第三話:太郎?
「あー。今からいきますからー。」
ブツッ。
ツーツーツーツーーーーー
……………っは??
男の声。
聞き覚えない声。
でもやけに明るい…。
俺は呆然とその場に立ちすくんでいた。
「うわッ!!」
ドスン。
俺の後ろに今何かが落ちた。
今、何か大きいのが落ちた。
そしてなんか叫んでた。
振り返るべきか。
振り返らざるべきか。
「糞ッ…!
誰だ、このやろう…!!」
俺は勢いよく後ろを振り返る。
携帯の画面ライトを照らして目の前のものをみてみる。
もぞもぞとする影。
「イテテテ…。」
どうやら痛がってる様子ではある。
男…?
若い…。
大学生ぐらいか…、さわやかな…、なかなか…イケメンだ、(糞っ…)…!
っていうか…、誰?
「ちょっ…。まぶしいんですけど。それ。」
男は俺の携帯電話を指差した。
「あ…、ああ…。」
急なことに勢いをなくした俺は携帯電話を閉じた。
閉じると同時に真っ暗になってしまった。
あまりの暗さに目の前の男が見えないので、俺は電気代わりに
携帯を開いて男を横から照らした。
「あんた…、誰?」
俺は目の前の男に聞いた。
男はにまっと笑うと
「あなた、渋皮 泰人?
うわ、なんですかぁ、ここは。」
俺の回答も待たずに男は多少混乱しながら周りを見渡した。
「ここ樹海ですかぁ?
こんな所で何してんですかー???しかもこんな夜にー。
いやだなぁ。もう。うわぁ、虫がたくさんです。
僕の好きなコートが汚れちゃうじゃないですかぁ。
ちょっとどうしてくれるんですか、汚れたらクリーニング代出してくださいよ!
っていうか本気でなんでこんな所にいるんですかぁ?
聞いてないですよー!」
それはこっちの台詞だ。
男はマシンガンのように文句をぶーぶー言ってる。
っていうかお前ほんと誰…?
俺は目の前の男を見つめた。
男はやっと俺の視線に気づいて一瞬口を閉じる。
「ちょっ…、そんなに見つめられたら…、僕だってドキドキしちゃいますよ…。」
殴りとばしたい…。
このふざけた男を、今すぐ。
「ふー。」
男は何事もなかったようにそう言うとすくっと立ち上がった。
僕を見つめる。
「えーっと。渋皮 泰人。」
「な…、何だ…?」
自分の名前をフルネームで呼ばれて俺は身構えた。
この男、立つと俺よりも背が高かった。
それだけで俺はいらつくし、身構える。
男なんてそんなもんだろう。
「えーっと、とりあえずおめでとうございます!」
っは…?
男はそういうと紙を何やら取り出した。
その紙にはでっかく「マニュアル(初めの出会い編★)」とかいてある。
しかもピンクの文字で。
「えーっと。
(棒読み)おめでとう、君はとってもラッキーな男だ。
(棒読み)何故なら厳選なる抽選の結果、君はとってもラッキーな権利を獲得したのだから。
えーっと、
(棒読み)これからは大船に乗ったつもりで、この★&%"#DHF'#(棒読み閉じ)、あ、これ僕の名前ね。
(棒読み再会)に身を任せて生活をしてもらいたいと思う。
(棒読み)与えられた期間は一週間。共に有意義なものとしてもらいたいと思う。
(棒読み)FROM #$&’’!?($#」
「…。」
すまん。わけわからん。
しかもこの男の名前はもっとわけわからん。
あと最後のFROMの後もわけわからん。
男は俺に全く伝わってないのがわかったのが少し困ったようにいった。
「あの〜、ようは、一週間君と一緒に僕が生活をしてあげるってことですよ。」
は……????
「っって…!!誰も頼んでねぇぇぇ!!!!!!
っていうかてめえ、何なんだよ!?
しかもてめえの名前発音出来ねえよぉぉ!!!!!」
俺は男にわめいた。
男は俺のつばをいやそうに受けながら、耳くそをほじくっている。
「僕の名前は、★&%"#DHF'#です。(っていうか、僕のコートつばでよごさないでくださいよ。)
あ、でも、もし発音出来ないなら、そうですねぇ、(それより僕のコート、クリーニングに出しますからね、もう!)…………………」
「…………。」
「……(……もちろんクリーニング代は渋皮泰人持ちでお願いしますよ。)…………………………………太郎とでも呼んでください。」
「あぁ!?太郎だぁ!?
しかもその間はなんじゃこりゃあぁ!??あぁ!?
っていうか話題を一つにしぼれ…!
っていうか言いたいことあるなら堂々と言え!堂々と!!」
はぁぁぁぁあぁ!!!
疲れる!この男疲れる…!!!!
「結局貴様はなにものなんじゃぁぁぁあああ!!!??」
俺がそう叫ぶと、………太郎…は得意げに笑った。
「僕ですかー?」太郎の白い歯がきらめいた……ような気がした。「一億円のロトよりも価値のある男ですよ(棒読み)。
ーーーーと言えと書いてあります。」
といって男…………太郎が初めての出会い編★のマニュアルを俺に見せてにんまりとした。
「っていうことで、渋皮泰人、よろしくお願いします。」
何やらとんでもないことが始まりそうだ。
俺はふと思った。
それともこれはー、夢か…?
そうだ。夢だ。
俺は夢を見ているんだ。そうに決まっている。
「嫌だなぁ、夢じゃないですよ。(こんなにいい男の僕が夢なわけないじゃないですかぁ。)」
まあ、こいつの台詞の後半は聞かなかったことにしとこう。
太郎は俺をみながらにんまりと笑った。
白い歯が暗闇に光った…ような気がした。