05. ベルちゃんと図書室
「――えっと、レヴィアタンは水の中のヤツでで蛇っぽい……アドラメレクが服を選んでくれてて……ロバで孔雀……?」
ロバなのに孔雀とは何事だ。と、不安気な俺の呟きにベルちゃんが頷きで返す。
昼食後、まだ物が溢れ返っている俺の部屋を片付けると言うベルゼを残し、俺はベルちゃんと一緒に図書室に来ていた。
壁一面の本棚には、びっしりと本が並んでいて圧巻だ。ただ、足元に散乱している大量の本や文献がそれを邪魔し、混沌を極めている。
他の悪魔について知りたいと零した俺の為に、ベルちゃんが用意してくれた本を手にする。
本の上に座って勉強するというのも落ち着かないが、場所がないので仕方が無い。時間が出来たら片付けよう。
「アドラメレクは狡猾です。暫くは近くに寄らないよう、こちらも目を光らせますが、サタン様もご注意下さいね」
「あ、ああ。分かった」
他の悪魔が攻めてくるという、物騒な会話がフラッシュバックする。
記憶喪失だって事にしたけど、それ以上にもし人間だってバレたらどうなる事か。
俺が身震いしていると、寒いと勘違いしたベルちゃんがエアコンを付けた。なんかカビじゃない異様な臭いがしたけど……これ毒ガスとかじゃないよな?
「失礼。長い事使われてなかったので、どこかに虫が挟まっているようですね」
「え」
「まぁ、害はないので。それより、覚えられそうですか? 無理そうでしたら、会議は見送ってもよろしいかと」
「……見送って大丈夫な会議なのか?」
「大丈夫……だとは思いますが……」
「が?」
「怪しまれるでしょうね」
えええー!?
怪しまれて!? 暴かれて!? そのまま殺されるコースなのか!?
正直言って行きたくない。けど、行かないとヤバい気がするぞ!
「あー……まぁ……ベルちゃんやベルゼも参加するんだよな?」
「はい、勿論」
「なら……参加するだけして、危なくなったらフォローしてくれ」
「仰せのままに」
ラーナはメイドだし参加出来ないと思うけど、ベルゼとベルちゃんの二人は実力者だから確実だ。
この二人が助けてくれるって言うならなんとかなる。気がする。
そんな事を考えながら午後の時間を勉強に費やし、俺は寝室へと戻って来ていた。
ご飯を食べる為に簡易的なテーブルセットをベルゼが用意してくれたんだが、一枚板で出来ているらしく、簡易的って言えないくらい立派なテーブルだった。
夕食を食べ終えた俺は、食後のお茶を飲みながら部屋の隅に立つラーナを観察……もとい、話しかけるタイミングを見計らっている。
俺がサタンになってまる二日。ラーナと会話という会話をしていない。
本物のサタンだったら多分、メイドとは話さないもんだとは思うけど、この世界について何も知らない俺としては少しの情報でも欲しい。そもそもメイドが何する仕事なのかも詳しく知らないんだよな。
メイド同士で出る話題とか、使用人としての視線で気付いた話とか……ベルゼ達からじゃ聞けない話なんてのもある、かも?
「ひいっ!」
「……あ」
考え事の間、無意識にずっと見つめていたみたいで怖がらせてしまった。
更に離れた彼女との距離に焦る。このままだと、情報を聞き出すどころか、普通の会話も出来ずに終わってしまう。
「――な、なぁ、ラーナ」
「い、如何なさいましたか!?」
「カップをもう一つと、何か甘い物を二つ、持って来てくれないか?」
「ふ、二つですか?」
「ああ」
「はっはい! 少々お待ちを!」
不審に思いながらもすぐに用意しに向かった彼女の足跡が聞こえなくなるまで待って、一気に肩の力を抜いた。
「つっかれた……!」
ベルゼやベルちゃん達といる時も気が張るが、ラーナといる時は特にだ。
変な事を言っていないか、怯えさせる事はしていないか。常に考えながらの生活は、少しずつ俺の神経をすり減らしていった。
「――アイツ、元気にしてっかな」
ふと、頭に過ぎったのは幼い頃からの親友、拓磨の事。
小・中・高と同じ学校に通い、しかも家も隣同士という、テンプレのような幼馴染。これでお前が女ならなぁ、とお互い笑い合った事もあった。
俺が就職の為に上京した後も、たまに会えば本音で話せる、大事な親友なのだ。
俺が死んで、悲しんでくれたかな。なんてしんみりしてみたが、近付いてくる足音にすぐ現況を思い出した。
しんみりは何時でも出来る。まずは生き抜く為の情報収集だ!