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02. 汚部屋の掃除


「サタン様、ゆっくり休まれましたか? ……ひぃっ!? 」


 ベルゼの声に振り返ると、何故か怯えられた。

 とりあえず持っていた骨を握り潰して袋に詰めると、ベルゼの方へ歩み寄る。その度にベルゼは後ろに下がって行くんだが、どうしたと言うんだ。


 歩きやすくなった部屋を見て、満足げに微笑む。

 部屋の隅に置かれたパンパンに膨れた袋の数が、今までの大変さを物語っていた。


 ベッドで骨を見付けてからというもの、俺は一心不乱に部屋を片付けた。何時間そうしていたか分からないが、ベルゼが呼びに来たという事は、もう朝なのだろう。

 俺も昔は汚部屋に住んでいた頃があったが、一度片付けてからは逆に潔癖と言っていいレベルで綺麗好きになった。

 そんな俺のスイッチを押すには充分な程、この部屋は汚すぎた。


「サタン様……!」

「なんだ?」

「目がっ……目が……!」

「目?」


 ベルゼの声に壁に掛けてあった鏡を見て、自分でも驚いた。

 隈ができた目は血走り、心なしか顔もゲッソリして見える。顔や体には何かの液体が返り血の様に付着していて、ホラー映画のゾンビみたいだ。


「……ふっ、ハハハ!」

「サタン様?」

「ハハッ! ベルゼ、どうだ。大分片付いただろう? 後少し……後少し片付いたら風呂に入る」

「入浴ですか……?」

「まさか……風呂場もこんなに汚れているという事はないよな……?」

「ひっ!? よ、用意致しますぅ!」


 この顔の迫力に負けてか、ベルゼが走り去って行く。

 これで綺麗な風呂にあり付けるだろう。

 綺麗になった床を、見た事のない虫が走るのが見え、反射的に踏み潰してしまった。

 ……この靴は掃除が終わったら捨てよう。


 それから数時間経ち、寝室は見違える程綺麗になった。

 ベッドも本当は買い変えたいけど、ここは天日干しで我慢。シーツとか洗える物は後でまとめて洗おう。


「サタン様……入浴の用意が出来ました」

「そうか。いいタイミングだ」


 怯えた様子でドアの隙間から見ているベルゼに笑いかける。

 風呂の準備にしては随分時間がかかっているが、それだけ汚かったのだろう。


「案内してくれ」


 一番綺麗だと思う服をベルゼに渡し、彼の後を付いて行く。後の服は全部洗濯機行きだ。

 脱衣場ではベルゼと入れ代わりでメイドさんが待っていて、俺の服を脱がそうとしてきたが、断固拒否して出て行ってもらった。

 そして風呂! 広い! 露天風呂だ。

 所々汚れは目に入るが、まぁ及第点だろう。


「あぁ、生き返る……!」


 肩までしっかりと浸かり、体を伸ばす。

 お湯の色が紫がかっているのは、汚れなのか魔界だからなのか。


 上空を飛ぶガーゴイル風の魔物(モンスター)を眺めながら、ぼんやりとこれからの事を考える。


 この世界の常識が分からないのは不便だ。

 不便だけで済めばいいが、周りは悪魔や魔物だらけ。何が起こるか分からない。


「ベルゼに言って、色々教えてもらうのが一番だよなぁ」


 言うにしても、何と言うか。

 本物のサタンさんが死んじゃったかもって事は絶対に言えない。という事は、自分が人間だって事も言えないし……


「あぁもう!」


 考えてもいい案は見つからなくて、お湯に腕を叩き付ける。

 記憶喪失って事にして、後はもう、なるようになれだ。



 ◇◇◇◇



 風呂から上がり、ベルゼに連れられて寝室へと戻ると、さっきのメイドが頭を下げて待っていた。赤いお下げ髪が揺れる。


「申し遅れました。今日からサタン様の身の回りのお世話をするラーナです」

「は、はじめまして! ラーナと申しますっ。不束者ですが、よろしくお願いしますっ」

「ああ、よろしく」


 異常な怯え方を見せるラーナに、笑いかけてみた。かなり引きつった笑みが返ってきて、少し悲しくなった。


「あの、サタン様! 朝食は如何がなさいますか?」

「そうだな……食ったら寝るから、スープとか軽いのを適当に持って来て」

「はっ、はいぃ! 少々お待ち下さいませぇ!」

「……なぁ、ベルゼ。あの子いつもあんな感じなの?」


 ラーナの姿がなくなってから、ベルゼに聞いてみた。


「いえ。どうやら前のメイドを殺された話が出回っている様ですね」

「殺された?」

「はい。茶を零したからと、殺されたではありませんか」


 だからか!

 だからあんなに怯えていたのか!

 合点がいき、すっきりしたと同時に、これはチャンスだと閃いた。このまま、この流れで……


「実は昨日から記憶喪失になっちゃって、全部忘れちゃった。テヘッ」

「……は?」


 流れに身を任せて言い切った。少し間を開けて聞こえたのは、ベルゼの間抜けな声と、食器が割れる音。

 俺とベルゼが勢い良く振り向いた事で、音の主、ラーナは腰を抜かしてしまった。


「女、今の話……」

「わ、わたくしは何も聞いておりません!」

「サタン様、申し訳ございません。早急に新しい使用人を用意致します」


 ベルゼが殺気を放ちながら彼女へと近付いて行く。

 これやばいやつだ。ゲームとか漫画だと殺されちゃうやつだよね!?


「ちょ、ちょーっと待った!」

「サタン様? 何故お止めになるのです。この手の秘密は知る者は少ない方がいい。貴方様に危害が及ぶ事も有り得るのですよ?」

「そうだな。それは分かる。だから二人共黙っててくれるよね?」

「は、はい! 勿論です!」

「……はぁ。サタン様、甘すぎます。もう甘々です」

「とりあえず、危害が及んでから殺すって事で! それまで保留!」


 本当に殺したくなんかないけど、こう言っておけばラーナも話さないよね? 大丈夫だよな?


 一応ベルゼも殺気を収めてくれたし一安心だ。

 何時までこの状況が続くか分からないけど、住み良い環境作り頑張るぞ、俺!


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