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28. 残したい物


 掃除用の服に着替え、ゴーグルとマスク、軍手を装着した姿で、俺とアスタロトは彼の部屋の前に立っている。


 ちなみに、今着てる服はこないだベルちゃんと外に行った時に買った『つなぎ』だ。

 アドラメレク(洋服係)が洋風なものしか選んでくれないから、久しぶりに見たそれに興奮して迷わず買ってしまった。ずっと部屋着で使ってたから着慣れてるしね。


 持ってる服は全部お気に入りだと渋ったアスタロトにも貸してあげたから、俺が黒でアスタロトがカーキのお揃いコーデ(笑)だ。


 散らかり具合が半端なかったため付けたゴーグルとマスクで何処ぞの探検隊みたいになっているが、今から挑むのは正に魔境。

 下手したら戻って来れないかもしれない。物理的にも精神的にも。


「『いる物』はこっち、『いらない物』はこっち、『悩み中』や『よく分からない物』はこっちの袋に入れていって」

「……やっぱ捨てねェとダメっスかね?」

「別に強制はしないよ。彼女を部屋に入れたくないならな」


 自分達の重装備に怖気付いたのか、及び腰で聞いてきたが”彼女”って単語を聞いて表情を引き締める。

 俺に怒鳴られたのが少しは効いたのか、微妙な敬語で話しかけてくるようになった。

 最初会った時もうちょっとマシな敬語だった気がするけど、もう気にしない事にした。


 ていうか、アスタロトは今まで普通に()()部屋に入ってたんだから、そんなに怖がらなくてもいいと思うんだけど。



 数分前、部屋の前で待っていたアスタロトは、俺の姿を見るなり頭を下げた。

 一応自分でも片付けようとしてみたらしいんだが、そもそも片付けの仕方を知らなかったらしく、助けを求めに来たという事だった。

 まぁ、知ってたならこんな部屋にはなってないはずだから、当然っちゃ当然なんだけど。


 その決意が揺るがない内に! と早速繰り出して来た訳だけど、ドアを開ける前から弱気になったアスタロトのために一つ楽しみを与えておく事にした。


「もし、マーガレットが城にいる間にこの部屋が片付いたら、お茶会をセッティングしてやるよ」

「マジっスか!? ちなみにそれっていつまで?」

「予定ではあと一週間位だな。出来るか?」

「おう! よーし、頑張るぜェ!」


 再びやる気を取り戻したアスタロトが勢い良くドアを開けた瞬間――俺は一瞬、立ったまま意識を失った。


「ぐっ……ゴホッ!……なんだこの臭いは……!!」


 マスクをしてるのに鼻をつく喉が焼けるような臭い……もう何と表現したらいいか分からないが、とにかく強烈な臭いがすぐに意識を取り戻させた。

 部屋の持ち主はケロッとした顔のまま、廊下に雪崩込んで来た物を拾って『いる物』の袋に入れている。

 ガスマスクが必要だったと悔やみながらも、全部『いる物』に入れるアスタロトの腕を掴んだ。


「ちょーっと待った! それは『いる物』の袋だよな? なんでお菓子の空箱が入ってるんだ!?」

「だって何かに使うかもしんねェじゃねっスか」


 ――お菓子の空箱に破れたタオル、そして極めつけはプラスチック製の何かの破片。

 パッと見ただけでも、全部『いらない物』に見える。

 俺はその中から破れたタオルを取り出すと、よく見えるように広げた。


「例えば、マーガレットが汗かいていたとして――お前はこれで彼女の顔を拭けるか?」

「えっ?」


 穴が開き、端の方はカビてるタオルの上をアスタロトの視線が彷徨い……無理だと告げた。


「それじゃ、さっきの空箱。もし彼女と結婚したらここで一緒に暮らすんだろ? そんな家でお前はこの箱に何を入れる? 婚約指輪でも入れる気か?」

「なっ!? んな訳……ッ!」

「だよな。その箱は大事な物を入れたくない、『どうでもいい物』なんだ。何の基準で捨てるか分からないなら、()()()()()()に『いる物』――彼女に見られたり、使われてもいいような物だけを残すようにしたらどうだ? 捨てる物を選ぶんじゃなくて、残す物だけを選ぶんだ」


 ゆっくりと、アスタロトの目を見て説明する。

 俺の話を聞いて実際に想像してみたのか少し顔を歪めた後、袋の中身を全部『いらない物』の袋に詰め替えていた。


「それじゃあ、始めるか。完全にゴミだと分かる物は捨てるが、基本的に分別はアスタロトの仕事だ。間違っている物を捨てちゃったら困るからな」


 頷いたアスタロトが今度こそ『いらない物』袋に地層になったゴミを入れていくのを見て、ほっと息を吐いた。

 吸い込む時に盛大に咳き込む事になって、部屋に入った後の事が怖くなった。


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