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第7話。「ファミレス」

 夏休みも1週間が過ぎたある日のこと。

「おはようスバル」

 おはようと言うにはもう遅く時刻は午後1時を過ぎていた。

「おはようイヴ。朝ごはん……っていうかお昼食べる?」

「……うむ」

 イヴはまだ寝ぼけているのか、曖昧な一つ返事を返した後、先日買ったばかりの扇風機の前に座り込んだ。

 クーラーを買いに行ったつもりだったんだけど……値段が工事費が電気代が(以下省略)。

「あ〜〜あ〜〜」

 またやってる……。

 扇風機を買った日に教えてから、気に入ったのか毎日のようにやっている。

「それにしても今日も暑いな……」

「そうだね……って、扇風機自分の方だけ向けないでよ」      

 そう言ってぼくは固定されていた扇風機の首を回した。

「阿呆! 早くこっちに向けぬか!」 

 イヴは再び回り始めた扇風機を無理やり自分の方へと向ける。

「そんなに乱暴にしたら壊れちゃうよ」

「なら、お前が手を離せ!」

 ぼくとイヴが必死に取り合いをしているうちに扇風機は徐々に悲鳴を上げていき、そして……

 バキッ! 

「あっ」

 扇風機は見事に首と胴体の真っ二つに割れた。

「まだ買ったばかりなのに……」

 接着剤を片手に急いで近寄るも、中のコードまで引きちぎられたモノからは直せる気配を微塵も感じさせなかった。

 こうして今日も平穏とは程遠い一日が幕を開けた。



 それから10分後、ぼくとイヴは腹ごしらえと避暑のため町内のファミリーレストランに来ていた。

「いただきます」 

「うむ。いただきます……」

 ハンバーグセット850円……痛い出費だ。

 イヴはというと、何故か1人前しか頼んでなくて、ぼくはそれに妙な違和感を覚えた。

「なあ……スバル」

「何?」 

「怒っているのか?」

 ……ああそうか。それで1人前しか頼まなかったのか。

「怒ってないよ」 

「本当に?」

「うん。だから遠慮しないで食べていいんだよ」

「本当か!?」

 するとイヴは目を輝かせてこう言った。

「そこの店員! 追加でハンバーグセット10個だ!」

「ちょっと待ったー!」

「何故だ! 遠慮するなと言ったのはお前だろう!」

「そうだけど……やっぱダメ!」

「……あのお呼びになりましたか?」

「ああ、すいません。何でも……」

 声のする方を振り返るとそこには、ちょっと露出度の高い可愛い制服のウエイトレスがいた。

 ……ってあれ?

「西野……さん?」

「何でしょうか、お客様」

「西野さんだよね?」

「御用が無いようなら失礼します!」

「えっと、じゃあ追加でハンバーグセット1つ……」

「かしこまりました」

 そう言って西野さんは厨房の方へ去っていった。

 かなり怒ってたみたいだけど……でも何で西野さんが?

「それは美月ちゃんが夏休みの間ここでアルバイトすることになったからですよ」

「そうなんだ……って、うわっ!?」

 綾瀬があらわれた。

「もう神坂君ったら、人をモンスターみたいに言わないでください」

「人の心を読まないでください!」

「お久しぶりですわね、イヴちゃん」

「うむ。久しぶりだな」

「ところで神坂君達は何をしにここへ?」

「何を? って見ての通り食事だよ。そういう綾瀬こそ何でここに?」

 綾瀬の家は金持ちで、専属のシェフがいるくらいだから、こんな所へ食事をしにくるわけがない。

「それはもちろん目の保養ですわ」

 ……なるほど。

「ここのファミリーレストランは家のグループが経営しているのですけれど」

「そうだったんだ」

「ええ。そして何を隠そうここの制服のデザインは私がしたのです!」

 ……なるほど。 だから必要以上に露出度が高いのか。 

「どうです! とっても可愛らしいと思いませんか?」

「えっと……うん」

「やっぱり! 神坂君なら分かってくれると思ってましたわ!」

 綾瀬の中のぼくのイメージって一体……。

「お待たせいたしました」

「皐月ちゃん、やっぱりお似合いですわね」

「……どうも」

「神坂君なんかさっきから皐月ちゃんの制服姿に欲情してばかりで……」

「してないよ!」

「……変態」

「だからしてないって!」

「でもさっき可愛いって言ってましたよね?」

「可愛いとは言ったけど、だからって欲情してるって意味じゃないから!」

「そうなんですの?」

「そうだよ!」

「……つまりませんわ」

「何が!?」

「おかわり!」

「おかわり!?」

 慌てて振り返ると数分前までイヴの前にあったはずのハンバーグセットは空になっていた。

「えっと……いいの神坂?」

「うん……」

 こんな笑顔で言われたんじゃダメって言えるわけが無い。

 でも明日から切り詰めないとやばいかも……。

「かしこまりました。それじゃあ私もう上がりだから、またね」

「そうなんですか。良かったらご一緒しませんか?」

「えっ?」

「いいですわよね神坂君」

「うん」

 特に断る理由もないし。

「ほら、神坂君も皐月ちゃんともっと一緒に居たいって言ってますわ」

「はい!?」

「……そうなの?」

 えっと、何て言えば……下手に否定してもなあ。

「……うん」

 ぼくの口下手!

「キャー! 神坂君ったら大胆!」

 ほら、やっぱりこうなった。

「……わ、わかった。それじゃあ着替えてくるから、ち、ちょっと待ってて」

 そう言って西野さんは急いで店の奥に消えていった。

 ちょっと顔が赤かったみたいだけど……風邪気味なのかな?


「……おかわりは?」         




 それから10分後、私服に着替えた西野さんはハンバーグセットを片手にやってきた。

「お、お待たせ!」

「遅い!」

「ごめんねイヴちゃん。でもちょっとサービスしてもらったから許して」

「……なら許す」

 そう言ってイヴはまたハンバーグセットを食べ始めた。

 このままのペースだと一体何個食べることやら……。

「皐月ちゃん、遠慮なさらず座ってください」

 その時、ぼくは座らずその場に立っている西野さんに気が付いた。

「えっ!? でも……」

 でも……? あっそうか。

 今、ぼく達は、綾瀬とイヴ、そしてその向かいにぼくという風に座っている。

 多分ぼくの横に座るのがイヤなのだろう。

「イヴ、こっちにおいで」

「何故だ?」

「いいからこっちに……」

「ダメです!」

「……どうしたの綾瀬?」

「神坂君はそのままで、皐月ちゃんは神坂君の横に座ってください」

 どうしたんだろう急に?

「いいですね!」

「は、はい!」

「待ってよ綾瀬。そんな無理言ったら西野さんに悪いよ」

「そ、そんなこと無い! ……そんなこと無いから、隣……座っても良いかな?」  

 そう言いながら頬を赤く染める西野さん。

 その姿に思わずぼくの頬も赤くなってしまう。

「ほら、皐月ちゃんもこう言ってることですし」

「う、うん」

 すると西野さんは、チョコンと席の端に座った。

 まさかそんな端に座るなんて思ってなかったぼくは、ちょっと奥の方へと少し移動しまい、そのためぼくと西野さんの間には人1人が余裕で入れるくらいの間が出来てしまった。

「…………」

「…………」

 どうしてだろう? 会話も無くて気まずいはずなのに、心のどこかでこの沈黙を心地よく思ってるぼくがいる。

 ぼく達は何かに引き寄せられるように、どちらともなく目を合わせた。

 眼鏡の奥の西野さんの瞳には小さくぼくが写っている。ぼくの瞳も同じように西野さんを映し出しているのだろうか? 

「そしてぼく達は唇を重ねた」

 そしてぼく達は唇を……って!

「勝手に人の気持ちを代弁しないでよ」

「あら、代弁という事はそう思ってたってことですよね」

「うっ……」

 まずい! ちょっと本音が……。

「神坂ダメだよ!」

「うん! そうだよね! こういうのは……」

「ひ、人が見てるじゃない……」

「そこ!? 突っ込むとこそこなの!?」

 ……という事は人がいなかったら!? ……まさかね?

「それに……もうちょっとお互いを知り合ってからじゃないと……あとムードとか……でも男の子ってそういうの許しちゃったら最後まで……私……そういうの全然分かんないし……でも神坂だったら……」

 さっきから西野さん何かを呟いてるみたいだけど、声が小さくて全然聞こえないや。

「思春期ですわね」

「違……」

「違うわよ!」

 何で西野さんが!?

「あら、私は神坂君に言ったつもりですのに……それとも何か心当たりでもあったのですか?」

 そう言われた西野さんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 一体なんだったんだろう?

 そして勝ち誇ったような笑みを浮かべている綾瀬は……一体?

「おかわ―――」

「ちょっと待った~!」 

 こうしてイヴの11皿目のおかわりを阻止した後、ぼくたちはファミレスを後にした。 

 

   

「それじゃあ皆さん、さようなら」

「うん。……それよりお代払わなくて本当にいいの?」

 そう、会計をしようとすると綾瀬はぼくの手にあった伝票を取ると、店長らしき人と話しそのまま会計が終わったようにぼくたちは店を出たのだった。

「はい。おかげでいいもの見れましたし」

「そっか」

 ……内容は聞かないでおこう。

「いやですわ神坂君。そこは深く聞くところですよ」

「遠慮しときます!」

「残念ですわ……。では皆さんまた明日」

 そう言って綾瀬はリムジンに乗り込み、帰っていった。

 何気ない一言のように聞こえた『また明日』という台詞の意味を、この時のぼくはまだ知らなかった。

「それじゃあ私こっちだから」

「そうなんだ」

 なんかちょっと寂しいかな。

「じゃあまたね。西野さん」

「……皐月」

「えっ?」

「皐月って……呼んで?」

「またね。……皐月さん」

「……うん! またね。……神坂!」

 そう言って皐月さんは駅の方へと走っていった。

 その時のぼくの顔はきっとこの夕日みたいに真っ赤になっていただろう。        

 こうしてぼくの一日が幕を閉じ……って、いったぁー!!。

「何を綺麗にまとめようとしているんだお前は!」

 イヴの蹴り上げた足は、ぼくの股間にクリーンヒットした。

「まったくワタシというものがありながら他の女にうつつをぬかしおって」

 ん? それって……。

「嫉妬?」

「……小僧、死にたいらしいな」

「嘘ですごめんなさい」

「素直に謝るとは感心だな。許してやろう」

「良かった」

「心臓1つでな」

「心臓は1つしかありません!」

「うるさい! とにかくワタシはそれくらい怒っているということだ!」

 そう言ってイヴはそっぽを向いてしまった。

 一体ぼくにどうしろというのだろうか?

 そう思っているとイヴの右手がぼくの方へと伸びてきた。

「帰ろっか」 

「うん!」

 その小さな手をぎゅっと握り、ぼくとイヴは歩き出した。

 満面の笑みを浮かべるイヴを見ていると自然と笑みがこぼれてきた。

 そんなぼく達を周りの人達は、兄妹みたいだと思うだろうか?

 それが普通なのだろう。他人事だったらぼくだって多分そう思う。

 でもぼくは……。

「ねえイヴ」

「何だ?」


「ぼくってロリコンなのかな?」


「……ロリコンって何だ?」


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