47. 助けたい心
ビル達が手当てしている間、俺は辺りを探索していたんだが、ヤバいことに気付いてしまったかもしれない。
――上流の魚は、まともな色をしていた。
……水が澄んでいるからってことだよな、これ。
じゃあ俺が今まで食べてたカラフルな魚は? 汚染されまくってたってこと?
……料理長に悪意がないと信じたい。
他の生き物を見つけたり、少し上流に上ってみたりしていたら、知らない内にかなり集中していたみたいで、気付けばベルゼが生暖かい目で俺を見てた。
遊んでた訳じゃないからな!?
ベルゼに連れられて戻ると、ベヒモスは貧血でふらふらしていたが、それ以外は特に問題は無さそうだった。
いつの間にか医者を城から呼び寄せていて、診てもらったらしいから一安心だ。
怪我も大したことなかったし、それじゃあ帰るかってところで、ベヒモスがお礼をしたいと言い出して……今に至る。
すっかり日が沈み、丸い月が辺りを照らす中、俺達は焚き火を囲んで座っていた。
火の周りに設置された枝に刺された魚が、美味しそうな匂いを放っている。
魚は魔物達が取って来てくれたらしくて、襲われるとか疑ってたのが申し訳なくなった。
「どうぞ」
ビルが渡してきた魚を受け取り、一口齧る。美味い。
ベヒモスは魚だけじゃ足りなくて、よく分からない肉を食べていた。
「んでも助かりましただぁ。なーぜか眠くて眠くて」
「眠り薬でも塗ってあったんだろうな。川は汚れたが、薬が流れたのは僥倖だった」
「ほ?」
怪我しても寝てるなんて呑気だなって思ってたけど、そうじゃなかったらしい。
こんなにおっとりしてるベヒモスが狙われたことに、何とも言えない怒りが湧き上がってくる。
俺達は怪我の処置くらいしか出来てないけど、命は助かってよかった。
「それでは、そろそろ城に戻りましょうか」
「そう、だな」
俺の煮え切らない返事にベルゼが驚いた顔をした後、ふっと表情を緩めた。
「大丈夫ですよ。サタン様は何もお気になさらないで下さい」
「んですよぉ! 心配してくれただけで、十分過ぎますだ」
「…………」
怪我をしたベヒモスにまで気を使われている状況に情けなくなる。
そんな何とも言えない気持ちのまま魔馬車に乗り込んだ俺は、一人考え込んでいた。
誰が、何の為にベヒモスを傷付けたのか。
何かベヒモスにしてやれることはないか。
川だって明日から綺麗にしていかないといけないし……
ぐるぐると思考の渦にはまり込んだ俺の耳が、ふっと軽い笑い声を拾った。
顔を上げると、柔らかい笑みを浮かべたベルゼと目が合った。
「大分、慣れましたか?」
「え……ああ、うん。ベルゼにはいつも助けてもらってるし、皆にも……だからこそ、何かしてやりたいんだ」
急に俺の生活の話になって、少し焦る。
でもこうやってベルゼは、記憶が失くなったと言った俺をずっと気にかけてくれてたんだなって心が暖かくなった。
そしてそんな彼らに何か出来ないか、とも。
「もしも何も出来なかったと御心を痛めておられているのでしたら、それは違います。サタン様が川を綺麗にしたいと願い、行動に移したからこそ今回のことが判明しましたし、この後のことを考えることが出来ます」
「だけど……」
「フルカスの件もそうです。貴方の行動で救われた者が沢山いるのですから」
ベルゼの言葉に目頭が熱くなる。
誤魔化す為に、フルカスの今後についてどうするかと話を振ったが、思わぬ結果を知ることになった。
「フルカスなら、北部の炭鉱で働かせております」
「えっ、貴族なのに!?」
「爵位を剥奪し、平民としましたので」
えええぇぇえ!!?
いつの間にそんなことしてたのベルゼ!?
全然気付かなかったんだけど! ていうか俺魔王なのに何にも聞かされてなかったんだけど!?
それはそれで複雑だけど、これ以上マーガレット達みたいな被害者が増えないならいい、のか?
涙も早々に引っ込み、さっきと違う悩みで唸り出した俺を、ベルゼが面白そうに眺めていたのに気付かなかった。
ベヒモスは草食らしいですが、うちのベヒモスは雑食です。




