君影橋の話
「君影橋の話」
山奥の深い森の中の、人里離れたところに、
小さな村がありました。
この村にはもう人は住んでいません。
みんな、人里に出て行き、
今は森の化け物たちしかいませんでした。
その里を、もぐらくんとひまわりくんは訪れました。
ひまわりくんは、廃屋の里をおびえながら歩いています。
もぐらくんは言いました。
「ひまわりくん。何をおびえているんだい?」
ひまわりくんは言います。
「当り前じゃないか!」
「人が居なくなった廃屋に化け物が住み着いているんだよ。」
「まるで、お化け屋敷みたいじゃないか。」
それを聞くと、もぐらくんは言いました。
「それは違うよ。ひまわりくん。」
「この里はね、人と化け物が一緒に生活をしていた里なんだ。」
「いずれ、人だけが里を離れて居なくなって、
化け物だけが残ったのさ。」
「化け物たちを見てごらんよ。」
「みんな、廃屋の中で人間と同じように生活をしている。」
ひまわりくんは、廃屋の化け物たちに目をやります。
化け物たちは、廃屋をきれいに掃除して
生活をしていました。
化け物たちは窯で料理をし、
洗濯や掃除もしています。
もぐらくんはひまわりくんに言います。
「ほらね。」
「みんな、人間から教えてもらったように
生活をしている。」
「昔は、人間と化け物は仲良く暮らしていたんだ。」
そういうと、もぐらくんはひまわりくんに
ニッコリ微笑みました。
ひまわりくんも落ち着いたのか、
もぐらくんにニッコリ微笑み返します。
もぐらくんとひまわりくんはそのまま、
里を抜けるために、里の出口へ向かいます。
里を抜けて出口に来ると一匹の化け物が居ました。
その化け物は毛むくじゃらの大きな化け物です。
ずっと、里の出口の橋の真ん中で佇んでいます。
もぐらくんは毛むくじゃらの化け物に話しかけました。
「やあ。君は橋の真ん中で何をしているんだい?」
化け物は言いました。
「ボク、ココデ、トモダチト、オシャベリシテル。」
片言ですが、化け物は言葉がわかりました。
ひまわりくんは周りを見渡しますが、
毛むくじゃらの化け物ともぐらくんと
ひまわりくんしかここには居ません。
ひまわりくんは、毛むくじゃらの化け物に言いました。
「ここには僕らと君しか居ないよ。」
「その友達はどこに居るんだい?」
すると、毛むくじゃらの化け物は橋の地面に
指を指して言いました。
「ココニ、イル。」
もぐらくんとひまわりくんは、地面を見るとそこには、
もぐらくんとひまわりくんと大きな毛むくじゃらの
化け物の影の他に、少女の影がありました。
毛むくじゃらの化け物は言います。
「コノコ、トモダチ。」
「ムカシ、コノコ、サトニスンデタ。」
「デモ、コノハシカラ、デテイッタ。」
「ボク、サビシイ、イッタ。」
「コノコモ、サビシイ、イッタ。」
「コノハシ、ヒトカゲバシ、イウ。」
「ネガエバ、カゲヲ、ワケラレル。」
「ボク、ソノコト、ボクノカゲヲ、ワケアッタ。」
「オンナノコハ、カゲスコシ、ハシニ、オイテイッタ。」
「ボクノカゲ、スコシ、コノコニ、ワケタ。」
「ボクノカゲ、スコシ、コノコ、ツレテッタ。」
「ボク、マイニチ、コノコト、コノハシデアエル。」
「サビシクナイ。」
そう言うと、毛むくじゃらの化け物は、
「ファーーファーーファーー」と
ゆっくりと笑いました。
もぐらくんとひまわりくんは、
不思議そうな顔をします。
ひまわりくんは、毛むくじゃらの化け物に聞きました。
「君は、その子に会いたいと思わないのかい?」
「この橋を、渡って行ったら、その子に会えるかもしれないよ。」
しかし、毛むくじゃらの化け物は首を横に振って言います。
「ソレ、ダメ。」
「ボク、バケモノ。」
「ヒト、コワガル。」
「ソレ、ヨクナイ。」
もぐらくんは、毛むくじゃらの化け物に言いました。
「僕らは、旅をしている最中だから、もしかしたら、
その子に会うことがあるかもしれない。」
「もし、その子に会ったら、君が元気でやっていることを
伝えてあげるよ。」
「だから、その子の名前と似顔絵を描いてくれないか?」
もぐらくんの話を聞いて、毛むくじゃらの化け物は、
「オーーーーー」とゆっくりと驚いた声を出して、
もぐらくんの紙に、その子の名前と、
似顔絵を描いて渡しました。
そして、もぐらくんとひまわりくんは、
毛むくじゃらの化け物に別れを告げて
橋を渡り、次の街へ向かいました。
その後も、毛むくじゃらの化け物は、
橋で少女の影と話をし続けました。
少女の影が元気な時は、
毛むくじゃらの化け物も、踊り喜び、
少女の影が元気が無い時は、
毛むくじゃらの化け物は、
元気づけようと、お道化て励まします。
ずっと、そんな時間を過ごしていましたが、
ある日、少女の影は、毛むくじゃらの化け物に
手を振って、バイバイをします。
そして、ゆっくりと、その子の影は、
消えて無くなってしまいました。
毛むくじゃらの化け物は、
驚いて、少女の影を探します。
でも、もう少女の影は
もう居ません。
そして、毛むくじゃらの化け物は
思い出します。
この橋は、生きている人間の影しか
残せないことを…。
毛むくじゃらの化け物に、今までの寂しさが
一気に押し寄せてきました。
毛むくじゃらの化け物は、滝のような涙を
流して、橋の向こう側に向かって叫びました。
「オーーーーーオーーーーオーーー」
何度も叫びます。
「オーーーーーオーーーーオーーー」
「オーーーーーオーーーーオーーー」
「オーーーーーオーーーーオーーー」
毛むくじゃらの化け物は、三日三晩叫び続け、
喉がかれて声が出なくなった後、
橋に、少女の影が無いことを
最後に確認して、
橋から里の方に落ち込みながら
戻って行きました。
そして、
その後に、毛むくじゃらの化け物は
二度と橋には戻ってきませんでした。
つづく。