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37. お茶会 Ⅱ


 アスタロトの部屋の前まで来たマーガレットの顔色が、心做しか悪く見える。

 前の部屋のイメージが悪すぎたからだろう。

 過去に戻れるなら、俺もあの状態の部屋には二度と入りたくないもん。


 マーガレットの様子に連られてか、何も知らないサラまで不安そうだ。

 安心させるために俺が話しかけようとするが、アスタロトは気にせず、ドヤ顔で開け放った。


「――ううっ……わぁっ!」


 反射的に目をきつく瞑り、身体に力をこめるマーガレット。この後やってくる腐臭に備えるためだろう。

 だが、綺麗に片付けられた部屋からは、勿論そんな臭いがするはずはなく――

 恐る恐る目を開けた彼女が驚きの声を上げた。


「す、凄いです! 違う部屋みたいっ」

「へっへっ、そうだろ!?」


 言いたいことは分かるが、違う部屋みたいもなにも、完全に別の部屋だからな。

 前は担いで連れて来られたから分からないかもしれないが、別の階にある別の部屋だぞ。


 ……まぁ、喜んでくれるのは、頑張りが認められたみたいで嬉しいからいいけど。


 褒められて嬉しそうに胸を張るアスタロト。

 サラは彼女が何故こんなに驚いているのか分からずに、キョトンとしている。


「これ、アスタロト様が?」

「ああ、頑張ってたよ」

「なぁっ!? ……俺一人じゃムリだった。サタン様やベルゼブブ、他の奴らが協力してくれたからこそ出来たんだ」


 彼女の前だからって威張らずに、正直に申告したアスタロト。

 こいつ、見た目ヤンキーだけど、敬語の使い方分かってないけど、全然大公爵っぽくないけど! ……実はちょっといいヤツなんだよなぁ……


「確かに、俺達も手伝った。が、それはこいつが真面目に取り組んだからだ。やる気がないなら誰も協力しなかったよ」

「お、おおっ……!」


 瞳を潤ませるアスタロトに連られて、俺の目頭も熱くなる。

 すぐに座るように促して誤魔化したけど、隣のサラには気付かれた気がする。慈愛の笑み的なの浮かべてるし。

 は、恥ずかしい……


「ま、まあ何というか、し仕切り直しだ。このケーキ美味いな」


 特に弄られることもなく(そもそも俺サタンだから弄られるはずがないが)、気が付けばアスタロト達はすっかり二人だけの空気を放っていた。

 このまま二人がくっ付いてくれたら嬉しいが……今俺達って邪魔者?


 このまま二人きりにした方がいいのか、でも外聞が……と、一人悶々としていると、いつになく真剣な表情のアスタロトがマーガレットの手をとった。

 あ、これはもしや――


「なァ、俺の子を産んでくれねェか?」


 いっ、いきなりそれ!!?

 まだ付き合ってなかったよね!?え、まだだよな!?

 それとも悪魔って付き合う文化ないとか!?


「……っ、はいっ!!」


 マーガレットもマーガレットで頬染めて嬉しそうにしてるし、え、これでいいのか!?


 彼女――いや奥さんを抱き締めて、嬉しそうにサムズアップしてくるアスタロトに、俺は引き攣った笑みしか返せなかった。


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