102 熱い視線
タタタン、タタタンと太鼓の音が街中に響く。
街の人々は突然の軍隊の進入に警戒して、家の中へと退避してしまっている。
一般市民への略奪や暴行は厳罰と言い渡してあるはずだが、そんなのお構いなしにそういった行為をする奴らがいる。
そいつらを声で牽制しながらアルホー子爵の屋敷へと進む。
俺はここへ来るときの馬に跨って、第一ワルキューレ小隊の最後尾にいる。
俺の前には荷物用の馬車と、やはり来るときに連れて来たカブトムシのオスがいる。
そのカブトムシの上には負傷したサリサ兵長が乗っていた。
乗っていると言っても、荷物の上で横になっている感じだ。
ポーションを飲んだ直後なんで安静にしているんだと思う。
結局カブトムシも馬も無事だった訳だ。
まあ、それは良い。
だがな、困ったことに後ろを行く俺をサリサ兵長がジッと見つめてくる。
それもずっとだ。
言いたいことがあるなら言ってほしい。
無言でずっと見られるのはかなり辛い。
ある種の精神攻撃ともいえる。
だが俺は前見て進まなきゃいかん。
必然的に何度も目が合う。
そこで特に目を逸らされる訳でもなく、嫌な顔をされる訳でもなく、ただただ俺をジッと見つめてきやがる。
それで俺が気まずさに耐えられなくなり、先に目を逸らすことになる。
だが、何度も何度もそれを繰り返していくうちに、なんだか負けた気持ちになってくるから不思議なもんだ。
徐々にムカムカしてきて、俺は絶対に視線を逸らさないと決めて、サリサ兵長をガン見した。
すると遂に俺は勝利した。
サリサ兵長が先に目を逸らしたのだ。
それも何だか恥ずかしそうに顔を赤くしているんだが?
しかし俺が勝利した後この攻防は終わりかと思えば、今度はチラ見攻撃が始まった。
目が合うと視線を逸らすサリサ兵長。
何なんだよ、このやり取りは!
そんなことをやっている内にアルホー子爵の屋敷に到着した。
すでに戦闘は終わっているようで、門は打ち破られて屋敷内へ兵士が乗り込んでいるようだ。
広い庭を進み邸宅に来て見ると、ここでも略奪は始まっていた。
味方兵士があちこちで室内の調度品を根こそぎ奪っている。
だがアルホー子爵が捕らえられた雰囲気はない。
ということは、まだこの屋敷のどこかにいるはず。
もしかしたら俺がいたぶった傷が元で、すでに地獄へ旅立っているのかもしれない。
いずれにせよ死体は見つけないとこの騒動は収まらないか。
アルホー子爵の私室はもう誰かが乗り込んでいるはずだから、あとは隠れられそうな場所を探すか。
あとは隠し部屋とかに隠れているのかもしれない。
隠し部屋だったら私室や寝室になるはずだが、恐らくそこは他の部隊の獣人が臭いや音で調べつくしているはず。
ならばあとは、まさかと思うような場所に隠れていたりするかもしれない。
「ミイニャ伍長、自分が隠れるとしたらどこに隠れる?」
すると即答だった。
「食糧庫にゃ!」
聞いた俺が馬鹿だったと一瞬思ったんだが――ありえそうだな、倉庫とか。
「ロミー准尉! 倉庫に向かってください!」
俺が叫ぶと首を傾げながらも倉庫へと向かった。
到着すると倉庫は屋敷と隣接はしているが、建物としては別のものだった。
しかし、よく考えたら倉庫とか真っ先に略奪される対象の建物だ。
その考え通りで、現在進行形で倉庫は略奪されている最中だった。
こんなところに隠し部屋作る意味がないか。
と思ったんだが、一か所だけ全く手つかずの倉庫があるのに気が付いた。
その倉庫だけは他と造りが違い、他と結構離れた場所にある。
怪しい、何の倉庫なんだか。
俺は馬から下り、少女兵数名を連れて様子を窺いに倉庫へ確認へ行くことにした。
「ミイニャ分隊は俺に付いて来い。他はここで警戒態勢だ。ロー伍長任せるぞ」
俺はミイニャ分隊を連れて、手付かずの倉庫の確認に行った。
近くまで行くと扉が開け放たれているようだ。
もしかしたら略奪しつくされているのか?
「ねえねえ、ボルフ…さん…にゃ…隊長……食べる物あるかにゃ」
ちゃんと言えてないぞ、ミイニャ伍長!
一応警戒はしておくか。
「ミイニャ分隊、クロスボウ準備!」
いつでも撃てるようにボルトも装填させた。
倉庫に入って敵がいたら近距離での戦いになるんだが、少女兵らに小剣での戦闘は無理がある。
だったら初めからクロスボウでの近距離戦を挑ませる腹積もりだ。
まずは周囲を回ってみるが特に何もない。
開け放たれた扉から中を覗くと、庭園の作業道具らしきものが見える。
略奪されない理由はこれで分かった。
金に成る物などないからな。
中の広さは五メートル四方ほどだろうか。
「中へ入る。ミイニャ伍長、二人選べ」
俺の言葉に少女兵二人を選んで俺の後ろに控えさせた。
俺は短剣を抜き、開いた扉からゆっくりと中へと入って行く。
すると何だか中からは良い香りがしてくる。
ミイニャ伍長が鼻を突き出しながら言った。
「お花の匂いがするにゃ」
五メートル四方の室内なので直ぐに探索は終わり、特に変なものなど置いていない。
庭園を整備したり植物の面倒を見る道具ばかりだ。
何もないか。
しかし、何故だか違和感を感じる。
だがその違和感が何からくるものなのかがわからない。
この倉庫だけ離れて建っていて造りが違うと言うだけで、それ以外におかしな点は無いように見える。
それでも俺はどうしても気になって、一人で何度も周囲を歩き回る。
何周か歩いて回った後、また倉庫の中をウロウロ始める。
少女達が俺は変な目で見るが納得いかないんだからしょうがない。
そこでふと気が付いた。
外側から見た倉庫と内側から見た倉庫では大きさが違う?
ということは……
「ロミー准尉、この倉庫の中に隠し部屋があります!」
俺が大声で叫ぶと、馬に跨ったままロミー准尉が近づいて来た。
「どういうことかな?」
ロミー准尉に説明する。
「奥の壁側の室内の広さが足りていません。つまりは外壁と内壁に隙間があるようですね。その空間に隠し部屋があると思います。でも狭いですからね、そこに人が隠れているかはわかりません」
「ということはだよ、どっかに隠し扉があるってことだよね?」
「はい、今からそれを探します」
そこで先ほどから俺を見つめる視線に声を掛ける。
「サリサ兵長、立てるか?」
うさ耳をピンっと立てて驚いた表情をするサリサ兵長。
「……はい、なんでしょうか」
「音を聞いてくれるか?」
首の付け根が痛い……
('Д')
PCの画面の位置が悪い?




