42. 報告会
夜。
普段なら後はベッドに入るだけの時間だが、今日の俺にはやるべき事がある。
今朝サラと話した内容をサタンに伝えることだ。
風呂上がりで乾ききらない髪の水分を頭に掛けたタオルに吸わせながら、部屋の外の音に聞き耳を立てる。
もう寝るからと、ラーナを部屋から出して十分くらい経った。
廊下からは何の音も聞こえないし、気配も分かる限りではない。と思う。
足音を殺してドアから離れると、目を閉じて集中する。
いつもこっちに戻って来るときは意識を集中させるだけだから、それの逆も出来るんじゃないかと思ってこの前こっそりやってみた。
結果は無事成功。
部屋の中にサタンはいなかったからそのまま戻って来たけど、これでサタンの気分が向くのを、ついでに肉料理が出るのを待たなくてよくなった。
……そもそも俺の隣に座っていた、サタンを召喚したって人は、電車の中で呼び出すくらいだから他に召喚の仕様がありそうなんだけどなぁ。
転移が終わったのを感じて目を開くと、布団に横になったままこちらを見つめる――全裸のサタン。
嘘だろ。この人全裸で寝るタイプの奴かよ。
ごめんばあちゃん。気まずい思いさせてるみたいだ。
……身体が戻ったら布団買い替えよ。
それにしても――
「お、どうした」
「……サタン様」
部屋の中をぐるっと見回す。
前回来たときより部屋が汚ったなくなっている。
渋面を作った俺を見て、不思議そうに首を傾げたサタン。
口から出そうになる呆れや怒りの声の代わりに溜息を吐き出す。
「サタン様、片付けましょうよ」
「ハァ? 何で俺が。何のメリットがあってそんなことしなきゃなんねェんだよ」
「アスタロトは片付けて嫁さん手に入れましたよ」
「はぁ!? いつの間にそんなことに……! アイツが嫁を、ねェ……」
顔に驚愕を浮かべて俺に詰め寄ってきたサタン。
自分の身体だけどまずはパンツを穿いて欲しい。目の毒だ。
「それに今は人間の身体なんですから、あまり不衛生だと身体壊しますよ」
「ああ、こないだ初めて熱を出したぜ。最近は咳も出っし、マジ人間って軟弱だよな」
「ほら! 言わんこっちゃない。それに、その身体のまま死んじゃったらどうするんですか! 戻れなくなりますよ!!?」
「む……」
早めに気付けてよかった!
身体に戻れなくなるのも嫌だし、戻れても訳分からん病気にかかってたりする可能性もあった訳だ。
必死に説得したのが幸をそうし、サタンも納得してくれたみたいだ。
「それじゃ、早速しましょうか。まずは服を着てください」
「い、今からかよ」
「勿論です!」
一人ではしそうにないし、どうせアスタロトのときみたいに掃除の仕方も知らないパターンなんだろう。
腕捲りした俺に、サタンは嫌そうな顔を隠しもしない。
元に戻れるかもって報告する前でよかった。
報告してからだったら、絶対にしてくれなかったと思う。
「俺も戻らないといけないので、とりあえず二時間! 頑張りましょう」
「げ……まァそんだけなら」
「暫く、今日と同じくらいの時間に来ますので、片付くまで頑張りますよ」
「はぁぁあ? 嘘だろ……」
「何日かかるかはサタン様の頑張りにかかってますからね。さ、始めましょうか」
決められた時間だけ、仕方なく。
そんな気持ちがありありと見てとれたから釘を刺しておく。
そんなに広い部屋じゃないし、荒れてからそんなに日にちも経ってないから、遅くても明日には終わるだろう。
やっとやる気になったサタンに気付かれないように、俺は口元を緩めた。




