21. 百五十年ぶりの仕事
秘密の部屋にあるソファに身体を沈めて、深く息を吐いた。
召喚されたのはいいが、戻るのに苦戦した。
当然初めて召喚された俺が戻り方を知る筈が無く、サタンに聞いてみたんだが……
最後に呼ばれたのは数百年前、しかも適当に戻っていたと言うサタンのアドバイスの当てにならないこと。
だからって反論しても怖いから、素直に従ったんだけどね。
サタンの言う適当が、魔力を練りながら行きたい場所を想像する事だと気付いて、なんとか城に帰り付いたのは朝方で。
しかも初めて自分で魔力を使ったから、もう……疲れが……
うつらうつらしながら、眠気覚ましのコーヒーを飲む。
流石に、徹夜の理由を説明するのは無理だ。
今日は早めに寝ようと決めて、三杯目を炒れようと立ち上がった時、部屋の外から慌ただしい声が聞こえた。
◇◇◇◇
まだ外も暗く、毎朝恒例の怪鳥の鳴き声もまだ聞こえない頃。
俺は一人の老人と向かい合っていた。
名前はジーモ。
城から四日の距離を休み無しで歩いて来たというジーモは、服も靴もボロボロで痛々しい。
本来なら朝を迎え、俺が起きるまで待つのが規則なのだが、只事では無い彼の様子に困った門番が将軍のサタナキア、そして執事のロナルドに報告。
ロナルドがラーナに俺の様子を聞きに来た所で、俺が部屋から出て来た、と。
「それで? こんな朝早くに城を訪れねばならない理由とやらをお聞かせ願いましょうか」
「まぁまぁ。丁度俺も起きてたし。そんなに気にしなくて――ふぁぁあ」
「サタン様!? くっ、やはりもう一度寝られてからでも――」
つい欠伸してしまい、慌てたベルゼが俺をもう一度寝る様に勧めてくるが、そういう訳にもいかない。
何と言っても、俺の初仕事。そして約百五十年ぶりの客なんだからなっ!
「気にするな。それより、ジーモ。何があった?」
「ああああのっ! 聞いて頂けるので!?」
「もちろん」
怯えるジーモを安心させる様に、優しく微笑みかける。
効果があったのか、ポカンと口を開け、呆けた顔になった彼をベルゼが急かした。
「き、今日はお願いがあって参りました」
「お願い? 何だ?」
「あ、あの、娘を……」
「はっきり言え!」
「娘をお助け下さいっ!!」
イライラ最高潮のベルゼの言葉に、ジーモが頭を下げながらも大声で言い切った。
今度は逆に俺がポカンとする番で。
「――えっと、その……まずは話を聞こうか」




