44. 冴えない顔
サタン視点です。
自分で言うのも何だが、このオレ程カミサマに嫌われてる男はいねーと思う。
天使から悪魔に落とされたと思えば、今度はよりによって人間。
その全部の原因に人間が関わってるっつーんだから、人間なんてホント碌なもんじゃねえ。
鏡に映る、見慣れた冴えねェ顔。
髪をセットする間抜け面に思わず吹き出した。ウケる。
この人間――トール・サタの身体に入って、早いもんでもう半年が経った。
人間のフリなんざやりたくなかったが、この身体で殺されちまったら今度こそ拙いから仕方なくだ。
最初こそ人間生活に不慣れなこともあったが、一緒に住むトールのバァさんや幼馴染だというタクマからの意見を取り入れ、今では完璧に擬態出来ている。流石はオレ様。
パソコンとやらも使いこなせるようになったし、日々の情報収集はバッチリだ。
城に戻るときにパソコンも持って帰ってみるか。
パソコンといえば、こないだトールが「掃除したらいい事がある」って力説してたから早速調べてみた。
玄関を水拭きしたら運が良くなる。便所を掃除したら金が貯まる……
確かに、これが本当なら凄ぇと思うが、なら何でアイツはこんな厄介事に巻き込まれてんだって話だ。
死なずに入れ替わったってとこが唯一の救いか?
とにかくアイツは他者を信用しすぎるきらいがある。
今回のことだって、得体の知れない女を信じてペラペラと……
入れ替わりの件だって、誰かが裏で糸を引いていたのは確実だっつーのに、アイツは疑ってすらねェんだろうな。
仕組まれてなきゃ、このオレ様がそんじょそこらの人間に召喚されるかってんだ。
テメェの脳ミソは豆腐で出来てんのか、って……今はオレの身体だったぜ…………
と、とにかく、それはベルゼブブも気付いてんだろうし、一先ず様子見だな。
リビングに出てみれば、テーブルの上に朝食が置いてあった。
今日はデイサービスの日らしく、横に「行ってきます」と書かれたメモが置いてある。
トールの人の良さは間違いなくバァさん似だと思う。間違っても母親じゃねぇ。
本来なら、悪魔とは無縁の善良さ。
尤も、非常事態にはどうか分からねぇが。
それでも頭ん中煩悩が詰まってんのが常の人間としては、やはり珍しい分類だろう。
それになにより、バァさんの味噌汁は美味い。
食べ終えた皿はいつもテーブルの上に置きっぱなしにしているんだが、何故か今日は違和感を感じた。
重ねた食器を流しに持って行くが、また何もない流しに食器があるのが気になる……
仕方ねぇから洗おうと袖を捲って――まずはパソコンでやり方検索すっか。
サタン様は透のばあちゃんにしっかり胃袋掴まれてます。




