。
するとサリサ兵長が何かを聞き取った。
「声が、慌てるような声です」
壁の間にあった空間に強引に身体をねじ込ませると、そこは部屋ではなく地面に扉がある空間だった。
「地下室だ、ロミー准尉に伝えろ!」
俺はそう言いながら、扉の取っ手を引いてみた。
開かない。
中から鍵が掛かっているようだ。
ならばと扉の隙間に剣をこじ入れる。
強引に剣を捻って持ち上げた。
するとバキバキと言う音を発して扉が開く、というより壊れた。
「誰か、ランタンを持って来い」
扉の中は、下へと続くハシゴが掛けられている。
ランタンにロープを付けて下へと垂らすと、徐々に内部が見えてきた。
三メートルほど下へと続いている。
「俺が先頭で行く、ミイニャ分隊はついて来い」
ゆっくりと警戒しながらハシゴを降りていくと、下へ足が付いたところで横穴になっていた。
人ひとりがギリギリ歩けるくらいの幅の通路が、真っすぐに奥へと伸びている。
壁は削り出された石を使っている。
やはりこれは抜け道か。
そうだったとしたら、もう屋敷の外へ逃げられているかもしれない。
カンテラで先を照らしながら歩を進めて行くと、再び扉に出くわした。
取っ手を引っ張るがここも鍵が掛かっている。
ならばと取っ手に向かって剣を振るう。
すると一撃で取っ手が外れて穴が空き、その穴から明かりが漏れる。
その刹那。
あけた穴から槍の穂先が飛び出した。
俺は咄嗟にその槍の柄を掴み、力一杯引っ張った。
すると「うわ」っと声を上げながら男が一人、俺の目の前に扉ごと倒れ込む。
カンテラの淡い光がその男を照らし出す。
アルホ子爵の家来の兵士だった。
途端にクロスボウのボルトがその男の背中に突き立った。
俺の後ろにいた少女が放ったボルトだ。
俺の身体と壁の隙間から放ったボルトのようだが、俺に当たりそうでちょっと怖い。
それを確認した俺は倒れた兵士を踏みつけながら、扉の先へと入り込んだ。
そこは明かりが多数ある部屋になっていた。
見回すと敵兵が二人、さらに奥への扉がもう一つ見える。
テーブルやベッドもある。
その敵兵二人が剣を構えて俺に向かって来た。
だが後ろから室内へとなだれ込んできた少女ら五人のクロスボウが黙っていなかった。
次々にボルトが発射され、あっと言う間に床が血で染まる。
クロスボウを撃った少女五人は、後から入って来た少女五人にカバーされて、次のボルト発射の準備をしている。
中々上手く連携が取れてる。
ちょっと感心した。
それに室内戦闘という近距離での特殊な状況なのに、クロスボウを上手く使えている。
思わずニヤリとしてしまった。
さて、これでこの穴には敵兵が潜んでいることが判明した。
問題はこの扉の奥にアルホ子爵がいるのかどうかだ。
扉から少し離れた所にクロスボウを構えた少女を配置する。
すべて扉を狙える位置だ。
俺はというと扉の横の壁に潜んで取っ手を掴んでいる。
そして合図に合わせて一気に扉を開け放った。
そこへ五人の少女が扉の中へとボルトを叩き込んだ。
すると残りの少女五人がクロスボウを構えて警戒する。
撃った五人はボルトの再装填作業を始める。
しかし扉の中は真っ暗で何も見えないから結果は不明だ。
だが暗闇でも見える化け猫がこっちにはいる。
「ミイニャ伍長、何か見えるか?」
「部屋になってるにゃ。ここからだと誰も居ない様に見えるにゃ」
もしかしてだが、部屋を暗くして見つからない様にしてるだけじゃないのか?
つまり誰か潜んでいる。
「ミイニャ伍長、そこからじゃ遠いだろ。この扉の横から覗いてくれ」
ミイニャ伍長が「わかったにゃ」と言いながら扉の近くまで来ると、早速暗い部屋の中に首を出した。
そう、俺の目の前にはミイニャ伍長の後頭部がある。
俺は大きく腕を振りかぶり、その後頭部へと一気に平手を振り下ろした。
「ファイヤーブレス!」
「ふにゃあっっ!!」
『バシッ』という乾いた音の後に、暗い部屋の中を大きな炎が暴れまくった。
ストックがゼロですねん。
今日も結構ギリギリだ。
次話、間に合わなかったらさーせん。




