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36. お茶会


 丸いテーブルを囲む顔は全部で四つ。

 俺とアスタロト、マーガレットにサラだ。

 暫く意識が戻らなかった彼女だが、アスタロトの部屋を片付け終わった日に無事目を覚ました。

 傷の治るスピードが誰よりも早かった彼女は、丸一日安静にしていただけで体力的にはすっかり元気になった。


 茶会を開くにおいて、三人だけだと閉鎖された会になりすぎる。

 ないと思いたいが、三人だけだと変な噂が流れたときに否定出来ないため、身内以外のサラを加えての会となった。


 先の理由と同じで、茶会は中庭で行う。

 暫く茶を飲みながらゆっくりして、頃合を見てアスタロトの部屋に移動する形だ。


 楽しそうに話すアスタロトとマーガレットを見て、安心から深く息を吐く。

 実際やってみるまでは、仲人がこんなに大変だとは思わなかった。

 親戚のお節介おばさんの苦労を思いがけず知った俺は、元の身体に戻れたら少しは労ろうかと……やっぱり、変な気を回されても困るからやめとこう。


「――サタン様、どうかなされましたか?」

「ん? ああ、何でもないよ。花が綺麗に咲いてるなぁって」


 横に座るサラからの問いに、ふと目に入った花を差した。

 少し前まで雑草だらけだった中庭は、庭師が随分張り切ったらしく、今では色とりどりの花が咲き誇っている。

 パッと見たところ、前生えていた牙の生えた花は見当たらないから、やっぱりアレは抜いてよかったんだと思う。


「本当……とても綺麗……」

「何の花が好きなの?」

「え、その……サクラ、という花が好きです」

「おお! いいね、桜。俺も好きだよ」


 桜を選んでくれたことが日本人として嬉しくて、思わず大きな声で返して驚かせてしまった。


 この庭には植えられてないこととさっきのサラの言い方から、桜がこっちでは珍しいものなんだと分かり、チラリとアスタロトの方を見るとマーガレットとの会話に夢中で気付かれていなかったみたいだ。

 一先ず安心。だけどベルゼとか他の人達がどこで聞いてるか分かんないし、これからは慎重にしないと。


「サタン様もサクラがお好きなんですね。実物を見たのは随分前に一度きりなのですが、他の花にはない可憐さと、散るときの儚さが忘れられず」

「ああ。知ってる? 桜には色々な種類があるんだ」


 シンプルな一重に豪華な八重、枝垂れ桜なんてものもあるんだ、と説明するたび瞳を輝かせるサラ。

 何で知っているのかって質問には正直に答えられないから、昔本で見たってことにしておいた。


「私もいつか――いつか、見てみたいです」

「……そうだな」


 穏やかな風が、彼女の柔らかそうな茶髪を揺らす。

 静かに微笑んだサラに、何故か心の奥がきゅっと締まった気がした。


「――ゴホンッ!」


 かなり態とらしい咳払いに顔を向けると、ジト目のアスタロトと目が合った。

 思ったより時間が経っていたらしく、先に行って準備してくれてたラーナが窓から心配そうに見ている。


 二人に移動することを説明して、アスタロトの部屋に案内する。

 その移動中も、アスタロトはマーガレットの腰に手を回したりしていて、なかなか親密な雰囲気を醸し出していた。

 ……ひょっとするとひょっとするかもしれない。


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