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59. 呆気ない幕引き


 解決はとても呆気ないものだった。


 ベルゼに任された仕事をするべく人間界に頻繁に行っていたアスタロト。

 その彼が不審な動きをするアドラメレクを捕えたと報告してきたのは、服に魔法陣を見付けたその日の夜だった。


 やばいやばいと心配していたことに限って実はなんてことなかったなんて、よくある話じゃないだろうか。

 その逆、全く気にしてなかったところから問題がやってくることもあるあるだが、今回はないと信じたい。


 無心で磨いたお陰でピカピカに光る床の眩しさに目を細めながらその報告を聞くと、俺は安堵の息を吐いた。


「そんで、ヤツは何をやらかしたんすか?」


 怪しいからと城に連れ戻したらあれよあれよとベルゼに投獄されたアドラメレク。

 何も聞かされていないアスタロトは困惑の色を浮かべていた。

 言っていいものかと一瞬悩んだが、知らないままだとアスタロトも納得しないだろうと、今回の顛末を話すことにした。

 

「だからアイツもあんなに焦ってたんすねェ」


 俺の話を黙って聞いていたアスタロトが納得がいったように頷く。が、何か引っかかったのか頷くのを止め、じっとこっちを見てきた。


「でもサタン様を狙ってやがったんなら、なんだって日本なんかに行ってたんすかね?」

「さ、さあ……なんでだろうな」


 核心に迫る鋭いツッコミに思わず吃る。

 アスタロトは考え込んでいたようだが、すぐに「まァいっか」と顔を上げた。

 気付かれないように小さく安堵の息を漏らすと、アスタロトはとんでもないことを(のたま)った。


アドラメレク(本人)に聞きゃあ、ハッキリしやすしね」

「……え?」


 まずい。拙い拙い拙いっ!

 アドラメレクは俺が本物のサタンじゃないって知っているだろう。ほぼ確実に。

 それをアスタロトやベルゼの前で言われたら?

 ただの人間が、魔王の姿を借りて今まででかい顔していたってバレたら……?

 ……殺される。確実に殺される。

 それだけは阻止しないと! と意気込む俺を嘲笑うように、無情にもアスタロトが立ち上がる。


「そんじゃ、早速行きやしょうかねェ……って、どうしたんすか」

「な、なあ! もう遅いし、やめよう? なっ?」

「はァ? 遅いって、まだ八時じゃねェっすか。それに飯だってまだ――」

「そうだよ! 飯っ、飯食い行こうぜ! もう俺腹減っちゃってさー」


 怪訝な顔でこっちを見るアスタロト。

 いつもにない俺の勢いに、若干引いているのが分かる。

 い、いけるかっ……!?


「ほ、ほら理由なんかはベルゼがきっちり聞き出してくれるだろうし、俺たちは飯でも食ってのんびりしようぜ!」

「んー……まァ、それもそうっすね。今頃ベルゼ(アイツ)にぐっちゃぐちゃに拷問受けてんだろうし」

「え……拷問?」

「当然っしょ! 魔王暗殺未遂やらかして、ただでおけるわけねェし。それこそアイツが持ってる情報、一粒残さず搾り取るだろォなァ」


 なんてこのないように紡がれた物騒な内容に、思わず尻込みした。

 平和な国で育った俺には考えもつかない方法で行われているであろうそれを、まるで日常会話かのように話すアスタロトに今更ながら恐怖を感じた。


 今日のところは諦めてくれたアスタロトを引き連れて、彼ら用の食堂へと向かう。

 急に現れた俺に騒然となったが、それよりも何よりも、こうしている間にもベルゼが俺の正体に気付くんじゃないかと気が気じゃなかった。



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