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55. 父親 Ⅲ


「えっ、何で!?」


 客間まで全速力で走った俺を待っていたのは、さっき置いて来たばかりのリリスとベルちゃん。

 どうやら、ベルちゃんの部屋から近道になる隠し通路があったらしくてそれで来たらしい。

 リリスが「遅いですわ!」と小声で言うと、ドアに耳を当てるベルちゃんへと目を向けた。

 視線に気付いたベルちゃんが首を振る。


「防音の力を使っている様で、全く。許可さえ頂けましたらすぐにでも押し入りますが?」

「あ、ああ! 頼むっ」


 頷いた瞬間、爆破されたかの様に吹っ飛んでいったドア。

 一瞬呆気に取られたが、宙に散らばる破片越しに見えた二人に、首を傾げた。


「……あ、れ?」

「おや。そんなに急がれて、いったいどうなされましたかな?」


 カップを置き、丁寧に俺に頭を下げるアンドラス。

 ラーナはその横に控えていて、特に危害を加えられた様子はない。

 自分の失態に気付き、サーッと顔から血が引いていく。


「すっ、すみ――」

「申し訳ありません。私が力加減を誤りました。別の客室に案内致しますので、そちらに移動願えますか」

「……ええ。勿論ですとも」


 俺の言葉を遮り、アンドラスに頭を下げるベルちゃん。

 代わって俺はオロオロするばかりで、自分に嫌気がさす。

 快諾したアンドラスを連れて部屋を出たベルちゃんを見送ると、どっと後悔が押し寄せてきた。


「ああぁあ……失敗した……! 大丈夫か?」

「…………」

「ラーナ?」

「えっ? え、ええ! 大丈夫です!!」


 飛び散ったドアの破片で怪我していないかと、ラーナに問いかける。

 一点を見つめて微動だにしない彼女の肩に触れると、弾かれた様に顔を上げた。

 だけどその顔は決して「大丈夫」だなんてものじゃなく、血の気が感じられない程真っ青で――


「わ、私、用事を思い出しました! 執事長の所に……!」

「ちょっ――」


 引き止める間もなく走り去るラーナ。

 部屋の前に立っていたリリスは、渋い顔のまま彼女が走り去った方向を見ていた。



    ◇◇◇◇◇



 結局ラーナは戻って来ないまま、アンドラスとサラの面会は行われた。

 テーブルを挟み、向かい合って座る二人。俺とベルちゃんはその様子を横で見守っている訳だが、空気がかなり重い。

 久しぶりの再会だというのに、サラは無表情のまま冷めた視線をアンドラスへと向けていて、ラーナの代わりにお茶を用意したボニーは困惑顔だ。

 正直、俺もサラの態度には驚いたが、その様子からリリスに聞いた話が頭を過ぎってどうにも複雑な気持ちになる。

 ……さっきもその噂を信じて失態を犯したばかりなんだけどな。


「私に会いに参られたとか。いったい何用でしょうか」

「ふふっ……どうやら私は娘に嫌われている様だ。長い事迎えに来てやれなくてすまなかった。ずっと行方が分からずにいたが……噂でここにいると知り、急いで来たんだ。……一緒に帰ろう」

「……お断りします」

「ふぅ。迎えに来るのが遅かったから、意地を張っているのかな? 帰って来ないとなったら、君の母さんも悲しむだろう」


 サラを見つめる顔は笑顔のままだが、どこか空気が張り詰めたものになる。

 何かを耐える様に、サラの視線が揺れた。


「っ、私は――」

「……彼女には今、仕事を手伝ってもらっているんだ。サラもそれで断ったんだろう?」

「は、い……」

「そうでしたか! いやぁ、そうとは知らず、お恥ずかしい所を……では、私は家で妻とのんびりと待つとしますかな」


 引いてくれたアンドラスに気付かれないように、ほっと息を吐く。

 家庭内のことだからあまり関与しない方がいいかと思ったけど、あまりにもサラが困っている様に見えて、思わず口を出してしまったんだけど……いいんだよな?


「……では、今日はゆっくりと休んでいただき、疲れを取っていただきましょう」

「おお、それはありがたいお言葉。ベルゼブブ様のご好意に甘えさせてもらいます」


 穏やかな顔で頷いたアンドラスを残し、その場は解散となった。


お待たせしました。

私生活の方が一応落ち着きましたので、これからちょこちょこ更新していきます。

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