表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/66

04. ノーマルな男


「終わったあぁぁあ!」


 風呂に入り、ベッドに倒れ込む。やっと一人の時間だ。

 ベルフェゴール――ベルちゃんからの探りを躱しながらの掃除は、時間が何倍にもなったように感じた。

 ただ人数が増えたからか、思っていたよりも早く荷物の整理は終わった。明日は床の汚れの掃除なのだが、またあの時間が始まるかと思うと気が重い。


 今日一日で分かったのは、サタンの右腕がベルゼで、ベルちゃんが左腕っぽいという事。

 ラーナみたいにメイドとして働いているのは下級悪魔だという事。


「――あれ? そういえば、俺自分の部屋と風呂場くらいしか知んないじゃん」


 この家……いや、城の中の事も把握もしないといけないだろう。

 ベルゼは何もしなくていいと言っていたけど、来週あるという会議についても予習しておかないと。


「大変だなぁ……」


 その言葉を最後に、俺の意識は沈んでいった。



 ◇◇◇◇



 次の日、憂鬱な気持ちと共に椅子の部屋――王の間っていうらしい――に行くと、そこにはピカピカに磨かれた床と、革の張り直された玉座があった。

 後から入ってきたラーナも驚いた顔をしているから、彼女の仕業ではないようだ。

 綺麗になった床や壁は、大理石らしく、高級感のある光沢を帯びている。


「すげぇ……」

「王の間って、こんなに広かったんですね……あ! すみません! 悪い意味はないんですっ」


 思わず、といったようにラーナが呟く。それ程までに、片付いた王の間は圧巻だった。


「おはようございます、サタン様。お気に召したでしょうか?」

「ベルゼ! これ、お前一人でやったのか!?」

「はい。気に入らない所等ありましたら、何なりとお申し付け下さい」

「すげぇ! すげぇよベルゼ! 大変だっただろ!? ほんっと、ありがとうな!」

「なっ!?」


 さらりと言ってのけるベルゼに、思わず抱き着く。

 背中に羽根が生えているけど、この人やっぱりいい人だ!

 

「あーもう、ベルゼ大好きだ! ……あ、」


 興奮のあまり抱き着いたまま叫んで、動きを止めた。

 ベルゼの向こう側、扉の前に顔を驚愕の色に染めたベルちゃんが立っていたからだ。


「……サタン様が女に関心を示されないと思えば……そういう事ですか。()()()に走られたんですね……」


 そっちってどっちだァァア!

 俺は普通にノーマルだ! ベルゼも顔を赤くして固まるな!


 やっとの事で誤解を解いた頃には、もう昼食の時間だった。


「昼食はこちらでとられますか? それともダイニングルームで?」

「そうだな……ダイニングルームにしよう。案内してくれ」

「案内?」


 少しずつでも周りの悪魔の顔を覚えなくては。そんな事を考えていて、忘れていた。ベルちゃんがいる事を。


 俺の言葉を不思議そうに繰り返す彼女。

 助けを求めようとベルゼの顔を見ると、小さく首を振り、真剣な顔でベルちゃんを見据えた。


「ベルフェゴール、話がある」

「なに、急に畏まって」

「お前は、誰にも話さないとサタン様に誓えるか?」

「そりゃあ……逆らったら怖いし」

「誓えるのかと聞いている」

「はいはい。誓うわよ。で、何? 何を内緒にしたらいいの?」

「サタン様が記憶喪失された」

「――は?」


 あれ? これデジャヴ?

 ベルゼのカミングアウトに、動きを止めたベルちゃん。

 しかしすぐに「いや、でも」とか「それだったら」とか独り言を言い始めた。


「納得しました」

「ベルちゃん?」

「これは一大事ですね」

「ああ。くれぐれも他のヤツに知られる訳にはいかねぇ」

「ええ……王の座を狙って馬鹿が攻めてくるかもしれないわね」


 ええええ!?

 そんなに危ないの!?

 あっさりバレちゃった俺の演技力で大丈夫か!?

 心の中で叫びまくってる俺を知ってか、ベルちゃんが安心させるように微笑む。


「大丈夫です、サタン様。私達がしっかりサポート致します」

「まぁ、コイツも滅多な事では裏切ったりはしないでしょう。安心して下さい」

「そ、そう? それじゃあ、よろしく……?」

「はい!」


 ベルゼの後押しもあり、ベルちゃんに笑いかける。

 思っていたより大変なサタンの立場に逃げ出したくなるけど、大丈夫だよね? 大丈夫だよね俺!?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ