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54. 父親 Ⅱ


 料理長のご飯はいつも美味しいけど、今日のはまた格別な気がした。

 昼食までの時間が長引いたってこともあるが、直前に嬉しい報せを聞いたからだろう。

 部屋に戻るために足取り軽く階段を登っていると、どこか悩んだ様子のリリスが下りてきた。

 向こうも俺に気付いて立ち止まる。


「何か悩み事か?」

「サラのお父様が見えたって聞きましたの。確か、ええっと――」

「アンドラス?」

「ええ、そうでしたね。アンドラス……どこかで聞いた覚えがあるんですけれど」


 うーん、と唸ってはいるが、やはり思い出せない様子。

 悩んでいると思ったのは思い出せずにモヤモヤしていたからで、今もベルちゃんに聞きに行くところだったらしい。

 もしかすると前に図書室で見た本に載っているかもしれないし、どうせなら俺も調べることにしよう。


 リリスと別れた俺は、予定通り一度部屋に戻ると、待っていたラーナを連れて図書室へと向かった。

 ラーナに淹れてもらった紅茶を飲みながらペラペラとページを捲っていくが、なかなか見つからない。

 あいうえお順に並んでいたらすぐに見付かるんだろうけど、残念ながらこれは役職順。

 身形は綺麗だったし、リリスも聞いたことあるぐらいだから平民じゃなさそうなんだけどなぁ……


「サタン様、サラさんがお戻りになりましたわ!」

「えっ、もう!?」


 本を睨みつけていると、ボニーがタイムアップを知らせに来た。

 父親が来たことはまだサラに伝えていないらしく、今は食堂にいるらしい。

 俺のせいで遅めの昼食になっている訳だし、邪魔する訳にはいかない。ボニーには食べ終わってから伝えるようお願いする。


「俺は一度ベルちゃんの所に寄ってから行こうかな。ラーナ、悪いけど先に客間に行って知らせておいてくれないか?」

「分かりましたっ!」

「頼んだ」


 二人を見送って、俺もベルちゃんの部屋に向かう。

 ベルちゃんは移動するのが面倒くさいらしく、仕事道具も全部自室に置いていて、普段は部屋に籠っている……らしい。

 いや、図書室とかでも色々教えてくれたし、普段も廊下とかで結構すれ違ったりするんだけどね。

 人の噂ってアテにならないよな。

 ベルフェゴール=怠惰ってよくゲームとかで言われるけど、実際ベルちゃん見て怠惰なイメージ全然ないしね。

 ……おっさんなのは正しかったけど。


 部屋の前に着いて、ノックしようと立ち止まると、目の前のドアが勢い良く開いた。


「きゃっ!! サタン様!?」

「ど、どうしたんだ? そんなに慌てて……」


 俺に飛び付いてきた形になったリリスを慌てて支える。

 ついどもってしまったが、決してその柔らかさに驚いた訳じゃない。……本当に違うからな?


「大変ですの! あの男、とんでもない男でしたわ!!」

「え、それはどういう――?」

「ああっ、何で忘れていたのかしら! あの男、フルカスなんかよりよっぽど残忍ですわ!」


 血相を変えて俺に掴みかからんばかりの勢いでリリスが話した内容は、とても信じられないものだった。

 拷問から始まり、強姦、虐殺まで――先程会ったばかりの優しげなあの男とはまるで結び付かない内容に目眩がする。


「け、けどサラの父親なんだろ? まさかそんな……」


 何かの間違いなんじゃ、と問いかけた俺に、ベルちゃんが首を振る。


「事実ですわ、サタン様。そもそも、本当にサラの父親なのかも不明ですが……」

「あ、ああ。サラに確認して――ああっ!!」

「きゅ、急にどうしましたの?」

「ラーナが今部屋にっ!!」


 一瞬にして顔から血の気が引いていく。

 走り出した俺の後ろで、リリスが何か言っていたが、慌てていた俺には聞こえなかった。



    ◇◇◇◇◇



 サタン様の申し付け通り、私は茶器を片付けてサラさんのお父様がいる客間へと向かっていた。

 サラさんは長い間フルカスに拷問を受けていたと言っていたから、お父様に会うのも久しぶりのはず。

 サタン様のお話だと、紳士然とした穏やか方らしい。

 もうすぐ再会出来る親子に、嬉しさと……羨ましさを感じる。


 私は、二度と会えないから……――


 一瞬、脳裏にお父さんの首を持つあの男が浮かんで、思わず足を止めた。


「……しっかりしなくちゃ。嬉しい席なのに辛気臭い顔はダメ!」


 景気付けにパチンと頬を叩くと、思ったより大きな音がして驚いた。

 周りを見回して誰もいないことを確認すると、安堵から思わず笑ってしまった。

 恐怖心からか変に力が入っていたみたいで、心なしか頬がヒリヒリする。赤くならないといいけど。


 そんなことを考えながらノックして、開けたドアの先――その黒を認識した私の身体は固まっていた。


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