30. 触れてはいけない
ぽかんと口を開けたサタンと見つめ合うこと数秒。
「悪ィな、お楽しみ中だったか」
にやりと口角を上げたかと思うと、そんな事を宣った。
「えっ、えええ!? ちがっ、風呂に入ってただけです!!」
「ハッ、別にそんなに慌てねェでも――……もしかして”マダ”なのかよ?」
「え? ちょっ、違いますって! 確かに今はいないけど、前に彼女いたことあるんですからっ」
「へぇえ? まァそうしといてやるか」
極悪顔でくっくっと笑うサタン。
中身が違うだけでこんなに悪人面になるのか、俺。
変なところで感心していると、笑い飽きたのかサタンがノートパソコンを持って近付いて来た。
「――いい話と悪い話、どっちから聞きてえ?」
「え?」
真剣な色を含んだサタンの言葉に、少し考える。
わざわざ俺を喚んだってことは、結構重要な話なんだろう。
俺の返事を待つ間も、どこか落ち着かないような、そわそわとしているように感じられる。
「そ、それじゃあ悪い話で」
「…………いや、ここはいい話からだな。そうだろ? いい話から聞きてェだろ?」
そんなにまずい話なの!?
一瞬口を開くが言い淀んだサタンに、悪い予感がビンビンする。
それ以上粘っても無駄な空気を感じて大人しく頷くと、少しホッとした顔でパソコンの電源をいれた。
「アイリとはうまくいきそうだぜ」
「…………は?」
「テメェの友達のタクマに聞いた。高校で一緒のクラスだった女だ」
なんでここで高校のクラスメイトが出てくるんだ?
首を傾げながら開かれたパソコンを見ると、そこには川村愛梨とのメールのやり取りが。
「明後日楽しみ――って……どういう事?」
「ああ、明後日タクマとアイリとタクマの彼女と出かけんだよ」
「なっ!?」
ダ、ダブルデートってヤツかーッ!!?
俺もした事ないダブルデートかぁぁああ!!
なんで俺が城の掃除してる間にコイツはリア充してんだよ!
不条理にフリーズした俺に追い討ちをかけるように、サタンがにやりと笑う。
「童貞は捨ててきてやるから安心しろ」
「だから違うって――っ!!」
叫んだ俺を見てまた笑い始めたサタンを、ジトっとした目で見て笑い終わるまで待つ。
「……それで、悪い話ってのは?」
「あ、ああ……落ち着いて聞け。あのな、……ゴブリンのまま死んだぞ」
「……は?」
一呼吸置いて、それが前の創作小説の話だと気付く。
「このままじゃヤベェ」だとか「他に手は」だとかブツブツ呟くサタンを見て、思わず吹き出す。
全然大したことじゃなくて、良かった。
気が抜けて、ふと見た先にあったパソコン。
そこに見付けた文字に、驚愕した。
「あ、あの、コレハナンデスカ……?」
「ん? ああ、それな。サイト見てたらいきなり金払えってページが出てきてな。訳分かんねェから抗議のメール送ったんだよ」
「それ詐欺だから! 触れちゃダメなやつだから!!」
お客様のご利用金額は〜と長々と書かれたメール。
所々怪しい日本語で書かれたそれに、盛大な溜息が出た。
お金はまだ払ってないみたいだし――というか五十万も払えないし――ひとまずアドレスを変えておく事にした。




