悪魔っ娘を餌付けする話
新年度に向けて忙しかったりゲームしてたりして遅くなりました!
ある日の休日、俺は自分の部屋で何をするでもなくぼんやりと窓の外を見ていた。
あれからというもの俺は平穏な日常を過ごしている。
というのも悪魔に襲われたあの日の後から俺は桜井や天使たちとは少し距離を置くことになったからだ。
少し寂しいがこれが最適解なのは確かだろう。あの悪魔どもはどういうわけか無関係なやつをわざわざ襲う気はないようだし、なによりあいつらと一緒にいても俺にはなにもできないのだから。むしろ足手まといになる。
それに同じクラスだから桜井との関わりはあるし、ちょいちょい真が情報漏洩してくれるのでファンタジーサイドがどうなってるか多少は知ることができている。
でも放課後ともなれば桜井も真も悪魔の襲撃に備えなくてはならない。この前なんて授業中にひっそり襲われていたらしく授業中にどっか行ったことを先生に怒られていた。
直接手を貸せないなら貸せないでそれに関してはさすがに正直に話すわけにもいかずフォローすらもできない。おのれ悪魔、狡猾な手を!
俺にできることは休み時間に桜井の愚痴を聞くことぐらいだ。
それしかできないのだ。
時計を見ればもう昼だった。
しかし今日はお母さんは出掛けている。帰るのは夕方だと言っていたので昼は自分で用意する必要がある。
だがしかし悲しいかな、俺に料理スキルはない。これもお母さんのごはんがおいしいのがいけない。自分でやる気がなくなる。
となれば出来合いのもの、てきとーに食べに行くかコンビニでなにか買うことにしよう。
「久しぶりだねえ、コンビニ飯」
コンビニで最近話題のお弁当と揚げ物、ついでにジュースを買ってほくほく顔での帰り道。
普段はお母さんが良い顔をしないのでこういうのは食べないけど俺も男の子。たまには身体に悪いものを食べたくなってしまうのもある種の正常な反応というやつだろう。
そんなわけでうきうきと歩いていたわけだがある建物の前で足が止まった。
そこはつい先日取り壊しが決まったボロアパート。気の良い管理人のおばあさんがいて小さい頃の遊び場にしていた。
もうおばあさんは亡くなっているし顔見知りの入居者もいなくなったしで立ち寄る理由などないのだが・・・。
だというのになぜか気になる。なんなのだろうかこの感じは?覚えがあるようなないような不思議な感覚。
・・・ちょっと覗いてみるかな。
そんなわけでちょいとばかし不法侵入してみたのだが部屋の1つのカギが空いているのを発見した。
いたずらならまだいいけどもし浮浪者がいたら大変だよね・・・通報しなきゃだし。
そんなわけでそっと部屋を覗いてみる。
「ううう! なにが人間界への潜入調査よぉ・・・活動費用なんて貰ってないし! そもそもなに調査するのかも言われてないし! ついでに私明らかに上司と同僚と部下に嫌われてるしでどう考えてもこれ戦力外通告どころか厄介払いじゃない!」
そこには埃まみれの部屋の隅っこで不満をぶちまけてる見覚えのある悪魔っ娘の姿が!
不思議な感覚この娘の気配か。なんていうか天使モードのみんなに近い感覚である。天使と悪魔だけどその辺はあんまり変わらないのだろうか。
「・・・これからどうしよかな。 寝床はここ使うとして・・・戸籍どころかまともに住める場所もないからアルバイトもできないわよね・・・。 ごはんどうしよ・・・」
なんか世知辛いこと言ってる!
「あのー」
「ひぁっ!? なに!? あ、あんたあの時の!」
「お久しぶり。 えーと、タキラさんだったよね?」
「えっ、私の名前覚えて・・・じゃなくて! その通りよ! よく覚えてたじゃないの!」
そりゃあんな堂々と名乗られればね。というか何か悲しいことを言いかけてなかった?
「真が思いっきり蹴り飛ばしてたけど大丈夫?」
「悪魔があの程度でどうこうなるわけないじゃない! 痛かったけど!」
「そ、それはごめんね。 あのときはほら、一応敵対してたし?」
「あー、別にその程度のことでぐちぐち言う気はないわ。 こっちも仕事だったんだし」
「なにこの話のわかる悪魔」
「ふふん、私は誇り高き悪魔だもの!」
タキラさんが謎ポーズと共にドヤ顔でそう言いはなったと同時にぐぅ、と音が聞こえた。発生源は・・・彼女の腹部である。
謎ポーズのままみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。
「ちがっ、これはちがくて!」
「・・・よかったらこれどうぞ」
さっき買ったお弁当やらが入った袋を差し出す。
「じゅる・・・ハッ! て、天使の仲間の施しは受けないわ! 私にだってプライドがあるんだから!」
「友達ではあるけど仲間というわけでは・・・俺ただの人間ですし?」
「そ、そうなの? たしかにあんたはどう見ても人間だけど。 い、いえだからって施しを受けるわけには・・・そもそも別にお腹すいてるわけじゃ」
本人の主張とは逆にご飯を前にしたからか再びタキラさんのお腹がなる。
「ほ、ほんと違くて! お腹すいてるわけじゃなくて・・・そう! 私の中に巣食った寄生虫が鳴いてる声で!」
「そっちのほうがヤバない?」
そしてダメ押しとばかりに聞こえてくる腹の音。暫しの沈黙。それからタキラさんは無言でうつむいたままコンビニの袋を手に取った。
「い、いただくわ・・・」
その顔はゆでダコのようであったとさ。
改めて自己紹介を済ませてからお弁当を渡す。
「まともなご飯なんて久しぶりだわ」
真顔でコンビニ弁当を頬張りながらそんなことを言うタキラに涙が溢れそう。
あ、彼女曰く「ご飯恵んで貰った身だし敬語なんていらないわ!」とのことで呼び捨てモードである。
「悪魔でも天使でもさあ、ちゃんと食べなきゃだよ? お母さんも食べるのは心と体の健康に繋がるんだって言ってたからね」
お弁当の上に別売りのからあげを追加する。
「わっわっわっ・・・からあげがこんなに・・・? もしかして夢じゃないのこれ」
「その発想に至るハードルがやけに低い」
今までどんな生活してたんだろか。少なくともゼミウルが復活してからは不遇だったんだろなぁ。
タキラの今までの生活について思いを馳せているうちにタキラは食を進めていき俺が買ったものをすべて食べつくした。
それはいいのだが久しぶりにお腹いっぱいになって落ち着いたからかけっこうな勢いで愚痴り始めた。
「最悪よ! これでも一応エリートなのにあんなくそ上司の部下にさせられるし! そりゃ封印されてた大間抜けとはいえ気を使わなきゃならない相手だってのはわかるけど・・・! 女だからって理由で能力軽視されるし取り巻きの男どもはくそ上司の考えに便乗して調子乗ってるし! あいつらに男である以上の価値なんてないわよバーカ!」
赤い顔で飲み物をあおりながら愚痴る彼女はまるで絡み酒をしているかのよう。でもそれウーロン茶なんですよ。アルコールゼロなのになんで酔っ払いみたいになってんだこの悪魔。
「そもそも時代錯誤なのよ! なーにが「正直男に比べると君の能力は信頼できない」よ! 性別だけで判断してるのバレバレだし昔からいる大悪魔クラスにだってそんな考え方するの今時いないわ! というかその考えの元は自分の性癖じゃないの!」
「なんて見事な男尊女卑。 ちょっとホモ拗らせすぎだねえ」
男同士が正常とかいうから頭のネジが外れているとは思ってたけど予想以上にひどい。知り合いのガチホモにもそんな思考のやついないですよ?
「というかさあ、ぶっちゃけゼミウルの復活は悪魔間でも歓迎されてない?」
「わかりやすく言うなら時代に合わせて近代化した現場に地位だけはある幹部が昔の価値観のままやって来て突然仕切りだした感じかしら?」
「めちゃんこ迷惑なやつ」
人間界ではそれを老害と呼ぶんだぜ。
「でもあんなのでも影響力とかあるし単純に力もあるから他の有力者も排除できないのよね・・・」
「悪魔も大変だねえ」
悪魔っていうから「力こそパワーだ!」とか言う感じのが多いのかと思ってたけど最近はそうじゃないらしい。
ほっとしたような、ちょっと残念なような。ほら、イメージ的にね。
「ふあー、久しぶりにたくさん食べたわ! ごちそうさま、ほんと助かったわ」
「いーのいーの、困ったときはお互いさまって言うし?」
「うう、カズは天使か何か?本物とは敵対してるけど。 ともかくお礼をしなくちゃね! 何がいいかしら?」
「いいよ、全部で千円くらいだし」
「誇り高き悪魔として恩を受けっぱなしではいられないわ! なんでも言って! 金銭的なもの以外ならがんばって叶えるから!」
「あの、女の子がそういうこと言うのは・・・」
とはいえなんでもと言われてもすぐに思い浮かぶもんでもないし今特に困ってないし。ついでに仲間ではないって言った以上真たちの手伝いお願いするのも・・・というかタキラ悪魔だしそもそもサイコパスが受け入れないよねえ。
・・・しかし、前はよく見れなかったけどタキラってけっこう好みのタイプなんだよねえ。どうせ他に頼めそうなこともないし・・・。
「んー、じゃあ今度デートして」
「・・・・・・へあ!?」
そういうことになった。
ようやく主人公に運が向いてきた感じです。相手悪魔だけど。