101 ワルキューレ小隊
「ボルフにゃん、援軍にゃ!」
援軍?
見れば一個小隊ほどか。
いやその後ろ、商用門の外にもいるみたいだからもっといるか。
しかしなんで援軍なんか来たんだ?
単なる暗殺計画だったんだが。
暗殺といっても暗殺失敗前提の作戦だったがな。
最後に一人の敵兵が動かなくなると、クロスボウを斉射していた小隊がどっと俺に向かって迫って来た。
「ボルフさん!」
「ボルフにゃん」
「ボルフ隊長!」
「う、うわああーん」
俺を呼ぶ名はまちまちで、中には泣き出す者もいる。
あ、泣いてるのはアカサじゃねえか……
共通なのはそれが全員少女の声であること。
「なんで第一ワルキューレ小隊がここにいる!」
そうだ、彼女らは鉱山砦に置いて来たはずだ。
俺はこっそり出て来たはずなのに。
俺の疑問に答えるよりも早く、少女らに抱き着かれた。
「おい、やめろ、俺は今死にそうなんだって。動けないんだって。それに返り血で凄いんだって」
そうは言ってみたが、なんだか自分の胸が熱くなるのが分かる。
この俺が少女らとの再会を喜んでいるだと?
これはきっとあれだ。
極限状況での感情の乱れってやつだ。
色々と感情の錯覚を起こすあれだ。
群がる少女らの中を掻き分けて、俺の左肩に食らいついたのはアカサだった。
そして反対の右肩に抱き着いたのはメイケだ。
二人とも泣いている。
「おい、なんでお前らそんなに泣いているんだ?」
俺が言ったこの一言がいけなかったのか、アカサとメイケが突然号泣。
アカサに関しては俺をポカポカと叩き始める始末。
確かに気まずい雰囲気のまま黙って鉱山砦を出て来たのは悪かったと思ってるが、そのくらいでそんなに怒るなよ。
口に出しては言えないけどな。
少し距離をとっていたラムラ伍長とロー伍長が見える。
それにロミー准尉までいる。
なんだ、勢ぞろいだな。
「ロミー准尉、何があったんですか」
俺の質問にロミー准尉がニヤニヤしながら返答した。
「いやあ、中々のハーレムみたいで良い御身分だね~。まあ、それは良いとしてね。周りを見てごらんよ」
ハーレムとかよしてくれ。
また変な噂が立つ。
まあ、それは良いとしてだ。
俺は「ちょっと開けてくれ」と少女らを手でどかして視界を確保する。
すると商用門からは後続の部隊が次々に街中へと入って行く。
「凄い数だな。もしかして、これはここだけじゃない?」
するとロミー准尉は頷いて話を進めた。
「そうだよ。実はさ、パシ・ニッカリの荷物から隠しポケットが見つかったんだよ。その中に何が入ってたと思う?」
「えっと、なんです?」
「魔族との武器売買の契約書だよ、笑っちゃうよね。そんな大切な書類を持ち歩いてたんだよ? アホとしか言いようがないね」
やはりバリスタを魔族に横流ししていたんだな。
その証拠が発見されたってことは、この大規模な部隊はあれか。
「という事は、この部隊はアルホ子爵の拘束部隊、ですか」
「そうそう、この辺一帯の領主らに王命が出たんだよ。反逆者を捕らえよってね。報奨金も出るらしいから皆必死だよ。それよりどさくさに紛れてアルホ子爵の屋敷の略奪が目当てなのかもね」
それでこの規模の部隊が来たのか。
それならばアルホ子爵、ぶち殺しておけばよかったな。
俺がヨタヨタと立ち上がると、少女らが数人で俺を支えてくれる。
「すまんな、助かる」
俺はそのままロア婆さんの所へと向かう。
そして片膝を突いて祈った。
『婆さん、あんたのおかげでミイニャとサリサは助かったよ。それと俺も生き残れた。ほんとにありがとう』
俺は再び立ちあがり、少女らにお願いをする。
「すまないが、この婆さんを埋めてやってくれるか。そうだな、この街が見下ろせるあの丘がいいかな」
街壁の外にちょっとした丘があり、その丘を俺は指差した。
すると理由も聞かずに少女らは、丁寧にロア婆さんを丘へと運んで行く。
埋葬が終わり少女らが戻って来る頃には、領主の屋敷へ味方部隊が到着したのか、激しい戦闘が繰り広げられているようだ。
ここまで争いの音が聞こえてくる。
始まったか。
俺達も行かないと報奨金が貰えなくなるか。
俺が装備を整え始めていると、フェイ・ロー伍長が近づいて来て言った。
「ボルフ隊長、少し休んだ方が良いじゃろ。誰かポーションを持って来てくれるかの」
だが俺はほとんど傷ついてはない。
「ロー伍長、かすり傷程度だからポーションは必要ないよ。俺はただ、疲れただけだから……」
「なあボルフ隊長や、もしかしてじゃが、ここにいた一個小隊を相手に一人で戦ったのか?」
「一人じゃないよ、ミイニャがいたからな」
俺が言った言葉に何故かフェイ・ロー伍長だけじゃなく、ロミー准尉までもが目を見開いている。
「ひ、ひとりで一個小隊……マジで凄いんだけど」
だからミイニャがいたってのに。
だけどなんでそんな顔する?
「俺、何かマズいこと言ったか?」
するとフェイ・ロー伍長が言った。
「ロミー准尉、これが“魔を狩る者”の本領じゃよ」
するとロミー准尉は眉間にしわを寄せて言った。
「化け物だな……」
その言葉はさんざん言われてきたことだから慣れたよ。
なんだか安心したら体中の力が抜けていく。
近くの岩に俺は座り込む。
「そうだ、サリサは、サリサは無事か?」
するとミイニャ。
「ボルフにゃん、安心するにゃ。サリダンは馬車の中で寝てるにゃ」
ミイニャの言葉にアカサが反応した。
「そういえば、さっきからミイニャ伍長、ボルフ隊長のことを“ボルフにゃん”って呼んでるよね?」
あ、しまった!
こいつの性格だと「元の言い方に戻せ」って言わないとダメな奴だったか。
「あれはだな、ボルフさんを言えなくてボルフにゃんになっただけだ。気にするな」
「ふーん、良くわかんないけど、なら私もそう呼ぶ~」
「え~、じゃあ、私も~」
「なんか可愛いし」
「……ボルフにゃん……ふふ」
こ、こいつら……
「第一ワルキューレ小隊整列!」
突然の俺の号令に大慌てで隊列を組む少女達。
成長したもんだな、突然の命令でもしっかり反応するようになった。
整列したところで俺はゆっくりと立ち上がる。
「俺の事は隊長か曹長と呼べ。これは命令だ。それとだ、これより我が小隊はロミー准尉の指揮の下、アルホ子爵をぶん殴り――ゴホン、捕縛しに向かう!」
そう言って整列する少女らの表情を見まわす。
何とも微妙な表情だな。
まあ良い。
「それではロミー准尉、お願いします」
「え、私?」
まさか振られるとは思ってなかったのか、ちょっとアタフタしているが、なんとか落ち着いて号令を掛ける。
「それじゃあさ、ついて来てよ」
そう言って連れて来ていた馬に跨って前進を始める。
その後ろには楽器を持った少女が三人ついて行く。
いつのまに鼓笛隊を入れたんだ。
小隊規模では普通は配備しないんだが、まあロミー准尉の好みなんだろう。
太鼓の音に合わせて少女らの小隊が行進を始めた。
目指すはアルホー子爵の屋敷だ。
終戦協定というくだりを『不可侵協定』に変更しました。




