100 死の境界
俺は命令と言ってミイニャに不可侵協定の書類を渡した。
「命令ならしょうがないにゃ」
素直に受け取ったのを見て、さらにポーションを渡す。
「それから最後の一本の中級ポーションだ。サリサに使ってやれ」
俺はポーションをミイニャの腰のポーチにねじ込んだ。
するとミイニャ。
「わかったにゃ。でもどこで落ち合うのにゃ?」
ここでグズグズしてたら敵が隊形を整え終わっちまう。
わかんねえ奴だな、早く行けって。
「俺とミイニャは落ち合わない、いいから早く行け!」
すると意識を取り戻したのか、ミイニャの背中のサリサが苦しそうにも話し出す。
「……ミイニャ、ボルフ隊長はね、一人で戦うつもり、なんだよ……」
「なんでそんなことするにゃっ。それなら私も一緒に戦うにゃ!」
俺はミイニャの両肩を掴んで、正面から目を見る。
「ミイニャ、良く聞け。お前らが外に出たら門を閉める。そうすればな、しばらくは追手が来ない。だがな、この門を敵が開けない様にする為に誰かが残る必要がある。それはお前じゃ無理だ。それに獣人二人なら逃げ切れる可能性は高い。わかってくれ、これが最善の方法なんだ」
ミイニャの背中のサリサが涙を流し始める。
「…ボルフ、隊長……うう…ごめん、なさい……ごめんなさい……ううう」
するとミイニャが表情を変えた。
こんな表情のミイニャは初めて見るかもしれない。
怒っているのか?
「ボルフにゃん、約束してくれにゃ。約束してくれたら言う事聞くにゃ」
ちょっと敵が騒がしい。
ミイニャに「ちょっと待ってろ」と言った上で、俺は近くに落ちている敵の槍を拾い、隊形を整えている部隊へと投げつける。
「ぐぎゃああっ」
「くそ、隊列を崩すな!」
これでまた敵は混乱を始めた。
少しは時間を稼げたか。
俺は改めてミイニャに聞く。
「なんだ、約束というのは」
ミイニャが悲しそうな表情をする。
「生きて帰って来るって約束するにゃ!」
そう言うミイニャは目に涙を一杯に貯めていた。
俺も少し辛くなるが、悟られないよう出来るだけ明るく言ってやった。
「俺を誰だと思ってるんだ。俺は“魔を狩る者”にして“地上の悪魔”だ。死ぬわけないだろ」
ミイニャが急にプイっと顔を逸らし、「んじゃ待ってるにゃ」と言い放って走りだす。
だが俺の目にはミイニャの涙がしっかりと映っていた。
敵が隊列を整えて俺との距離を詰めて来る。
俺は門の扉を閉めて敵がミイニャを追わない様にし、そして自分の退路を断ち切った。
俺は肩で息しながらも地面に落ちている槍を拾う。
少しは休めたがこれくらいじゃ体力は戻らない。
残りは三十人か。
申し分ない数だな。
さて――
「貴様らに言っておく。今からここにいる全員を斬る。今までは魔族を狩ってきた俺だがな、魔族も人族も変わらないってのが今日わかった。だからもう一度言う、ここにいる全員を叩き斬る!」
言い終わるか終わらないかのうちに俺は走りだす。
そして敵の防御隊形の寸前で槍を地面に突く。
その槍を軸にして、棒高跳びのように大きく跳躍した。
着地したのは敵の隊列の後ろ。
狙うは指揮官!
「おらあああああっ」
着地と同時に剣を振り下ろす。
正に一刀両断。
左肩から入った剣が袈裟切り状に右腰から突き抜けた。
敵の小隊長の胴体は二つに分かれて地面へと転がる。
隊列から悲鳴が聞こえ、何人かは走りだす。
逃げる敵兵にはそこら中に落ちている槍を拾って投げつける。
今の俺には追いかける体力もない。
それに俺に向かって来る敵兵も少なからずいる。
一人斬り倒した。
もう一人の足を斬り飛ばす。
さらにもう一人は盾を蹴飛ばし転ばせた。
逃げる背中に槍を突き刺す。
しかし、俺の限界も近いようだ。
立っているのも辛くなり、地面に片膝を突く。
「見ろ、奴が膝を突いたぞっ!」
「おおおお」
「いけるぞ、いける!」
膝を突いただけなのに、敵兵は俺を討ち取ったかのような喜び方だ。
数人の敵兵が盾をかざして押し込んでくる。
槍はなんとか剣で払い除けたが盾までは避けられなかった。
俺は押し飛ばされるようにして背中から倒れ込んだ。
くそ、俺はまだ戦える……
上半身を起こす。
そこへ敵兵の一人が叫びながら突進して来た。
そいつはサリサに剣を向けたあの伍長だった。
俺は起こした上半身を再び寝かせると、顔の上を槍の先が突き抜ける。
俺はその槍の柄を掴んで手繰り寄せた。
伍長が「うわっ」と言いながら俺の足元へと来たところで、そいつの足のスネ辺りを軽く蹴飛ばす。
俺はその伍長の倒れるであろうところに剣を据えておくだけで良かった。
「ぐあっ」
悲鳴と共に俺の剣が伍長の腹に突き刺さった。
さらに伍長の鎧を掴んで引き寄せる。
すると剣がさらに深く刺し込まれていく。
「ぐぐぐ……」
そしてお互いの顔が近づいたところで言ってやった。
「貴様の顔は忘れてない。だからどんなことがあっても殺すって言っただろ」
そう言って剣の柄を思いっきり押し込んだ。
だが俺の言葉はすでに届かないところへと伍長の魂は向かってたようだ。
絶命した伍長をどかしながら俺はなんとか立ち上がると、全身が返り血で真っ赤に染まっていた。
さて、残りの敵兵で戦えそうなのは10人と少し。
残りは逃走したか、気が変になったのかのどちらかだ。
俺がフラフラと敵に向かって歩を進める。
剣を持つ手にも力が入らず、剣の先を地面に擦り付けながら前へ進む。
「よおし、あいつはもうフラフラだ。みんなで一斉に飛びかかればいける。いいか、俺の合図で一斉に飛びかかるぞ」
確かに今の俺にはそれはキツイ。
まあ、そんな事しなくても俺にはもう抵抗する力さえないのだが。
腕が重い。
剣が持ち上がらない。
頭ではわかっちゃいるんだが、身体が言う事を聞かない。
遂には剣の柄さえも握っていられなくなり、手の平から俺の剣がこぼれ落ちた。
俺はそれでも拳を前に出す。
俺はあいつらを守らなくちゃいけないんだ。
遂には膝が勝手に折れ曲がり、俺はその場に座り込んでしまう。
腰が重い。
足が石の様だ。
頭の中に過去の記憶が蘇る。
少女新兵二十人を集めて新兵訓練したんだったな。
そう言えばミイニャとラムラは最初から問題児だったな。
あ、そうそう、サリサは直ぐに騙されて手を挙げて志願してたっけな。
その度に「やりやがったな」とか言ってたっけ。
それにメイケは初めからしゃべらなかったよな。
ああ、アカサ、矢を抜いてやったんだっけ。
懐かしいな。
「第一列、構え~~、撃てっ」
「第一列前進、第二列構えっ、撃て!」
そうそう、こんな感じでクロスボウの連続斉射で敵を蹴散らしたこともあったな。
「あっちにも敵がいるにゃ、逃がすにゃ!」
「にゃん、にゃん、うるさいぞ。今懐かしい思い出に浸って――」
ん?
なんか様子が変だ。
敵兵の身体に次々とボルトが刺さっていく。
だいぶ先まで逃走した敵兵までが倒されていく。
クロスボウの斉射?
俺は後ろを振り返る。
「ボルフにゃん、お待たせにゃ」
そこには逃がしたはずのミイニャがいた。
遂に100話到達。
本当はこの辺で最終話を狙っていたんですが、途中で設定を変えてしまいまして、最終話は回避されましたw




