27. 娘と父と仲人と。
「不自由はしてないか?」
「はい。お料理もとても美味しく……私も父もとても良くしてもらってます」
「それはよかった」
マーガレットに当てがった客間のソファに、向かい合って座る。彼女の隣には父親のジーモが座っている。
独身女性と二人きりになるのはダメだと思って隣の部屋から呼んだんだけど、ずっと生暖かい目で見てくるんだけど。気まずいんだけど!
多分、本当は彼女達から俺に会いに来させないといけないんだろうけど、ベルゼ達も居ないしアスタロトには見付からないようにしないといけないしで、まぁいい事にした。
アスタロトにはつれない態度のマーガレットも、俺には普通に接してくれている。
そういえば、二人の年齢差についてベルゼに聞いてみたんだけど、魔力が多い人は老けるのも遅いらしい。
執事のロナルドが俺よりも遥かに若いって聞いて、かなりびっくりした。
いや今はそんな事より……
「あー……その、何だ。アスタロトは、その、大丈夫か?」
「えっ……」
「嫌な事されたりしてないか?」
「えっと……」
困った表情のマーガレット。視線を右に左に動かして、何か言い淀んでいる。
まさか俺に告げ口すると報復されるって思ってるとか?
「そ、その、急に担がれるのはちょっと……」
だろうね!
普通に考えてそれはアイツがおかしい。
全面的に同意するため、何回も頷いた俺に安心したのか、マーガレットはほっと息を吐いた。
「それに関してはしっかり注意しておいた。二度と無いようこちらも目を光らせておくよ」
「ありがとうございます。……あの、」
「ん?」
「そもそも何故、私に……? 何かお気に障る事を致しましたでしょうか……?」
「はぁっ!?」
不安げに問いかけてきた彼女が、俺の声に肩を跳ねさせた。
え? ていうか、えっ!?
何で付き纏われてるか気付いてない感じ!?
アタックしても振り向いてもらえないって嘆いてたけど、そもそもアタックって気付かれてなかったってこと!?
「えーっと、その……いつもアスタロトからは何て?」
「確か、部屋に来いだとか楽しいことしようだとか……廊下でお会いしたら、手を引っ張って連れて行かれそうになりました」
まさかとは思ったけど、そもそも好意を伝えてなかったとは……
マーガレットもちょっと鈍いみたいだけど、昨日の今日でまたあの部屋に連れて行こうとするなんて、怖がるはずだ。
「その……お茶をするとしても、出来れば綺麗なお部屋がいいと言いますか、その……あのお部屋では、何も口に通らないと思うので」
うんうん、紅茶を飲むどころかむしろ意識すらも保てない――って、今何て?
「それって、綺麗な部屋でだったらお茶してもいいってこと?」
「はい? 特にお断りする理由はないと存じますが」
きょとんとした顔で首を傾げるマーガレット。
え? これ上手くやれば二人くっ付く系じゃないか?
曖昧に笑って誤魔化した後、そそくさと退散することにする。
部屋を出る前にジーモの方を見たら笑顔で頷いてきたんだけど、どういう意味なの。
父親ってこういう時何か言うもんじゃないの? そんな対応でいいの!?
俺父親でもないし、むしろ彼女もいなかったし? ジーモの気持ちは分かんないけど!!
……あ〜、なんか無駄に気を使って疲れちゃったよ。
ムカつくからアスタロトには黙って――――
「あ、」
上手くいきそうな気配に「爆ぜろ」なんて思いながら部屋に戻っていると、俺の部屋の前に座り込む緑色が目に入った。
座り方はヤンキー座りなのに、その姿からは何故か哀愁が漂っている。
床を見つめて石目をなぞる様子に捨てられた子犬のようなものを感じた俺は、大きく溜息を吐くと諦めを乗せて足を踏み出した。




