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1 訓練所








 50年以上は続くこの戦い。

 人々はその戦いに慣れてしまっていた。

 そうなってしまった今では、この戦いの発端など誰もが忘れて久しい。

 日常生活の直ぐ目の前に戦いはあった。


 それはいつ終わるとも思えない、人族対魔族の全面戦争だった。


 人族とはヒューマンであり、ヒューマンの生活に溶け込んでいる獣人族も人族として戦っている。

 敵対勢力の魔族というのはゴブリンにオークにコボルト、それと彼らに使役されている魔物の類もいる。


 それ以外に多種多様な種族の傭兵団が、時には味方や敵となって戦場で戦う。


 この戦いで人々の生活も大きく変わったと言われている。


 男は戦場へと赴き、女子供は街や畑でそれを支える。そんなのは昔の考え方だ。

 今や15歳になれば男女問わず徴兵され、3か月の新兵訓練を経て兵士として働くのが常だった。

 ただし女性兵士は後方勤務や看護兵、そして補給部隊などが主な配属先となり、最前線に出て直接戦闘に参加することはまずない。

 それでも兵士不足から、多数の女性が兵士として送り込まれている。

 除隊できるのは40歳になるか、戦えないほどの負傷か、あの世に行くときだけ。

 だが、中には退役後の生活の心配から、40歳を過ぎても居残る者も数多くいる。

 それは特に手に職もない貧困層や借金まみれの者、犯罪に手を染めた者などだ。


 そんな時代が長く続いたため、人々は疲弊し人口は減り続けた。





  ▽  ▲  ▽  ▲  




 

「そこの新兵っ、デブ、お前だお前。しっかり行進しろ!」


 まるまると太った少年兵が、目の前にいる女子新兵の尻に手を伸ばそうとしたのだ。

 こいつは金持ちの商人の息子である。

 平民街ではそこそこデカい顔が出来たろうが、ここではそうはいかない。

 金持ちもホームレスも平民であれば一緒だ。

 それをあとでコッテリ教えてやるか。

 

 今ここにいる新兵は皆15歳になったばかりの男女だ。

 反抗期な上にエロにばかりに興味がいくお年頃。

 まともな集団行動さえできない。


 そんな彼ら彼女らは、農家に生まれた者、狩人の子供、パン屋の子供、貧民街で拉致同然で連れて来られた者、と雑多な者が集めれらた場所。

 もちろん中には裕福な商人の子もいる。

 共通する事は徴兵されたということ。


 まあ、出生はまちまちだが学校なんてものに通った事がある奴など、裕福な家庭環境だった家の子だけで極少数だ。

 そんな子供達に集団行動など無理と言っても良い。

 新兵が使う槍の訓練でも、教官の掛け声を無視してるのかというくらいバラバラなのだ。

 誰もが周囲に合わせようとしない。


 はっきり言ってストレスの溜まる仕事である。 

 こいつらをたった3か月でいっぱしの兵士にしなければいけない。

 それが俺の職業、新兵訓練所の教官だ。


 ここにいる新兵の共通点と言えば「貴族」はいないという事だ。

 それに関しては非常にやりやすい。

 言葉使いも気にしなくて良いしな。

 すべて平民の出で、学がある奴もほとんどいない。


 ここにいる者のほとんどは、その日の喰う物に困った経験があるような奴らばかり。


 それを考えれば、一日3食の食事が付くここは天国かもしれない。

 少なくても喰う物と寝る場所には困らない。


 それに関しては孤児院で育った俺にも言える。


 飯時となるとそんな少年少女新兵の長い行列ができる。

 行列の先には黒い固いパンと具のほとんど入っていない薄いスープが待っている。

 時には魔物の肉入りスープなんて時もある。

 そんなものでも大多数の新兵にとってはごちそうだ。


 平民には入隊の義務がある訳だが、お貴族様だと志願でもしなければ軍隊に入ることはまずない。

 仮に入隊したとしても士官学校がスタートだ。

 こんな薄汚い新兵訓練所ではなく、豪華な造りのお貴族様専用の士官学校だ。

 

 ちなみに俺はもちろん貴族ではなく平民、それも孤児院で育ったので平民の中でも最下層の貧民といわれる出だ。


 だが軍隊に入ったおかげで職業軍人となり、軍曹と言う下士官の役職もある。

 さらに今は新兵訓練所の教官でもある。

 ただ、そうなるまでに色々と経験はした。

 

 これでも軍に入って10年以上戦い、その中を生き残ってきた。

 だから俺もここにいる年端としはもいかない新兵どもからは、オッサンと呼ばれる位の歳にはなった。


 運よくなのか、戦場を離れて後方の訓練所で教官をやっているのが現状なのだが、そんな平穏な生活も直に終わる。


 と言うのも、前線行きの辞令が既に出ているからだ。


 その辞令というのは、新兵を引き連れて前線へ行けと言う内容。

 その辞令が今日、正式に訓練所隊長から言い渡されるはずだ。





 訓練所長の部屋の扉をノックすると「入れ」と返答がある。

 俺は直ぐに「失礼します」と言って部屋の中へ入って行った。

 何度も来たし見た、殺風景な何もない部屋。

 隊長は貴族なんだが、この部屋の作りは貴族っぽくないし、だからと言って貴族っぽい装飾をしようともしない。


 その部屋で俺は、唐突に辞令を正式に言い渡された。

 しかしそれを聞いて訳が分からず思わず聞き返してしまった。


「えっと、隊長殿、それはどういう事でしょうか?」


 通常だったら士官に対してこの物言いなど、即刻に懲罰刑でもおかしくない状況だ。

 それくらい平民と貴族の格差はある。


 しかし隊長は初めから説明するつもりだったかのように、辞令に書かれている意味を話し始めた。


「ボルフ軍曹、いいか良く聞けよ。お前に出された命令はだな、ここの女子新兵を使ってクロスボウ部隊を編成することだ。選抜は貴様に任せる。もちろん新兵訓練は貴様がやるんだ。それで訓練所を出たらそのまま貴様はそのクロスボウ部隊を率いて戦場へ出ることになる。どうだ、理解できたか?」


 新兵ばかりのクロスボウ部隊を育てるってのは良い。

 そんな新兵部隊はいくつもある。

 だけど、聞き捨てならない言葉がひとつあった。

 「女子新兵」というパワーワードだ。


 俺は直立不動の姿勢で斜め上に視線を固定したままで発言した。


「何度もすいません。“女子新兵”と聞こえたんですが、何かの間違いではないでしょうか」


 すると隊長。


「そうだな、そう言ったな。間違いではないぞ」


 あっさりと認めやがったな。


「まさか、女子だけで部隊を編成しろと言うんですか……」


「そうだ、それが上層部からの命令だ。貴様に拒否権はないが、一応言いたいことがあれば言ってみろ」


 それって言っちゃダメなパターンじゃねえのか?

 だけどな、一応な、確認のために……


「隊長殿、部隊に男性兵士を少しだけ、加えてもよろしいでしょうか」


「ボルフ軍曹、何度も言わせるなよっ」


 まずい、まずい、ぷんすかさせちまった!


「は、はい、失礼しました。ボルフ軍曹、命令を遂行すいこういたします」


 こうして俺は少女ばかりの新兵で構成されるクロスボウ部隊を作ることになってしまった。


 訓練所隊長曰く。


「最前線に出ているような男共の部隊の中に15歳の少女を入れたらどうなるか、解かるだろう。だから女子だけの部隊を創設することになった」


 だそうだ。

 さらに「貴様なら任せても安心だからな」と言われた。


 いや、いや、俺も普通の男なんだがな。


 それにクロスボウ部隊ならば接近戦ではなく遠距離戦、力の弱い女性でもいけるだろうという上層部の判断らしい。


 こうなった背景には、人口の減少による兵士不足が挙げられる。

 兵士が少ない上に男性が不足しているという現実がある。

 いつも死ぬのは若い男兵士だからな。


 それで軍の上層部から、最前線で戦える女子部隊を創設しろとお達しがあったんだそうだ。

 

 だけど俺は接近戦の方が得意なんだよな。

 クロスボウも扱えるが、どっちかと言うと剣で暴れるのが好きだ。

 ま、命令とあれば俺に拒否権などない。


 そして早速翌日の朝から俺は仕事に取りかかかった。


 街の徴兵所へ行き命令書を見せ、俺の指定した新兵は俺のいる第一訓練所に送るように伝えた。

 もちろん徴兵所の顔なじみの軍曹には金を掴ませている。

 この街は大抵はすべて金で片が付く。

 だが俺の有乎無乎なけなしの酒代が消えていったぜ。

 

 俺の今いるこの町はサンバー伯爵家の城がある、言ってみれば城下街だ。

 その名もサンバー街と伯爵の名がついている主要都市だ。

 街の中央には伯爵城がそびえ建つのが見える。


 この辺りじゃ一番でかい街でもあるな。

 伯爵城を中心に城壁が建っているが、それは貴族街まで。

 その城壁の外周にも街が広がり、その周囲は外壁で囲われている。


 さらにその外周に貧民街が広がる。

 貧民街の外周には木造の柵はあれどそれは気休め程度だな。

 弱い魔物なら防げるが、ちょっとでも強いのが出てくると貧民街の住民は逃げ惑う。

 貧民街には基本、街の警備隊も出向かない。


 それで貧民街にも自衛組織はあるのだが、所詮は金のない連中が組織した自衛組織だ。

 大した武器もないから結構な被害が出る。

 それでも住人達はここに居座る。


 人里離れると魔物に襲われる可能性が高いからだ。


 ここに居れば本当に強敵が現れた場合、伯爵も放ってはおけない。

 最終的には伯爵軍が出張って来るという訳だ。








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