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51. インクの跡


 秘密の部屋に移動した俺は、俺とサタンの中身が入れ替わっていること、そして俺が人間だってことを説明した。

 最初はラーナも俺がデタラメを言っていると疑って不機嫌そうにしていたが、いつまで経っても俺の「嘘です」が聞けないことから信じたようだ。

 突拍子もない話だから信じられないとは思うが、……俺の真剣な顔を見て信じてくれたんだと思いたい。


「で、でもそれじゃあ……お二人の仲は…………」

「どうした? 何か分からないことがあったら今の内に聞いてくれ」

「いっいえ! 何でもありませ――いえ。すみません、あの、では一つだけ。……サタン様にとって、サラさんは元の身体に戻るための協力者、という認識でよろしいですか?」

「ああ、そうだけど?」


 何故か喜んだ様子のラーナに首を傾げるが、それについての説明はなかった。


「――それで、本の内容を説明してもよろしいでしょうか?」

「あ、ああっ! 頼む」


 ラーナへの説明が終わるのを待っていたサラが、俺とラーナに見えるように本を開く。

 開かれたページには、複数の魔法陣が描かれていた。

 随分と古い本らしく、劣化した紙が所々破けているが、魔法陣は欠けていなくてほっと息を吐いた。


「――こちらのが、そうです」

「この魔法陣で戻れるのか!?」


 人間をこちら側に転移させる魔法陣、精神を乗っ取る魔法陣、魔物を召喚するための魔法陣――と、物騒な魔法陣が並ぶ中に、それはあった。

 俺の食い気味な問いにサラが頷く。


「はい。……ただ…………」

「ただ?」

「……こちらを」

「これは……、インク?」

「はい。見た所、まだ新しい。恐らく写を取ったときにでも付いたのでしょう。……上級の悪魔になると、この本に載っている大抵のことは魔法陣等使わずに行うことが出来ます。それなのに写を取ったとなると……」

「ええっ!? じゃあ下級の悪魔がサタン様に入れ替わりの術をかけたってことですか!?」


 ラーナの疑問にサラが目を伏せる。


「いえ、それが下級とは限らないのです。このページに描かれている魔法陣はとてもレベルが高く、上級の悪魔でさえ使用が難しい。なので……」

「上級か下級かは分からないが、誰かが意図してサタン()に術をかけたって訳か」


 きな臭くなってきた話に皆の顔が曇る。

 城の図書室に入ることが出来る人物……

 ベルゼやベルちゃん、そして城で働く使用人達――

 ……アスタロトは無さそうだ。いや、そう見せかけて、の線もあるのか?

 何の目的があって術を使ったのかは分からないが、好意的なものではないのだろう。


「……サタン様」

「……ああ、大丈夫だ」


 ラーナの心配する声で、思考の渦の中から戻って来た俺は、安心させるように強く頷いてみせる。


 入れ替わった理由はともあれ、これで元の身体に戻れるんだ。

 ――大丈夫。

 そう自分に言い聞かせる俺は、サラの顔が曇っていることに気が付かなかった。


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