17. 泥のように眠る
「――終わったぁー!」
魔王城の中で、俺が掃除出来る範囲は全部終わった。
俺が出来る範囲っていうのは、それぞれの部屋だったり、軍部が使っている塔を除いた部分の事だ。
人の物には手を付けない! これは鉄則だ。
自分にとってはゴミでも、持ち主にとっては宝物かもしれないしね。
――そういえば、前に同僚が奥さんから趣味のプラモデルを捨てられたって嘆いてたなぁ……
その点では、入れ替わるのがサタンで良かった。もしベルゼとだったら、勝手にサタンの物捨てる訳にはいかなくて、ずっとストレスだったと思う。
中庭や庭園も一応片付けたんだけど、庭について詳しくないし、ゴミ拾いだったり雑草を抜いたりと、地味に腰を使う作業の繰り返しだった。
雑草に混じって生えてた牙のある花も抜いちゃったんだけど、良かったんだよね?
この世界の鑑賞用とかじゃないよね?
おびただしい量の物が並ぶ正面玄関前で叫ぶ。
ここまで長かった……!
本当は城周辺も綺麗にして回りたいけど、とにかく一段落だ。
全ての事について体が資本。無理はいけない。
後はこの大量な物をどうするかなんだけど、ここにこのまま置いてていいらしい。
処分するか換金するかは分からないけど、ベルゼの部下達がどうにかしてくれるらしい。
汗を拭って、協力してくれた人達を見る。
最初は四人で始めた掃除も、終わる頃には大人数になっていた。
ロナルドが無事帰って来て安心したのか、次の日から使用人の参加者が増えたのだ。
……やっぱり俺に近付くのは怖いのか、寄って来なかったから指示は全部ラーナ越しにしたんだけどね。
「皆、ありがとう。皆が手伝ってくれたおかげで、随分早く終わる事が出来た」
「サタン様……っ!」
一先ず城の掃除が終わった事の達成感が凄い。
ベルゼも同じみたいで、少し涙ぐんで見える。
……俺も人の事言えないが。
「三日休み、今度はこの城周辺を綺麗にしようと思う。繰り返すが、強制じゃない。ただ、手が空いた者はまた手伝ってくれると助かる」
「……お、おぉぉお! 勿論ですとも!!」
「そうね。大変だったけれど、綺麗になっていると清々しい気持ちになれるものね」
ロナルドの叫びを皮切りに、それぞれが言葉を発する。
家臣も使用人も一様に盛り上がる様に、心の奥に温かい物を感じた。
「よし、今日は皆で打ち上げだ! 食堂で盛り上がるぞ!!」
「サ、サタン様!? それはちょっと……」
「ん? 無理か? それなら――」
皆で食堂でどんちゃん騒ぎしようと提案したが、使用人達の腰が引けてしまったみたいだ。
俺用の食堂じゃなくて、他の家臣達も使える食堂なんだが、無理強いは良くない。
こういうのがパワハラになるんだよな、確か。
なんてサラリーマン時代を思い出して遠い目になりながら、いくつか提案したが全部断られてしまった。
仕方ないから後で俺用料理人の特製ケーキをラーナに使用人小屋まで届けてもらおう。
◇◇◇◇
風呂を上がり、濡れた髪をタオルで乾かしながら明日の事を考える。
三日ある休みの初日、明日はベルちゃんと外に行ける事になったのだ。
休みと言っても、本当に全員が城からいなくなってしまえば、大変な事になってしまう。
例えば、魔王の座を狙う不届き者が、労することなく城を占拠してしまうのだ。これは避けたい。
特にベルゼとベルちゃん。
二人がいなくなってしまうと、戦力も激減だ。
でも俺はどうしても譲れない事があった。このお掃除計画の一番の功労者、ベルゼに休みを取らせる事だ。
言い出しっぺの俺より、ベルゼはずっと働いてくれていた。むしろいつ休んでるのと聞きたいくらいに。
俺の傍にいたら、色々と手を出して休まる事はないだろう。
そして考えたのが、俺が城の外に出る事。
一人じゃ不安だからベルちゃんにも着いてきてもらうけど、俺も外を知れるしベルゼも休める。つまりウィンウィン!
この世界にも買い物する所があると聞いてたし、ずっと行ってみたかったんだよなぁ。
久しぶりに買い物出来る喜びとここ数日の疲れから、俺の意識はあっという間に沈んでいった。




