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第8話。「旅行(上)」

 翌朝の事だった。

「起きてください」

「……ん?」

 訳も分からぬまま起こされるぼく。

「おはようございます」

「……おはようございます」

 寝ぼけ眼をこすりながら、ぼくはそう答えた。

「朝食の準備が出来てますよ」

「……うん」

 テーブルの上には美味しそうなパンがたくさんあった。

「どうぞ召し上がってください」

「……いただきます」

 まだ寝ぼけているのか、いまいち味がよく分からない。

 ……というか眠い。

「朝食が終わったら早く着替えてください」

 訳も分からぬまま着替えを始めるぼく。

 えっと……Tシャツと……ジーンズと……汗かいて気持ち悪いからパンツも換えよう。

 ところで何でぼくは着替えてるんだろうか?

 ……というか眠い。

「それでは時間もありませんし、そろそろ行きましょうか」

「……うん」

 訳も分からぬまま家を後にするぼく。

 扉を開けると熱風が体を包み、汗が毛穴から吹き出てきた。

 ……というか眠い。

 階段を下りると、目の前にはどこかで見た事があるような、黒くて長い車が停まっていた。

「それでは出発しましょう」

 訳も分からぬまま車に乗るぼく。

 横にはスヤスヤと眠るイヴがいた。

 皐月さんがいた。

 美優がいた

 そして遅れて綾瀬が乗ってきた。

「5時間ほどで着くと思いますから、眠っていても大丈夫ですよ」

「……うん」

 どんどん遠のいていく意識の中、ぼくはまだ薄暗い空にゆっくりと昇る綺麗な朝日を見た。




「起きてください」

「……ん? 綾瀬」

 朝、目が覚めると何故か目の前に綾瀬の顔があった。

 それに、枕の感触がいつもと何だか違うような……。

「きゃっ! ……もう、神坂君ったらそんなとこ触っちゃダメですよ」

 綾瀬は一体何を言ってるんだろうか? ……ってこれは!?

「うわっ!? あ、綾瀬!? 朝っぱらから人の家でで何やってるのさ」

「何って神坂君が気持ちよく眠れるように膝枕を」

「いいよそんな事しなくて!」

「イヤでしたか?」

「イヤじゃないけど……ってそうじゃなくて、何で綾瀬がぼくの家にいるのさ!?」

「えっ? 神坂君こそ何を言っているんですか?」

「だから……」

 ちょっと待てよ? そういえば何だか部屋の様子がいつもと……それにちょっと揺れてる? それにそれに何でさっきから潮の匂いが? ……って!

「ここはどこだあああああー!?」

「それが私にも分かりませんの……(笑)」

「嘘だよね! 絶対嘘だ! だって語尾に(笑)ってつけたもん!」

「日本の領海内です」

「範囲が広すぎるよ!」

「だって! ……これ以上詳しく聞いたら神坂君の命が……」

「えっ? 嘘だよね? 嘘って言ってよ!」

「嘘です」

「良かった! なんかムカつくけど良かったよ!」

「ここは私の小学校の入学祝にもらったお船です、それよりそろそろ皆さんを起こしましょうか」

 ……何だか突っ込みどころが満載だったけど、一番引っかかったのは。

「皆さん?」     

 ぼく以外に誰かいるのか?

 すると綾瀬はとなりの部屋を指差した。

「こちらです」

 そしてぼくたちは、今いた船室を隣の部屋へと移動した。

 廊下へ出たとき、ざっと10ほどの扉が見えたけど、普通の船にはそんなに部屋がついてるものなんだろうか?

 隣の部屋の扉を開けるとそこには1つのベット(キングサイズ)で眠る美優と皐月さんとイヴの姿があった。

「じゃあ神坂君、みんなを起こしてきてください」

「いいけど、何でぼく?」

「私は王子様じゃありませんから」

「……?」

 何を言っているんだろうか?

「まあいいや、とりあえず起こしてくるよ」

 ぼくはベットの脇に腰を下ろし、手前に寝ていた皐月さんの肩を軽く叩いてみた。

「皐月さん」

 ……起きない。

 次は両肩を持って少し強く揺すってみた。

「皐月さん!」

「ん……かみ……しゃか?」

 良かった。やっと起き……。 

「キャー! 神坂君ったら夜這いだなんてそんな……」

「ちょ!? 何言ってるの綾瀬!」

「え……ええっ! 神坂!? な、何でか、神坂が私の部屋に!? そ、それに夜這い!?」

「待って! 皐月さん落ち着いて……」

「ダメだよ神坂!」

「うん! 分かってるよ!」

「もう朝じゃない!」

「そこ!? 突っ込むとこそこ!?」

 ……という事はもし夜だったら? ……まさかね……ってなんかデジャヴだ。

「ってあれ? ここは?」

「良かった。やっと落ち着いたみたいだね」

「……ん? ここは?」

 美優が今のやりとりで目が覚めたみたいだ。

「おはよう美優」

「……おはようお兄ちゃん」

 あれ? 美優のやつ案外落ち着いてるな。

「美優、今の状況なんだけど」

「大丈夫。大体分かったわ。多分ここは船の中、そして一番落ちついてるのは綾瀬さん。だからこれは綾瀬さん主催のサプライズイベントってところでしょ」

「大正解です! 美優ちゃんは頭がいいですわね……兄とは違って」

「当然です。私は兄とは違いますから」

「その語尾に『兄とは違う』ってつけるのやめてくれないかな!?」

「で、綾瀬さん。私たちはどこへ向かっているんですか?」

「そうですね。そろそろ到着する頃ですし、皆さん甲板に行きましょうか」

 綾瀬の言うとおり甲板に移動したぼくたちの目の前にあったのは……。

「あれって……」

「……島?」

 ぼく達の目の前に現れたのは半日もあれば一周出来てしまいそうな小さな島。

 民家みたいなものは1軒も無く、人が住んでる様子も無い。

 辺りに何もない。そんな中、島の中央にはお城のような豪邸がそびえ立っていた。

「あれが私たちの目的地。私が中学の入学祝にもらった島です」

「島!? 入学祝に島!?」

「そうですけど、何か変ですか?」

「い、いや……」

 本当に分からなさそうな顔をする綾瀬。

 こういう天然なお嬢様みたいなところが男子に人気があるんだろうなあ。

「そういえば友里、私たちの荷物は?」

 確かに荷物……荷造りした覚えはないしな。

「皆さんが準備をしてるときに私が荷造りしておきました」

 何か嫌な予感がする。

「綾瀬、その荷物はどこ?」

「神坂君が私の膝枕で眠っていた部屋にあります」

「ち、ちょっ!?」

 今ここでそんな事言ったら……。

「神坂、あんた……」

「お兄ちゃん……」

「それに神坂君ったら、あんなところまで触るなんて……」

「神坂!」

「お兄ちゃん!」

「誤解だよ! 綾瀬もそんな紛らわしい言い方しないで!」

「フフフ。冗談です」    

 何もかも分かっているような顔をする綾瀬。

 こんなドSなところはみんな知らないんだろうな……。

「それよりも荷物を見に行こうよ」

 ぼくの提案に渋々了解する皐月さんと美優。

 2人の目つきが異様に険しいのは気のせいじゃないだろう。

 綾瀬の言うとおり、ぼくが最初いた部屋の隅にはぼくたちの荷物らしきものがあり、そしてその中には見覚えのあるぼくのカバンがあった。

 持ち上げてみると中々重く、中を開けるとそこには……。 

「何じゃこりゃー!」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「えっ!? な、何でもないよ……」

 とにかくこんなもの絶対見られるわけにはいかない!

 というか綾瀬のやつ、どうしてこれを!?

「なんかあやしいな……えい!」

「あっ! 美優やめろ!」

 いきなり飛びついてきた美優にバランスを崩したぼくはカバンを手放してしまい、そして倒れたカバンの中からは……。

「…………」

 カバンから出てきたものを見て固まる美優。

「もう、2人とも何やってるの……って何これー!?」

 カバンから出てきたものを見て驚愕の声を上げる皐月さん。

 カバンの中から出てきたのはぼくの……ぼくの秘蔵コレクション……。

「ち、違うんだ! これは……」  

「不潔! いや! 近寄らないで!」

「落ち着いて皐月さん!」

「仕方ないよね。お兄ちゃんも男の子だもんね」

「美優!? 何でそんな遠い目をして言うの!?」

「私的にはこれが一番おススメですわ」

「何やってるの綾瀬!? っていうか本当に何やってるの綾瀬!」 

「神坂君ったらHな本の隠し場所が押入れの中の電気ストーブって書いてあるダンボールの中だなんて、ベタすぎますわ」

「ベタじゃないよね!? ぼく結構頑張ったんだけど!?」

「不潔……」

「お兄ちゃん!」

「は、はい!」

「何で妹萌えのが無いの!?」

「あるわけないだろ!」

「楽しくなってきましたね」

「楽しくないよ!」


 こうして綾瀬主催の旅行は波乱の幕開けとなった。

 今からこんな調子じゃ、これから先一体どうなる事やら……。

 ……ん? 何か忘れてる気が?     



「……ここはどこだ?」 

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