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第五話:樹海

太郎は思い出す。


宇宙から、初めて暗闇に輝くこの青い星を見た時のことを。


「キレイよね。このホシ。」


そう言って彼の近くに寄ってきたのは、%ASF#$"&0。しかし、発音が難しいからここではヨシ子という名前にしておこう。

ヨシ子と、太郎はその他数人と共に一緒のシップに乗っていた。

彼らは派遣されていた。

この宇宙の一角にある青い星に。


「あ、ヨシ子。はい、感動です…!

早く、あの地上を見てみたいです!

地上はさぞかし綺麗なのでしょうねぇ。」


「…。」ヨシ子は、手元の書類に目を通しながら飲み物をすする。「そうそう順調じゃないみたいよ、あそこのヒトたちは。ホラ。」


とヨシ子、太郎にその書類を手渡した。

その書類に目を通す。


「…へえ。

魂と体との調和がとれずに、がんじがらめのヒトが多いんですねえ。

体から離脱したがる魂が多いみたいですし。もったいないですねえ。

体を与えられるなんて、特権なのにねぇ。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「でさぁ、俺家に帰りたいんだけど、どうすればいいわけ?」


俺は目の前の太郎に聞いた。


「どうすれば、とはどういうことですか?」


とぼけたようにいう男。

無駄にいらつく。


「一週間は俺は普通に生きれんだろ?なら家に帰んなきゃ話に何ねーだろ。こんなとこにずっといられないわけ。

でも俺、コンパスも何も持ってないの。樹海の出口どうやって見つければいいわけ?

それに」俺は床に転がってる自分の体を指差した。「それ、どうすればいいわけ?まさかここに置いてくとかじゃねえだろ。」


「あははー。」太郎は思い出したように手をポンとたたく。「体のほうは、そのまさかですよー。」


は…?


「だ・か・ら、置いてくんですよー。」と俺の考えを読んだように太郎、にっこりと笑う。


体置いてくってー


「っ…って…、ココに置いてく!?」思わず怒鳴りながら太郎の胸ぐらをつかむ。「俺の体をココにおいてくだぁ!?」


俺の体を一週間もここに放置するだぁ!?

腐るじゃねえか…!!!

俺の体が腐るじゃねえか…!!

それに一週間もこんな林に置いたら、野犬に食べられる…?かもしれねぇ…!!

俺の体はエサじゃねえんだ…!冗談じゃねえ!


太郎は驚いたように苦しそうに叫ぶ。


「…ひっぱらないでください、僕の服…!コートが…!やぶれちゃいます…!!苦じい…!

さっき死にたいって言ってたのにどうしていきなりそんなに体を気にしてるんですか!?

それに…!!

少し触って動かすぐらいのことはできても、持ち上げて担ぐなんて大業、魂レベルの僕たちには出来ないんですっ!!

なので置いてくのは仕方がないんですっ!!

わかったら放してくださいっ!!」


…。


俺は太郎のつかんでいた胸ぐらを放した。


動かせる動かせねえの論理はよくわからねえが…、俺、そういえば、一週間後に死ぬんだっけか。

確かに、なら体がどうなろうと気にしたもんじゃねえか。

そうだ。

体が腐ろうと、野犬に食われようが、凍ろうが…、一週間後に死ぬなら、もう体は必要ないんだったっけか。

糞。なんだかむかつくが、確かに必要ねえか。


「…はあ、もうここを離れる前には、ちゃんと腐ったり、野犬に食べられたりしないような工夫はしていきますから…。」


ぶつぶつと呟くあいつ。おれはあいつを無視して話す。


「…家に帰るにはどうすればいい?」


「…なんでそんなこと聞くんですか?」俺の質問に太郎はあっけらかんと答えた。「帰りましょうよ、帰りたいんでしょう?僕も連れてってください。」不思議そうに目をぱちくりとさせている。


「…だからどう帰ればいいんだよ。」


このわけわかんないやり取り。妙にむかついた。

太郎は不可思議そうに首を傾げて、胸ぐらのポケットから分厚い一冊の本を取り出した。

そこにはでっかくマニュアル(ヒトの習性編★)と書かれている。


「へえー、そっかあ。そうなんですかぁー。」あいつはそれを読みながらぶつぶつ言っている。少したつと、太郎はその本をパシンと閉じてコートの中にしまった。


「あのですね。ココの人たちは、あまりその力に気づいてないらしいんですけど、」と太郎。「魂というのは、とても強い存在なんですよ。

願ったことを実現する強い力を持っているんです。」


「は?」


あいつの話はわかりにくい。いつも唐突だ。ついていけない。

太郎は一生懸命に説明を続けた。


「えー、行きたい所を頭に浮かべてそこに行きたい、と願えばいけるんです。」と太郎。「えー、例えばですよ、今の渋皮泰人みたいに、樹海から出て家に帰りたいとするとします。

まず樹海の出口を頭に思い浮かべて絶対に出るんだ、と念じながら歩けば、自然とこの樹海の出口につけるんですよ。」


うそくせえ。


「はあ。」太郎は悲しそうにため息をついた。「こんなに疑心暗鬼なヒト、初めてです。

少しは信じてくれてもいいじゃないですかあ。

信じてくれないと、家に帰れませーン。」


「…お前は馬鹿か?

言われて、『はい、そうですか』なんて信じるアホがどこにいんだよ、そんなんじゃこの世界じゃ生きてけねーっつーの。

言われたことには基本疑ってかかった方がいいのは常識だろ。

お前今までどうやって生きてきたんだよ?」


俺がそういうと、太郎は悲しそうにしょんぼりした。


「疑うことが、必要なんですか…?」と太郎。


「はぁ?」


「疑うことが必要な世界なのですか、ココは?」


はぁ…。

またこいつはわけわかんないことを…。

あぁ、そういえばこいつ宇宙人なんだっけ。忘れてた。


「あぁ、そうだよ。この地球って星は疑う心が上手く生きていくには必要なの。

疑って、他人をどれだけ上手くだまし通せるかが基本なわけ。

それが出来ない奴らはいきてけねーの。

弱肉強食。わかる?

お前がどこから来たかは知らねーけど、お前の星みたいに甘くねえわけ。ココは。」


どうだ、地球をなめやがって。

俺は自身ありげに太郎をにらんでやった。太郎は悲しそうに俺を見返す。


「…。

でも…、僕はうれしいです。

やっと、少しは僕のこと信じてくれたんですね。」太郎はそこまで言うと微笑んだ。


はあ?


「だって。」と太郎。「僕が上から来たこと、わかってくれたみたいだから、うれしいんです。」


俺はあっけにとられた。

やっぱ馬鹿だ。この男。


「ーどちらにせよ、渋皮泰人が念じて出ようって思わない限り、僕も渋皮泰人もここから動けませんよ。

それが唯一のここから出る方法ですから。

僕は、あくまで渋皮泰人がいる場所についていくことしかできませんし。

この樹海で一週間すごしますかぁ?

あんまり楽しくないかもしれませんけど…。

僕はかまいませんよ?」


なっ…、俺は人生最後の一週間は楽しんで過ごすんだ…。

今までのうっぷんを全てはらしてやるって決めたんだ…。

こんなところに死ぬまでいるなんてことできねえ…!


そんなことを俺が思っていると太郎がきょろきょろと周りを気にし始めた。


「どうしたんだよ?」俺が声をかけても太郎は周りを不思議そうに見回すのを止めない。


「いえ、ね、さっきから沢山感じてはいたんですけど。」と太郎「かなり近づいてきましたねえ。僕らに。」


「は、何が?」と俺。


「そこに…一番近いヒト、いるのでしょう?」太郎はそういって持っていた懐中電灯を俺たちのすぐ近くの大木に当てた。


ヒト?

俺は気づかなかったぞ。

俺は大木に目をやった。


「……!……」大木の影が静かに動く。


「誰だ、出てこい!?」俺は大木の影にどなった。


「…っ…わたしがっ…見えるの………………?」


は?見える?


わけのわからない言葉を呟きながら静かに大木の影から出てきたのは女だった。

顔色の悪いやけに白い女。

20代後半…?30代?

年齢はわからない。

美人でもなければものすごいブスでもない。ようは普通。点数で言えば、4.5点ぐらいか?ちなみに10点満点中だ。

やせてもなければ以上に太ってるわけでもない。どちらかと言えば大柄か?


そんな俺をよそに女は消え入りそうな声を絞り出した。


「……やっと、…………やっと誰かに………、気づいてもらえた…………。」


女はそれだけ呟くと目から大きな涙の粒を次から次に流した。

そして鳴きながらその場に崩れたようにしゃがみ込む。


っていうより誰…?

っていうより、何?


あっけにとられてる俺をよそに太郎はその女の近くに寄った。

女の近くにしゃがみ込むと、泣いている太郎は優しく声をかけた。


「悲しいですか?」


太郎の言葉に女は俯きながらゆっくりとうなずいた。

うなずくたびに女の肩まで伸びた髪が揺れる。

不気味な女だと思った。

だいたいなんでこんな所にいるのか。

この女も死にに来たのだろうか、この樹海に。

俺も女と太郎に近づいてみる。

女は俺が近づくと顔を上げた。

目があう。近くで見るとけっこうかわいい。

さっきの点数は嘘だ。+3.5で、8点に俺は訂正した。


「どうしてここに?」太郎は彼女に聞いたー、と思ったら太郎は俺の方を向いて聞いてきた。「というより、さっきから気になってたんですけど、この樹海、なんなんですか?」


「何って?何だよ。」いきなりの質問に、逆に俺が聞く。


「この樹海には、すっごい沢山いるんですよ。」と太郎。


「何が?」と俺。


「魂がです。」と太郎。「んー。あー、ココの人たちがいう幽霊ってやつですかねぇ。」太郎は笑顔で微笑んだ。


「…。」


幽霊…。

子供じみた言葉だ。


俺は、どぎまぎしながら女に目をやった。

いきなりこんな暗い樹海で出会った二人の初対面の男たちが、幽霊の話をしようとしてる。

こんなばかげた状況に女は引いてるんじゃないかと思ったからだ。

引かれるのは慣れてるが、やはり女の冷たい視線は心に突き刺さる。

でも、女は俺の予想をよそに、遠い目でどこかを見ていた。

ますます不気味な女だと思った。

俺は太郎に視線を戻した。太郎は俺の言葉を待っているようだった。


「まあ、ここは」俺はわけがわからず口をゆっくり開いた。「自殺の名所だし。」と一言。


「名所!?」太郎は俺の言葉にびっくりしたような顔をした。俺はやつの言葉にうなずく。というより、樹海に俺みたいな自殺者が来てる時点で普通気づかねえか、普通の樹海じゃないって。

あ、でもやつは自称宇宙人だっけか…?また忘れてた。

俺の頭の中をいろいろと考えが回る。そんな俺をよそに太郎は「へー」とでもいわんばかりにキョトンとしている。


「自殺の名所なるものが存在するのですか…??」やつの質問に俺は再度うなずいた。太郎は不思議そうに頭をかしげた。「驚きました…。だからここにはこんなに沢山の魂の気配を感じるんですねぇ。」


魂の気配…、…幽霊?

沢山…、いる…?

ふざけやがって…、といいたい所だが…。

そう思って俺は自分の転がってる体に視線をずらした。

俺自体、魂だけの存在みたいだし?


俺はそこまで考えてぞっとした。

おそるおそるまた女に視線をやる。


[その魂だけの状態じゃ、一人で生活するなんて無理ですよ。

僕が念力を送ってあげないと、周りの人に認識すらしてもらませんから。

魂の状態は一部の感のいい人たちを除いて気配すら感じられないんです。]


さっきの太郎の言葉が俺の頭の中にこだまする。


…この女、さっき、俺と目があった…。

あ、それとももう太郎が念とやらを送って俺を一般人にも見えるようにしてるのか?

あーわけわかんねえ…!!


「渋皮泰人、勘違いしてます。」混乱している俺をよそに太郎は楽しそうに笑った。「言ったでしょう?この樹海には、すっごい沢山いるって。」


「ねえ…。」そんな俺たちを遮ったのは、さっきの女だった。「あなたたち、誰…?どうしてわたしがわかるの…?」


「だって、僕らもあなたと似た存在だからですよー。」太郎は女に向き直って笑いながら話した。


似た存在。

俺は理解した。

この女。魂だけ。幽霊か?


「初めて見た。」俺は思わず呟いた。


俺の言葉に太郎は笑った。


「残念。完璧に幽霊ではないですがね。」と太郎。「ねえ?そうでしょう?」


女は太郎に聞かれると太郎を不安そうに見つめた。


「…わたし、死んでるの…?」


女はどうやら覚えてないらしい。

女は俺たち以上に混乱しているようだった。

いや、正確には俺と同じぐらい混乱しているようだった。


「わたし、死んだのかあ。」そういうと女の顔が緩んだ。悲しそうに、でも安心したように微笑んだ。「そっか。」


「まだ死んでませんよ。」そこに釘を刺すように太郎が呟く、と同時に女の笑みが止まる。「まだ体は生きています。そこにいる渋皮泰人と同じ状況です。」


「!?」驚いたのは俺の方だった。どうやら女は俺と同じ状態らしい。

ということは、体から魂が抜けた状態。

女の顔に不安の影が戻った。


「わたし、生きてるの…?」女はそういうと、自分の腕を見つめた。すると、綺麗だった腕に次々と生傷が浮かび上がる。

腕に浮かび上がる深い傷、浅い傷。正直グロい。

「いやあぁぁ!!」

女は自分の腕に次々に浮かび上がる傷に悲鳴をあげた。

俺が悲鳴をあげたい。


「…。」太郎はすると無言で悲鳴をあげる女の腕に優しく自分の手を置いた。女は悲鳴を止めて太郎を見つめる。

太郎は首を横にふった。

「苦しいことは思い出さなくていいですよ、魂になってまでそんなに泣かないでください。」


太郎の言葉に女の目からまた大粒の涙が次から次へとこぼれ落ちた。

と同時に腕の傷が消えていった。


わけがわからない。


俺はただ黙ってその状況をみつめるしかなかった。

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