第九節 禁断の恋は、甘い蜜の味?
それにしても大学部の保健室となると、居るのはたぶん大学生だ。だがその先がわからない。告白と言う線はまずない。いや、あって堪るか‼
もし差出人が男子だとするのなら…天月の人気の凄さがわかるな。
そう思考していると大学部の保健室に着いた。
俺は到着してすぐ、保健室の扉を開く。
「例え保健室でもノックはしないといけませんよ。榊君」
「せりか先生?」
そこにいたのは、俺が考えていた男子ではなく。担任の神渚せりか先生だった。
何でここにせりか先生がいるんだ?いや、これは愚問だな。
せりか先生は、俺たち1年B組の担任であると同時にこの学院大学一年生だ。故にこの保健室に居たって何の不思議もない。
それにせりか先生が保健室に居ると言う事はどこか具合が悪いのか? ならさっさと俺を呼んだ人物との要件を済ませよう。と思ったがせりか先生以外居ないな。
「すいません、せりか先生。先生以外にここに誰か来ていませんか?」
「いいえ、来ていませんよ」
「そうですか、わかりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。生徒の質問に答えるのが先生の、と言っても研修生ですが役目ですから」
本当に熱心だな、せりか先生。
だが、どうしてこちらに目線を合わせようとしない。何故そんなに落ち着きがない。そして窓から差し込む夕陽のせいとは思えない程に顔が熟したトマトの様に赤い。
やはり風邪か何かだろうか。早く退出した方がよさそうだな。
手紙を出した本人が保健室にいない以上ここに居ても時間の無駄だ。それにせりか先生にも悪い。次の指定場所、生徒会室に行くとするか。
「それでは、せりか先生。俺もう行きますね。失礼しました」
俺はせりか先生に向かって一例して、退出しようと回れ右をしてドアに触ろうとした時、
「せりか先生?」
「…さ、榊君」
せりか先生にブレザーの袖を引っ張られた。
「あの、せりか先生?」
「もう少しだけ、ほんの少しだけお話をしませんか? いえ、してください‼」
そう言って、せりか先生は俺のお腹に手を回して抱き着いてくる。背中には、大きすぎず小さすぎない理想的なサイズの柔らかい感触が伝わる。
「…本当は、本当はこんな事。研修生とは言え教師、教え子たる生徒の榊君に…」
「…せりか先生」
せりか先生は、より強く俺を抱きしめる。俺はどうすればいいのか分からず、ただ先生に耳を傾けることしかできない。
「でも、もう、もう抑えられないんです‼ 私は榊君、あなたの事が好きです。愛しています‼ 生徒としてではなく、一人の男性として好きです」
…え、ええぇ⁉ 告白⁉ まさかの告白ですか⁉
いや、何考えてるんだ先生。まさかの告白四連続、う、胃が痛くなってくる。
そもそも教師が教え子に恋をするって昼ドラか⁉ いや先生は研修生だから一応大丈夫なのか? いやダメだ。研修生とは言え教師は教師だ。ここはしっかりと断っておかないと。
「先生、や…」
「やっぱり、研修生とは言え教師ですから断られますよね。いいんです。手紙を出す前からこうなるってわかっていましたから」
せりか先生の声は、いつものような元気で明るい声ではなく。今にも壊れてしまいそうな儚い声。でも俺には愛される資格なんて…
でも、それでも俺は…
「先生、少しだけ待ってくれませんか?」
「え、榊君」
俺はお腹に回されている先生の手を優しく包み込んで、優しく諭す様に話す。
「必ず、必ず返事をします。ですから少しだけ、もう少しだけ待ってもらえせんか?」
「ッ、はい‼ 待ってます。例えこの恋が実のならくても、それでも‼」
せりか先生は、俺を抱きしめていた腕を解くと俺はせりか先生の方に向く。
先生は、涙目になっている潤った金色の瞳で俺を見つめる。
「これ、私の連絡先です。それでは」
せりか先生は、ポケットからメールアドレスと電話番号が書かれている手紙を渡して、とても美しいアリスやガブリエルとも引けを取らないだろう笑みを浮かべて保健室を出ていった。
一人残された保健室の中で俺は後悔していた。
何故、何故あんな事を言ってしまったのだろうか。夕陽が差し込む保健室の窓、その窓が反射して俺の姿を写しだす。肩に触れるほどに長い色素が抜けきった銀髪に血の様に赤い、紅い瞳。
「憎たらしいこの姿、黒く染めようかな。でも、そんな事をすれば俺は、俺の罪を否定する事になってしまう」
それだけは絶対にやってはいけない。
この話はもう終わりだ。手紙を出したのがせりか先生だとわかったし、最後の目的地に向かうとしようか。
俺は覚悟を決めて最後の目的地、生徒会室に向かう。




