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32. ありのままで


 ベルちゃんのオッサン姿に目が点になった俺を、ベルちゃんが面白そうに笑う声が聞こえた。

 ……いや、こんな事してる場合じゃなくて二人を止めるべきなんだろうけど、美女とオッサンの落差が凄くて。

 鉄壁の美人よりこの姿の方が妙に愛着湧くけど、安心感あるけど!

 一度美女の姿を知ってしまったら……何だかなぁ。


 サタンが「俺の前では女の方の姿でいろ」って命令した事があるらしいけど、その気持ちも分かる気がする。


「女の姿になりましょうか?」

「……大丈夫。ありのままで」


 見た目は美女、中身はオッサン……いや、外がオッサンで中が美女か?

 ……分からんくなってきた。


 遠い目になったところで、後ろのラーナから軽くつつかれた。早く二人を止めろってことらしい。


「なぁ、ベルちゃん。喧嘩の原因は何なんだ?」

「そうですね……確かサタン様の手を煩わせるなとか何とか……まぁ、彼等の仲が悪いのはいつもの事なので、目に余らない程度でしたら放っておいて良いかと」

「ちなみに目に余る程度って?」

「サタン様に危害が加わる事全般、城の倒壊、死者多数。この程度でしょうか」


 放っておいていいレベルが結構高いんだけど!

 城倒壊って何。

 それもう喧嘩ってレベルじゃないよね。上層部の悪魔数名が住む場所無くすんだけど。

 ……とりあえず声だけ掛けておこう。


「おーい二人とも! 喧嘩はやめろー!」


 よし、これで体裁は保たれる。はず。

 かなり棒読みになったけど、後ろから圧力を感じるけど! 二人の間に入るとか俺には無理だから!!


 ツッコミに体力を使ったからか、俺の腹が「くぅー」と悲鳴を上げた。

 そろそろ本気で何か食べたい。


「二人はもう食事は済ませたのか?」

「いえ、来た時には既にこの状況でしたので」

「ラーナは?」

「わ、私もまだです」


 二人の返事に頷くと、厨房の隅で震える料理人に駆け寄った。

 俺の姿を見て肩が跳ねる料理人。

 安心させるために出来るだけ優しく微笑んで――


「オムライス三人前っ!!」

「お、オムライスですか!?」

「ああ、玉子はふわとろで頼む」

「まさかっ、サタン様が食べられるのですか!? 今料理長を呼んで参ります!!」

「ああ、ちょっと待って」


 慌てて俺担当の料理長を呼びに行こうとする料理人の腕を掴む。


「料理長を待ってる余裕はないんだ。君が作ってくれないかな?」


 一分でも一秒でも早く何か食べたい。

 早く早く! とせっつくと、決意を固めた顔で料理に取り掛かる。

 素早い手際に「ほぉ」と声が出た。


 考えてみたら、彼だってベルゼ達のご飯を作るのを認められた料理人なのだ。下手なはずがない。

 不味くてもいいから早く、と考えていた自分を恥じ、心の中で謝っておく。


「お、お待たせ致しました! オムライス、三人前です!!」


 自分の分の皿を運び、比較的無事な席に座る。

 なんかベルゼ達から視線を感じたけど無視だ、無視。

 俺が促して座らせると、ベルちゃんからは溜息、ラーナからは困惑した瞳を向けられた。


「さ、食べようか」

「ちょっ、待てよ! ふつー止めるなり何なりすんだろ!? いや、するでしょうが!」

「そ、それにサタン様、ここは貴方様が来られるような場所では――ああっ! 毒見もしていない物を! すぐに料理長を呼んで参りますので、手を付けずにお待ち下さい!!」


 いただきますの姿勢のまま、駆け寄って来た二人を見る。


「止めただろ。一応。それからベルゼ、これは俺が頼んで作ってもらったんだ。俺はこれを食う」


 毒を入れる様子もなかったし……はっ! 最初からスプーンとかに毒が塗ってある可能性もあるか……いや、俺は彼を信じる!

 ベルゼに睨まれて今にも倒れそうな料理人に向けて親指を立てる。あ、倒れた。


「なに寝てんだよ! どっかの誰かが邪魔してきたせいで腹ペコだぜ。俺も同じのでいいからさっさと作れよ」


 倒れたばかりの料理人を叩き起こして、同じテーブルに座ろうとするアスタロトに眉を顰める。


「それより先にすることがあるだろ?」

「え?」

「……片付けて参ります」

「ほら、アスタロトも」

「えっ、えっ? 俺、腹ペコなんだけど!?」

「なら早く片付けて来るんだな」


 俺に一礼すると、ベルゼは椅子に縋り付くアスタロトを引っ張って行く。

 未練がましく俺の皿を見ていたが、本当片付けないと食べれないと分かると全力で(ベルゼにぶつぶつ文句を言いながら)片付け始めた。

 うん、美味い。


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