24. fall in love
医務室に並べた寝台に寝せられ、腕に点滴を繋げられた三人の女性。
数日前までは只の埃被った部屋だったのが、きちんとと機能している。
薬品なんかも期限切ればっかりだったから買い足して、今使われているのはどれも真新しい物だ。
ちゃんと綺麗にしてて良かったと安堵するも、使わなければならない事態が起こった事に複雑な気持ちになる。
三人の間を慌ただしく行き来する医師の男。
採血する腕は骨と皮だけの状態で痛々しい。
タオルを濡らしたり、指示された薬品を用意したりと自分が出来る範囲の事をしていると、控え目なノックの音が聞こえた。
「失礼します。サタン様、少しよろしいでしょうか?」
フルカス邸に行く前よりもくたびれた様子のラーナが、ドアの隙間から覗いていた。
「どうした?」
「お二人が今回の礼をしたいとの事で」
「分かった。案内してくれ」
意識が無い女性達を起こさない様に静かにドアを閉めると、ラーナの後に続いた。
マーガレットは魔馬車の中で意識を取り戻したそうだ。
やはり囚われていた間禄な食事をしていなかったとの事だが、三人と比べ軽傷だった彼女は医師に診てもらった後、風呂に入ったり食事をしたりする時間を与えていた。
胃を驚かせない様にお粥やスープといった物が主だったようだが、しっかりと完食したと報告があり、一先ずは安心した。
玉座の間に行き、玉座に座って二人を待つ。
すぐにベルゼに連れられてジーモとマーガレットがやって来た。
ベルゼは俺の後ろに、二人は俺の前へ来ると膝を付いて深々と頭を下げた。
慣れない光景に思わず引き攣る顔を引き締めて、顔を上げるように告げた。
「今回は災難だったな。フルカス公爵には釘を刺しておくが、何か仕掛けてくる可能性もある。暫くはここに留まるといい」
「は、ははぁ! 有難きお言葉!」
王様っぽく言ってみたが、これから何を言えばいいのか分からない。
どうしようかなと苦笑を浮かべていると、返事に合わせて伏せたジーモの頭が小刻みに震えだした。
「ジーモ?」
「サタン様、この度は、この度はっ! 本っ当に有難うございました!!」
ジーモの瞳から涙が床に流れ落ちた。
隣にいるマーガレットもそれに合わせて頭を下げる。
「……俺はただ立っていただけだ。礼ならこのベルゼブブに言ってくれないか?」
そう――今回俺はただ立ってただけ。
全部ベルゼのお陰なのだ。
「なっ、何を申されるのです!?」
急な俺の言葉にベルゼが慌てて飛び出して来た。
顔が見える位置に来たベルゼと向かい合う。
「今回、お前のお陰で沢山の人が救われた。ベルゼが居てくれて良かった」
「サタン様……ッ!」
どさくさでベルゼにお前って言っちゃって、少し後悔するが本人は気にして無いみたいだ。良かった。
ベルゼがガシッと俺の肩を握ってきた時、大きな音を立てて玉座の間の扉が開いた。
俺もベルゼも音がした方を勢い良く振り向いて、何というか……某お笑い芸人みたいになった。
「あ? 何してんだ、皆集まって」
「…………アスタロト。何しに来た」
「んだよ。ひっさしぶりに謁見者が来たって聞いたから、物好きの顔でも拝もーと思って……な――――」
ずかずかと大股で入って来たアスタロト。
ニヤニヤとした顔が二人へ――いや、何事かと振り向いたマーガレットへと向けられて、そのまま動きを止めた。
彼女の波打つ亜麻色の髪が、廊下の窓から入る陽の光を受けて輝く。
驚きから見開かれた、髪と同じ色の大きな瞳から一粒、涙が零れた。
アスタロトの心が撃ち抜かれた音が聞こえた気がした。




