焦がれ、一睡
道草家守さん主催、「和モノ春花企画」参加作品です。
掌編です。さらりとどうぞ。
ふわりふわりと夜風が踊る。
今宵は雲も薄く、月明かりが優しく地上に届いていた。
いつだって桜は先に咲き始め、その後寝ぼすけな芝桜が一斉に地を染め上げる。
薄紅色の桜を見上げる芝桜は、淡桃・赤・白など色とりどりで美しく鮮やかだ。
「?」
誰かの腕の中で芝桜の精は目覚めた。微笑んで見上げれば、優しく見下ろす桜の精。
「今年も間に合ったな。そなたに会えてよかった」
「……お待たせしました」
桜と芝桜の開花がほぼ同時に見られるという群生地。桜は毎年先に咲き、芝桜の開花を待っていた。
今年こそは離すまいと下から抱きしめれば、桜の精がククッと笑う。
いつだって焦がれるのは芝桜の方。ただ側にいるから情を寄せてくれていることぐらいわかっている。
それでも。
「今年は風も雨もなければいい……せめて貴方が咲いている間は」
「そうだな。できるだけそなたを抱いていたいものよ」
同意はしてくれても、抱きしめていてくれてもつれない方。
春の風は強く、雨はしとしとと地を潤す。
それら全てが桜花を奪うようで憎らしい。
風が吹けばその花びらを散らし、雨が降れば抱くように落ちる。そうして降り注ぐ花びらを芝桜は抱きとめる。
その儚くも潔い姿に泣いてはいけない。
その姿がうっすらと消えていき、また眠りにつくのを確認して芝桜はこっそり泣くのだ。
花が散り、青青とした葉を見上げながらも芝桜は枯れない。花が散れば今度は虫たちが群がるのを、桜が痛まぬよう適度に落としながら芝桜は過ごす。
神も精も、虫も人も桜に焦がれてやまない。
やがて夏が近づけばようやく芝桜も眠りについた。
来年も貴方に会えますように。
薄紅色の花びらを思い浮かべ、その腕の中で目覚めることを願いながら。
―焦がれ、一睡。




