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58. 焦燥感


 ラーナにベルゼを呼びに行ってもらっている間、俺はクローゼットから引き出した服を片っ端からベッドの上に広げて行った。


「メイドが呼びに来ましたが、如何され……なぁっ!?」

「ああ、ベルゼ。……もうちょっとこっちに来てくれ」

「ななな何故服を着てらっしゃらないのですか!?」


 ドアを開けるなり顔を青くしたり赤くしたり忙しないベルゼを急かす。

 ベルゼが言った通り、パンツ一丁なまま待機されてちゃ気まずいってことも分かっているが、俺も寒いんだ。早くドアを閉めてくれ。


「この服なんだが――」

「えっ……服、ですか?」


 訝しげに眉を寄せると渋々歩み寄って来た彼に、俺が今まで着ていた服を見せる。


「ここに魔法陣の様なものが縫い付けてあるんだ。これも、これもここに。……クローゼットの中のも全部見たが全部同じものが付いていた」

「これは……! 詳しく調べなければ分かりませんが、見たところ居場所を特定する類のものかと」

「居場所を?」


 現代でいうGPSみたいなものだろうか。

 服を用意しているのはアドラメレクだ。

 彼が用意した後に誰かが縫い付けた可能性もあるが、アドラメレクから服を貰い受け、クローゼットに入れるのはラーナだ。

 今まで見てきて、ラーナがそんなことをするとは思えないし思いたくない。

 だとしたら、まだ直接会ったことのないアドラメレクを疑いたくなるものだが……でも何故こんなものを……?


「実はアンドラスの件ですが、こちらに内通者がいる様なのです。それと最近分かったことなのですが、ベヒモスの怪我につきましても関与が疑われます」

「ええっ!?」


 頭を捻る俺に追い討ちをかける内容に、脳が悲鳴を上げる。

 内通者って、つまりスパイってことだよな?

 あれ? けどさっきの報告書には一言も書かれてなかった気が……。


「報告書に書くと相手に勘付かれる可能性があります。内密に進めるため、今回は報告書には記載しませんでした」


 俺の心が読めるのか、それとも俺が顔に出やすいだけなのか、俺の疑問は口にすることなく解決した。


「それじゃ、このことを知っているのは?」

「今のところ、私とサタン様、そして部下のフルーレティだけです」


 フルーレティ。

 ベルゼの下で働く、有能な部下だ。

 俺の秘密の部屋を作ってくれたのもこいつで、ベルゼからの信頼はあつい。

 頼りにされすぎてあちこち駆り出されているらしく、俺の中のイメージはさながらブラック企業の社員だ。

 ……ベルゼ、こき使いそうだもんな。


「アドラメレク、なのか?」

「ほぼ間違いなく。部下に調べさせたところ、最近妙な動きをしているとか」

「妙な動き?」

「はい。よく下界――日本という国に行っている様なのです」


 思いがけず出てきた「日本」という言葉に肩が跳ねる。

 これはもしかして、入れ替わる系の陣を使ったのもアドラメレクってことか?

 日本に行っているってことは、本物が危ないんじゃないか!?


 向こうの俺(サタン)に迫る危機にサアッと背筋が凍るが、今回ばかりはベルゼに伝える訳にはいかない。

 一人考え込む俺を見てベルゼは「何か心配事でも?」と問うた。


「い、いや何で日本に行ったんだろうなあって」

「そうですね……。何か狙いがあるのでしょうか」


 狙いって、もろサタンの命だよね!?

 これヤバい感じだよね!?

 顔から滝のように湧き出した汗で目が霞んでくる。

 あと少しで元の身体に戻れるのに!

 戻っても俺が殺され、戻らなくても俺の身体が死ぬ……八方塞がりじゃないか!


 俺の尋常じゃない焦り様に、何を思ったのかベルゼはふっと顔を緩める。


「ご安心下さい。サタン様が気に病まれることなど、万に一つもございませんので」

「で、でも……」

「そうですね……では、こちらをお持ち下さい」


 ポケットから出された物を受け取る。

 手の上に乗せられたのは、若草色の小石。

 意図が分からずそれを見つめていると、じんわりと温かくなってきた。


「熱を持ったのが分かりますか? 今私はサタン様に向けて魔力を放出しましたが、それが防いでいるのです。他にも悪意等を持った者が近寄ると、今の様に反応を示します」

「お守りみたいなもん?」

「ええ」


 じっと眺めていると、不思議と焦燥感はなくなっていた。


「……ありがとう」


 早速取り掛かると言ってベルゼが出て行ったドアに向かい、小さく呟く。

 俺がサタンのところに知らせに行くとしても、逆に事態は悪化する気がするし……このままベルゼに任せているのが一番いいのは分かる。

 分かるが……


 心配でそわそわする気持ちを抑えるように、俺は必死に掃除をした。

 掃除をしている間は何も考えずに済むからだ。

 気が付けば辺りは暗くなり、夜ご飯にラーナが呼びに来た頃、事態は一変した。


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