第一話:死にたい俺
死にたい…。
俺は今バスに乗ってる。
今は会社帰り。
今日は早退した。
もうやんなった。
夕日がまぶしい。
血の色をしている。
死にたい。
全部消えちまえばいい。
全部糞だ。
俺はこの世界の全部を嫌ってる。
全部消えてほしい。マジで。
ふざけんな。くそが…。
死ねばいい。
俺は吐き捨てるように思った。
「ちょっと怖い噂聞いたんだけどさあ〜」
「なになに〜?」
「千回女って知ってる?」
「何それ〜?そのネーミングマジうけるし〜。」
ふと俺の耳に黄色い馬鹿臭い女子高生の会話が入ってきた。
俺の後ろで何やら話してる。
何がそんなにおもしろいのかわからないが、ギャハギャハ笑っている。
かんにさわる笑い声だった。
マジ、うざい。
「なんかA子って女が某T区に住んでたんだってさ。」
女の一人が話し始めた。
「そのA子は会社勤めで、まあ普通に会社通って普通にくらしてたんだけど〜、
どうやらA子はちょっとウツ系な女だったらしいの〜。
でさ、いっつも死にたい死にたいって言ってたんだって〜。」
「うわ〜、やばいね。
病気じゃん。」
鬱病だって言ってんだろうが。
ちゃんと話を聞けよ、糞が…。
俺はヤジをとばした。
「でさ、そのA子の日課ってのがさ、毎日のように鏡に向かって『死にたい』って言ってた訳よ。」
「ちょっと、マジそれやばいからあ〜。」
「でね、その日もね、A子は鏡に向かっていってた訳よ。
『死にたい』って。
そしたらさ…
プルルループルルルー
暗い部屋に電話の音が鳴り響いた。
A子は突然の音に一瞬びっくりしたが、気を取り直して電話の受話器をとった。
『もしもし…?』
何も答えない。
A子は不気味に思ってもう一度つぶやく。
『もしもし…??』
すると……………
『イマカラムカエニイクカラ…』
ブツッ…、ツーツーツー…。」
「え。え、で、どうなんの?」
…何の話をしてるんだか。
下らねえ。
そう思いつつも、俺は話に耳を傾けていた。
「あ、ねえもうついたよ。」
「あ、ほんとだ。おりなきゃ。」
バスが止まった。
女子高生二人はそういって、おりていった。
俺は話の続きを聞けなかったことにいらついて、爪をかみながら恨めしく女子高生二人の背中を見つめた。
バスはそんな俺を無視するように発進して、おりた女子高生の姿はどんどん小さくなっていった。
糞が…。
俺はもう一度つぶやいた。
家に着いた。
小っこいおんぼろアパートのきたねえ部屋。
洗濯してない服はそこら中に散らかってるし、掃除機もまともにかけてねえからそこら中に虫のしがいやら髪の毛やら、ふけやらゴミが散乱してる。
食べかけのカップラーメンとかコンビニ弁当も。
掃除する気なんて起きねえ。
この部屋は唯一の俺の楽園にして、地獄だ。
俺は長い間洗濯してない敷いたままの布団の上に倒れ込んだ。
「死にてぇ…。」
誰にともなくつぶやいた。
狭い部屋に俺の声が響く。
死にたい。
殺したい。
消したい。
憎い。
全部消えろ。
俺が消えろ。
全部糞だ。
…俺が一番糞だ。
頭を思わずかきむしる。
うるさい
うるさい
うるさい
頭の中に声が響く。
消しちゃえよ
憎いんだろ?
全部憎いんだろ?
消しちゃえよ
お前をこんな風にした奴らに同じ思いを味わらせてやれよ
うるさい!
俺は思わず耳を塞いだ。
「糞…。」
[いっつも『死にたい』っていってたんだってさ。]
ふと脳裏に今日のバスの中での話がよみがえった。
[千回女って知ってる?]
…千回女?
俺はふと思った。
都市伝説かなんかの類いだろうか。
無性に気になった。
俺はそのまま転がって布団の横に転がっているパソコンに手をかけた。
電源をつけてインターネットに接続する。
「千回女」
俺は無表情でサーチエンジンに打ち込んだ。
驚いたことに最近はやってるらしいのか、検索結果がずらっと出てきた。
俺は「新・都市伝説」と書いてあるサイトへと飛んだ。
そのサイトは背景が真っ黒で文字が赤で書いてあるよくある類いのサイトだった。
ご丁寧に不気味なBGM付きだ。
俺は迷わずnew!とかいてある「千回女」というリンクをクリックした。
そこにはこう書かれていた。
「千回女
つい最近話題になりだした都市伝説。
千回以上ある特定の言葉を言うと、その強い念に引かれて千回女が現れるという。
千回女に出会った人間は、一週間後には、死んでしまうと言われている。
千回女が現れる方法や、死ぬ方法等は特定されてなく、その語られ方にはバリエーションがある。
よくある語られ方としてあげられるのが、
千回女が現れる前に電話がかかってくるというもの。
電話に出ると『今から行く』という不気味な声が聞こえるという。」
なんじゃこりゃ。
俺はため息をついた。
いっそ、千回女が現れてくれりゃあどんなに楽か。
そんなことを思ってる自分がウケた。
「もう死のう。」
俺は誰にともなくつぶやいた。
もう死のう。
明日。
死のう。
会社にも行かず、明日、死に行こう。
そうだ。
樹海がいい。
あの有名な樹海に行こう。
そこで死のう。
今は冬だ。
うまく行けば、迷って凍死できるかもしれない。
それがいい。
明日、樹海に行こう。
俺は何もする気が起きなかった。
そしてそのまま、俺はその部屋で眠りについた。
明日でこの糞みたいな人生ともお別れだ。
明日、おさらばしよう。
でもその前に誰かに復讐してやろうか?
いや、それさえも面倒だ…。
「死のう…。」
寝ながら俺はつぶやいていた。