22. 救出作戦
ジーモが休み無く歩いて二日間かかった道を、三台の魔馬車が駆けて行く。
俺とベルゼが一台ずつ、そしてジーモとラーナの分だ。
漆黒の馬には短い角が生えていてペガサスの様だが、その瞳は赤々と禍々しい光を放っている。
普通の馬車に乗った事が無いから比べ様が無いが、その速さは多分電車と同じくらいだろう。
地面を駆けている様に見えるが、よく見るとその脚も空を蹴っていて、舗装されていない道でも中の俺達が揺れる事は無かった。
「魔王様、本っ当に有難うございます!!」
俺が用意をする間に風呂に入る様に言い、小綺麗になったジーモが髪の少ない頭を下げるのを止める。
何しろ初仕事。どうなるかは分からない。
何も解決していない状態でこんなに感謝されると、プレッシャーがやばい。
「私が最初にフルカス公爵と話します。サタン様はくれぐれも――」
「分かった。頼む」
俺が話せばボロを出してしまう。
そう心配して告げるベルゼに素直に頷く。
実際にサタン本人と会ってみて分かった。バレる。絶対にバレる。
話し方は真似たとしても、「俺がサタンだ!」と言い張るには威厳も自信も圧倒的に足りない。
俺の記憶がどうとかより、人間だって事までバレる可能性がある。
そもそも、もし喧嘩とかなったらどうしたらいいか分からん。
俺一応魔王だし? 喧嘩は売って来ないとは思う、っていうか思いたいけど、人間界の常識は通用しないかもしれないし……
灰褐色のフルカス邸を見上げる。
本来なら、王直々にあちこちに行く事はあまり無く、寧ろ魔王城に呼び寄せるらしいんだが、今回は相手が来るまで待つ余裕も無く、俺も空いた時間が有り余ってたため、魔王が直接フルカスの家へ行く事になった。
ちなみに、事前連絡もしていない。
何故しないかと言うと、今回ここを訪れた目的――ジーモの娘を助けるためだ。
ジーモとその娘は、フルカスが治めるこの地で商業を営んでいた。
いつもの様に店先で接客していた娘を、通りかかったフルカスが馬車で拉致。ただいま絶賛監禁中だ。
ジーモが言うには、フルカスには悪い噂が絶えないらしい。拷問して楽しんでいるなんて噂もあるみたいで、急に訪問するって知ったら何をするか分からない。
公爵家相手に返せとも言えず、途方に暮れていた時に思い出したのが、最近商人の間で話が出た俺の事だった。
「魔王城で使われていた家具が安くで手に入る」と今回とは関係のない内容だったが、何故か行かなきゃならないと直感があったそうだ。
「娘を守れないなら生きていても同じだ!」と藁をも掴む思いで俺に会いに来た、との事だった。
藁程度の信頼しか無いのが虚しいが、自分を頼って来てくれた人を見捨てる事はしたくない。
もしフルカスが噂通りの男だった場合、娘が拷問されている所を見たくないだろうとジーモにラーナと一緒に馬車で待つ様伝えたが、よく考えると父親が一緒に来た方が娘さんも安心するかもと思い直した。
俺達が現れたのを見て、絶望して舌噛み切っちゃったりしたら目も当てられないからね。
医療用具を手にし不安気なラーナに、危険だから馬車の中に居る様に伝え、大きく息を吐き出す。
「――よし、行こうか」




