20. 裏と表
目の前が真っ白になった。
ベルゼの心配してる場合じゃなく俺が倒れたとかいうオチじゃなくて、本当に視界いっぱいが真っ白に光っている。
眩しさを感じて目を細めたら、その一瞬で体が引っ張られた感覚が襲った。
驚いて見開いた俺の目に映ったのは――散らかったばあちゃん家の部屋に……
「……テメェか。オレの身体使ってるヤツは」
――俺の身体。
「え、ええええっ!? お、俺!? いや、サタン……様?」
思わず指差して叫んでしまい睨まれた。
俺に睨まれてもそんなに怖く……って、髪型オールバック似合わないな、俺!
「つーことは、テメェは佐田 透だな?」
「は、はい?」
「オレを呼んだヤツは死んだか。クソッ、こんな事に巻き込みやがって」
ブツブツと――多分俺の隣に座ってた、サタンを召喚した男に文句を言うサタンに、躊躇いながらも口を開く。
「あの、俺は死んだ筈じゃ?」
「あ? 生きてんだろ、こうして。まァ、四日くれェ昏睡状態だったらしいがな」
「四日も!? ま、まぁ生きてて良かったけど……何でばあちゃん家に?」
「……テメェのババアから追い出されたんだよ」
生死の境を彷徨ってた息子が、目覚めた口が悪くなってたら驚くわな。
脳の検査とか色々してみて、結局一時的な記憶障害と判断された、らしい。
容態が回復して家に連れ帰ったはいいが、反抗ばっかするサタンに業を煮やして、田舎のばあちゃん家に連れて来られたのだと聞いて頭が痛くなった。
やばい。
「俺はサタンだ」とか「入れ替わったんだ」とか色々言ったみたいだけど、周りから見たら完璧イタいヤツだから!
三十手前にして中二病発病しちゃってる人にしか見えないから!!
それから母ちゃん、知らないとはいえ爆弾をばあちゃんに預けるのはやめてくれ……
というか、母ちゃんババアって言われてキレただけだよね、絶対。
「……まァいい。で、どうやったら元の身体に戻れるかだが、オレに考えがある」
「あ……」
そうか。
俺の身体とサタンの中身が生きているんだから――
元に、戻れる。
そう考えると、一瞬、頭にベルゼ達の顔が浮かんで、少しだけ、ほんの少しだけ寂しい気持ちになるが、すぐ頭を切り替える。
悪魔と人間。佐田 透の人生の中で会う筈が、いや会ってはいけなかった人達なんだ。
これ以上、俺が知らない所で黒歴史が増えない内に――
「ちょっと調べてみたんだがよ、こう……ぶつかったりしたら元に戻るらしいぜ」
「え? ぶつかる?」
「パソコンっつー凄ェ機械に色んな経験談が載ってたぜ」
「…………」
「豚やゴブリンと入れ替わったヤツもいるみてーだったし、まだ人間で良かったぜ」
……うん。まだ戻れなさそうです。
ネットで見た創作の小説を信じ込むサタンに頭を抱える。
流石に間違いを指摘出来ないよね。めっちゃ目がキラキラしてるし。「豚のまま最強になったんだぜ」とかしっかり楽しんでるし!
……いつか創作だと気付いてくれる事を信じて、こっちはこっちで情報を集めてみよう。
「ちなみに、オレ様の呼び方もそれで調べたんだぜ? 肉が必要だっつーから大変だったわ」
「に、肉!? 大変だったって何が!?」
嫌な予感がして慌てて辺りを見回すが、散乱した服の他には血が飛び散った跡も、事切れたばあちゃんの身体も見当たらず、安堵の息を吐いた。
「バァさん、唐揚げにするって聞かなくてな。生のままでいいって言ってんのによ。……テメェが唐揚げ好きだったから、これ食ったら記憶が戻るかもって泣きながらよォ。年寄り泣かせてんじゃねーよ」
あれ? 意外といいヤツ?
俺の足元の魔法陣の上に、皿に乗った唐揚げを見付けてついつい頬が緩んだ。




